サンタ推参!聖夜滅殺(メリークリスマス)!
聖なる夜に雪が舞っていた。恋人たちは天からの祝福に酔いしれ、一人者は悪天候に舌打ちをする。大抵の家族は暖かい家の中でささやかな団欒を満喫していた。
教会では救世主の誕生を祝い、LEDライトとロウソクの明かりの下で祈りを捧げていた。木製のベンチが二列並べてあり、そこに人が通れる隙間を空ければそれだけで一杯になる小さな教会。しかし信徒らに不満はない。場所などどこでもいいのだ。祭壇に立つ、あの方さえおられれば。
穏やかな表情をした青年だった。歳の頃は20代の後半であろうか。緩く波打つ長髪の色は黒。うっすらと髭の覆う口は微笑みを湛えている。その慈愛の象徴のような立ち姿、まさしく救世主。彼の下で一心に祈る時、信者達は浮世の困苦を忘れ去り、天国の存在を確信するのだ。
深夜に差しかかる時間であったが、老いも若きも、幼子は睡魔に負けぬよう眼をこすり、老人は曲がった背を出来る限り伸ばして、来る最後の審判に救いが訪れるようにいよいよ熱心に祈るのだ。
その静かな熱気に満ちた冬の夜、思わぬ来客があった。
木製の古びたドアがきしみと共に開かれる。振り返った子供が歓声を上げた。それもそのはず、彼こそクリスマスのもう一人の主人公。ある意味キリストよりも有名な存在なのだから。
恰幅のいい老人だった。ふさふさした白い髭は胸元まで隠し、髪も帽子に積もった雪と同じくらい真っ白。紅白の鮮やかな衣装を金ボタンでとめた体は着ぐるみのようである。
何より目立つのは背中に背負った大きく白い袋。子供たちは物欲しそうな目をそちらにくれる。夢の詰まった大きな大きな袋だ。
祭壇の救世主は一瞬目を丸くしたが、すぐに両手を広げてこの珍客を長年の友人の様に迎えた。元より教会は来る者を拒まないし、それが世界中の人気者なら尚更である。
「やあ!ようこそ我らの家へ、サンタクロース」
破顔してドアまで老人を迎えに行く救世主にサンタは答えて曰く。
「そういう君は救世主」
「その通り」
青年の答えを聞いた老人の行動はこれ以上無く素早かった。ビヤ樽のような腹の脂肪に巧妙に隠した赤いホルスターから紅白の色も目に痛い44口径サンタリボルバーを抜き、目の前のスリムな顔に照準。同時に撃鉄を起こし、グリズリーを一撃で必殺せしめる巨弾をその中心に打ち込んだ。
帽子の雪が衝撃で舞い落ちる。
片手で構えたにも関わらず微塵もブレない銃身から発射されたサンタマグナムが顔面の三分の二をごっそりと吹き飛ばし、ついでに奥の壁にかかっていた十字架を真っ二つにする。
時間が止まったような静寂。銃声の残響だけがゴシック調の屋根の内側に木霊する。残っていた顔の三分の一が首に着地し、ぐちゃりと音を立てた。死体がゆっくりと倒れ、石畳の床に鈍い音を残して転がった時、思い出したように悲鳴が上がった。
「きゃああああーあああ!!」
「お前何を、なんということを!」
「黙れ悪い子共!今何の日か言ってみろ!」
子は泣き叫び、女は絶叫の後卒倒し、男達は怒り狂う。サンタは眉一つ動かさないままで仁王立ちしていた。
サンタの問いに人々は当然のように答える。
「「クリスマスだ!我らの救世主の誕生の日!」」
その答えを聞いて、サンタクロースは初めて表情を変えた。
「なるほど、そうだろう。そうだろうな、お前らにとっては」
地獄の悪鬼も青ざめる、赤き憤怒の表情に。
おもむろに袋から紅白に彩色されたサンタkpー31短機関銃を抜き出し、弾倉が空になるまで斉射する。乾いた発砲音と薬莢の落ちる甲高い音に合わせて踊るように人が倒れていく。
「だがよく聞け悪い子共!」
怒りのままに咆哮する。
「今は2月だ!クリスマスは石器時代に終わった!」
その言葉に生き残っていた信者が反論する。
「それがどうした!我々にとっては今こそがクリスマスだ!我々の救世主の誕生日なんだ!」
サンタ堪忍袋の緒が切れる音が確かに聞こえた。
「反省の様子見られず。了解したクソ偽クリスチャン。貴様らへのクリスマスプレゼントだ!」
元来たドアから寒空に飛び出し、指を鳴らす。8000トナカイ力サンタトナカイ2頭の引く戦略サンタソリからサンタ焼夷散弾ミサイルが8本発射され、それぞれ48の子弾をばら撒きつつ着弾した。
爆発的火炎が吹き上がり、質素な教会が真っ赤にデコレートされる。
聖 夜 滅 殺
業火を背景にサンタソリが浮かび上がる。この日一つの生誕祭が永遠に葬られた。それを嘆く者はもういない。
ソリは黒煙を突き抜け、彼方へ飛び去って行った。