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ムーン・インターネット  作者: ちな ていた
10/15

地球人の転換室にて

 月面基地には、獣目から隔てられた空間がある。それが月面基地中枢統制室である。この部屋は、ヒューマノイドたちに、任務難度によつて分配されている知的快楽を、調節している。

 知的快楽。すなわちサイバー・エクスタシーは、グロースシュタットから高度一万メートルほど距離がある月面基地で、管理されていた。その点が薔薇猫にとつて不可解だつた。

 というのも薔薇猫がまだ仔猫の頃、さらに詳しくは、サイバー・スクールに通学していた頃、教壇背後のホワイト・ボードに映されているムーン・インターネット・システムの投映をみながら、こんなことをふと疑つた。

 サイバー・エクスタシーが、俗世を捨てた『月光市民』、つまり『サイバー・プログラマー』のプログラミング結果であるならば、その管理施設は、グロースシュタット内に建てられるべきではないのか?なぜ、サイバー・エクスタシーの『産出地点』と『管理地点』を異にしているのか?

 これら淡い疑念が、思考枠内に墨汁を垂らした。しかしおうおうにして、これに類する『些細な疑』は、経過すると漉され、無色透明になる。薔薇猫もその例外ではなかつた。

 あれから十年が流れさつた。

 禿鷲が、『地球人のヒューマノイド化を目的とした転換室』そのセキリュティー・ドア前で、暗号解読に苦しんでいた。

 それを横目に薔薇猫は、記憶の泥濘に沈んでいた上の疑をおもいだした。

 それは予感を導いた。予感は曖昧模糊の水面をきらめく、ひとつの神妙だつた。

「ああ、もうなんなんだよ!答えられるかよ!」

 禿げているくせに、頭髪を梳いている鷲手は、『笑つてください』といわんばかりの媚態のようである。まるで噛みあわない歯車のように、上嘴と下嘴がゆがんでおり、だから薔薇猫は入力画面をのぞきこんだ。


Antworten sie die folgende Frage!

Nachdem Otuhime ihre ende Wörter zu Hikobosi widmete, verlöschte sie sich in wo?



 薔薇猫はこの機械言語をみたとき、自己嫌悪をもよおした。

 理性的王道の学問、つまり数学を極めた母親と、それが苦手な薔薇猫が、ここにいない無数の他者によつて、天秤にかけられているような心地がした。母親の価値は重く、私の価値は軽い、その白明なる事実を、衆目の軽蔑に晒されている気がした。

 心臓の鼓動は、激しく脈打つていく。

 『大丈夫、大丈夫、大丈夫』と御経のように、心のうちにて繰返しながら、

「どんな意味なの?」

 とコンピュータ・プログラミング専門家の禿鷲に質した。

「以下の問いに答えよ。乙姫が彦星に別れのことばを告げた後、かの女はどこへ消えたのか?」

 機械翻訳的にこたえた禿鷲は、血色をとりもどして、

「分かる?」

 と微かな諦念を、そのするどい切目に忍ばせながら、問返してきた。

 しかしながら薔薇猫は、まつたくこの問題の解答に、縁がないわけでなかつた。


 …サイバー・スクールの修了過程を障りなく進めていた。

 街路樹の桜木が、満開の予兆を、その枝々にこらえている。その雪景色を薔薇猫は、自室の装飾窓から眺めていた。

 進むべき未来の道筋を、だれも指示してくれる恩師はなく、街を支配する『自由の空気』が、確固たる存在をすべて雪の空白のなかに隠しているようであつた。

 だから薔薇猫は不安だつた。あらゆる行為者を正当統治する絶対原則なんてものはなく、『欲望』という刹那的情感を人生の羅針盤とみなすことは愚かしいことのようにおもえた。

 『永遠の愛』や『絶命の恋愛』は、美しい感性が織りなす、雅な十二単衣ではあるけれども、それは幻想であつて現実ではない。薔薇猫はそのように確信していた。

 猫肌を刺し凍らせるような寒冬は、一切の趣をもよおさせることなく、ただただ痛ましい。この冬を越えたところで、皆が愛でる桜の散りぢりをも、永遠の郷愁へと彩ることはできなかつた。それは、薔薇猫がまつたく好まざるところであつた。

 薔薇猫は、ただ支配されたかつた。正義に支配されたかつた。

 卒業目前とした漠たる未来の不安を、母に告げた。

 母は、真白な雪とたがうところなき白毛の手で、ゆつくりと娘の猫背を愛撫しながら、こう助言した。

「あなたの歩いたところが道になるの。あなたはこれから野原の道、険しい道を歩んでゆくかもしれない。でもね、よく考えてみて。あなたが後ろをふり向けば、そこには彼岸の縁故者が拓いてきた道がある。あなたが今の道を歩けているのは、かれらが歩いたおかげ。そして同じように、あなたの歩いてゆくだろう道が、あなたよりさらに未来の子どもたちの、途中となる。いい?これだけは覚えておいて。『存在』はすべて『ことば』になるの。なにひとつとして、忘却のブラック・ホールに吸いこまれることはないの。だから、あなたが、ローズが、いかなる荊棘の道を歩こうとも、そのすべては『ことば』になるの。ローズが感じた『痛み』も『憎しみ』も『愛』も『滑稽』も、すべてすべて『ことば』になる。だからすべては『無』に帰らないわ。安心して。」

 事実、薔薇猫はこの母親の助言を聴くにさいして、名状し難いおおきな愛に包まれた…


 こつねんと現実に戻ると、まじまじと貌を凝視している禿鷲の阿保面が、可笑しかつた。禿鷲は、沈思黙考の薔薇猫をふしぎそうに待つていたようだ。

「答えは、『ことば』になつた、じゃないかしら?」

 薔薇猫が横目でちらと一瞥すると、禿鷲の嘴はますます歪んだ。

 しかし黙々と禿鷲は、解答欄に『コトバになつた』と打ちこみ『Enter』キーを押した。

 壁に嵌めこまれている液晶画面に、『richtig!(独:正解!)』が表示され、頑固に来場者を拒んできたような鉄壁のオートマティック・ドアが、左右にゆつくりと開きはじめた。

 徐々に開きはじめるドアは、女性の色香のようなエロティックを漂わせ、しかしその濃密な匂いの絶頂は、ドアの見えるか見えないかの霊妙な間隙の瞬間だけであつた。

 いざこうして猫足や鷲足や兎足を踏みいれてしまえば、そこはさきほどまで居た『中枢統制室』や『白兎部屋』となんら変わりないようにみえる。

 俯瞰的視点からみたとき、『ロ』字型の月面基地の半分、つまり『L』字型の領域は『宇宙船員たちの生活欲求を満たすための空間』である。もう半分の『L』字型の領域は『ヒューマノイドを生産するための空間』とみなされてきたが、しかし、これは黒羊の問題提起により、『地球人をヒューマノイドへ転換するための空間』と仮定された。

 その仮定どおりであると断定できないが、この空間が『生産』へと目的化されているならば、ボディー・パーツの製作音が響いてもよいはずである。しかし液晶壁で挟まれた廊下は、閑寂をきわめていた。

 廊下角から方向変え、長廊下をしばし歩く。

 先頭で導いているヒューマノイドは、三体迷いなく歩いて、そぞろに歩いている大猿は、『秘密情報を掌握した!』と激しているかの如く、カメラを連写している。フラッシュ・ファンクションをオフにしているだけに、煩わしいカメラの閃光は瞬いていないが、大猿の存在自体が、薔薇猫にとつて胃痛せしめる諸悪の根源であつた。

 白兎と禿鷲は、薔薇猫の背後でひつそり談話している。盗聴してみれば、「ここの空間に入つてから、ムーン・ホスピタルでの黒羊と白虎のコミュニケーション・ラインが途絶え、画面が電子砂嵐でじらついている」ということであつた。

 そうこうしているうちに、この集団はとある大部屋に入室した。

 大部屋の壁はすべて、水槽が嵌めこまれており、いうなれば水族館のような印象である。水槽のなかには、地球人に酷似した生命体が、裸体のまま浮遊しており、不気味である。

 此処へ来て、大猿は感涙し、カメラの連写はなお喧しい。

 白兎はといえば、水槽のなかの瞑目する生命体を、ことごとく舐めるようにみている。禿鷲はといえば、紛失した物を探すかのように、視線を巡らせている。

 とある一体のヒューマノイドが大部屋の中心地に近づくと、真中の床石が昇りあがつた。

 縦横1メートルほどの柱石が、2メートルほどまで昇りきると、紛失品をみつけたかのように、禿鷲は其処に向かいあるく。

 組込まれたコンピューター・ディスプレイに貌合わせて、タッチ・パネルのキーボートに触打つているらしい。

 しばらくして、突如、禿鷲が「あ!」と零した。

 白兎、大猿、薔薇猫は、禿鷲の背後からディスプレイをのぞくと、同時に、禿鷲はディスプレイ上のテキストを音読した。

「七月七日、西暦七百四十年。

 ヒューマノイド化計画のために、千人の地球人を、月面基地へ拉致しました。わたしは、地球人のヒューマノイド化に対して、三段階工程を思案しておりました。

 第一段階においては、特効薬物で失われた地球人の記憶を想起せしめることであります。というのも、夢幻と現実の境界線を引かせるためです。皆が推察するように、それは避けるべきことなのかもしれません。地球人が暴れてしまうからです。しかしこれこそ私の狙いなのです。搾取されつづけている農耕生活の『事実』と、信じられないほど魔術的で科学技術的なこの大部屋で、説得されている『幻想』を、『転換』しうるために、言いかえるならば、地球人の経験を『夢幻』のなかへ、信じられない直前の出来事を『現実』のなかへ、硬貨が翻るかのごとく再分別せしめるために、記憶の境界線を引かなければなりません。これが第一段階であります。

 第二段階においては、地球人を洗脳することによつて、地球人が自身の経験を疑うようになるでしょう。この目的を実現するために、われわれはすでに洗脳化されたヒューマノイドを、地球人のかたわらに侍らせます。そして地球人にこのように語ります。

 月光市民の需要と欲求をみたすように、われわれ地球人は仕えてきました。それはつまるところ食物連鎖のピラミッドにほかなりません。なぜこのような生命階級ができたのか?答えは簡単で、人間よりも理性的であつたからです。だから人間の生活空間は、だんだんと占領されていつたわけであります。そして終いに人間は、われわれが住む月内部世界から脱出して、地球へと移住しました。したがつて、二種類の人間がおります。ひとつは地球に追いやられた人間、もう一方は月内部世界で、月光市民に従うヒューマノイドとしての人間。このうち後者は、サイバー・エクスタシーを任務遂行におうじて分配されており、この快楽がヒューマノイドの行動原理となります。

 拉致された地球人に、上のような虚偽を事実のように諭しました。つまりこの段階が成功しているのならば、拉致された地球人の記憶において、虚偽は事実へと、事実は虚偽へと置換されたことになります。

 第三段階においては、拉致された地球人に、これまでのヒューマノイドの説得を復唱させること。そうすることによつて、虚偽の事実と事実の虚偽は固められます。

 われわれ初代・MSGは、この三段階工程を正しく実行することによつて、結果、ヒューマノイド化計画のトランスフォルム・ラインを敷くことができました。つまり、生殖場としての地球惑星から地球人を拉致して、そこから転換場としての月面基地まで運び、さらに、われわれ月光市民が生活するグロースシュタットまで乗船させました。

 この生殖場から転換場へ、転換場から生活空間へ、即ち、ヒューマノイド・トランスフォルム・ラインが線引かれました。われわれは今日七月七日をもつて、それを敷設できたことを、月光市民の歴史的快挙であるとして喜んでおります。」

 口述する禿鷲のコトバは、疑わしかつた。

 『コミュニケーション根本原則』をみいだした白猫が、月光市民の生活利益のために、地球人を合意なしに拉致した。その叙述を信じられなかつた。

 薔薇猫は、いぶかしそうにディスプレイ上のテキストを通読してみる。たしかに禿鷲が音読したとおりであつた。

「ムーン・ホスピタルとのコミュニケーション・ラインが再接続されました。」

 と、白兎が報告すると、ふたたびMSGならびに大猿の網膜上に、サイバー・ウィンドウがたちあがつた。

 黒羊院長と白虎大統領はいまだ陰鬱を分泌しており、痛々しい。

「で、どうだった?転換室は、地球人の洗脳室でもあつただろう?」

 それは皮肉でなく、淡々とした問いかけだつた。

 黒羊院長は、月面基地とコミュニケーション・ラインが中継されていることを、知つていた。禿鷲と白兎はそれにおどろいた。

 しかし薔薇猫は、イデアライザーに精神統一して、サイバー・ウィンドウ上の黒羊院長におうじた。

「此処、ヒューマノイドの転換室に、多数の地球人とおぼしき生命体を発見。防腐水でみたされた水槽中にたゆたう生命体は、薬物昏睡状態であるとおもいます。またコンピューター端末に、ヒューマノイド化計画と実行記録が、蔵されておりました。データを送信します。」

 薔薇猫は禿鷲に目くばせると、禿鷲はコンピューター端末より『宛先:ムーン・ホスピタル』と即打ちこんで、『Send(英:送る)』ボタンをクリックした。

 数秒後に受信完了したらしく、黒羊院長は、二代目・MSG・メンバーが既読したテキストを、熟読しているようだ。

 白虎は、黒羊の沈思黙読の壁をこわして、非難しはじめた。

「白々しくメールを読むこともあるまい。オマエも初代・MSG・メンバーの一匹だつたではないか。地球人が合意なしに拉致されてきたことは、ひとつの事実だろ。しかし、もしも、われわれが地球人に、月光市民のために従事する合意を求めたところで、かれらは同意するに決まつている。多くの地球人は、西暦七百四十年当時においては、困窮極まる生活の相である。かの惑星をみてみよ。三十七年過ぎた現在においても、未だに、民族をこえた『人類共同体的意識』は芽吹いておらず、思想的対立は破壊的戦争を急きたてている。それのみならず!冷害、黒死病、赤痢、津波、地震、それら大自然を制御できていない地球人の苦痛的生活は目伏せたくなるばかりではないか!?それに比べて、われわれ月光市民のための従事ときたら、飢餓や病気に悩まされることなく、苦痛なき労働にちがいない。答えは明らかだ!かれらはわれわれと共同生活するほうが良い。事実、地球人を拉致したかもしれない。けれども地球で生きるより、グロースシュタットでの生活のほうが、地球人は幸福になれるのさ。地球人が月光市民のために働く。地球人、月光市民、どちらにも損害はなく、むしろ利益しかない。」

 黒羊院長は脚組みなおして、眼前の白虎をみた。黒革長椅子に対座する両者の貌は、険しい。

「しかし同意なき拉致行為は、罪だ。たとえグロースシュタットで働いている元地球人が、今、幸せであろうとも。」

 黒羊の返事を聞くと、白虎は溜息を吐いて、間が生まれた。

「…君がこうして、われわれの秘密を暴いたこと。それは火星探索の遠征を、延期させるだろう。科学技術の発展も、遅々たる歩みになるかもしれないな。」

 目逸らした黒羊は、白衣のポケットから取出した葉巻に、小火玉が灯る燐棒をちかづける。ムーン・ホスピタルの院長室に、一陣の煙がたなびく。

「かまわない」

 そういう言うやいなや、黒羊の額に、一丁拳銃がむけられた。

 網膜ウィンドウ上で起こつた危機に、薔薇猫は戦慄した。

「俺はオマエのように、理想に生きる者じゃない、過酷な現実に生きる者だ。無限に広がる宇宙には、俺らとおなじような高等生命体が、それこそ、星の数ほどいるのかもしれない。そしてかれらが、俺たちに友好的であると限らない。そればかりか敵対的であるかもしれない。であるならば、俺たちは俺たちの自国文化を守るために、武装をしなければならない。そうだろ?そのためには近隣の惑星を、即調査をしなければならない。高性能武器の開発のために。なるほど理想は、ゆるぎなく崇高だ。けれど理想だけでは、俺たちの生活は成りたたない。」

「…社会的立場が、君を変貌させてしまつたのかもな…」

 黒羊は、膝で『トントン』と音律刻む右手を、止めた。何気ない仕草の終止符。時間が堰きとめられたような息苦しさ。

「…結婚式。白い花婿服をまとつて君は、花嫁の白猫をずつとみていた。尖塔型教会の正面に白猫はむきあつて、背後の鉄柵へとつづく敷石の道中へと、幸福の花束をなげた。白薔薇がひらひらと舞い、花びらは煌めいてまぶしかつた。ひかりあふれた結婚式。このときすでにぼくたちは、秘密の計画を、墓場まで持つて逝くと約束していた。ぼくは来賓とともに、君たちを祝福した。」

 銃口は、なお黒羊の額にむけられており、そればかりか、銃身が強く握られた。緊張は、空気を張りつめさせる。

「嫉妬なんて止してくれよ。オマエは、かの女に選ばれなかつた。それだけのことじゃないか。もともとあのような才女は、俺のような由緒正しき家柄の種族と、婚姻されるべきだつた。そうだろ?いくら君が、すぐれた知性を備えていたとしも、オマエが富豪でなく、ただの市民ならば適格じゃない。そうだろ?」

 科学者に通ずるような冷笑を、黒羊は浮かべ、点火しているタバコを、硝子灰皿に置くと、

「でも君には、所詮、お金しかない。たんなる御金持ちでしかない。そして君と白猫の結婚は、政略的でしかない。ほんとに白猫が、きみを愛していたとおもうのかい?」

 銃身はさらにきつく握られる。侮蔑の予兆が、白虎の胃腸をするどく刺した。それを、黒羊はよろこんだ。

「白猫が発見した『コミュニケーション根本原則』と、わたしが開発した『イデアライザー』、このふたつの構成要素によって、ムーン・インターネットは成立している。このうち『イデアライザー』だけが予算不足だつた。というのも『コミュニケーション根本原則』にもとづいて、ムーン・インターネットのプログラミング・テキストを記述するのに、お金はかからないからね。しかし、『イデアライザー』はそうはいかない。ICチップの生産と、月光市民ならびにヒューマノイドの装備義務化には、圧倒的政治力と莫大な資本が要件となる。」

 黒羊が、白虎を瞠目した!

「そこで君の力、豪族としての資本力が欲しかつたのだ!種族間闘争においてその天頂に登りつめた虎族は、経済力において秀でている。しかし、ただそれだけだ!学問的想像力が貧しい君が、科学的成果を実らせていない君が、なぜ初代・MSGに成りえたのか!答えは簡単だ!ぼくたちは、君のその力が欲しかつただけだよ!」

 爆音が轟いた。

 と同時に、ムーン・ホスピタルと月面基地のコミュニケーション・ラインは切断された。

 砂塵のような電子嵐は、網膜上のウィンドウで吹き荒んでいる。

 戦慄した。それは薔薇猫だけでなく禿鷲や白兎もおなじだつた。あの銃撃は、一体何を意味するのか?

 最悪の状況が、二代目・MSGの脳裏によぎつた。

「黒羊院長の仮説は、裏打ちされたわ。とりあえず、ここに用はない。ムーン・ホスピタルに向かいましょう!」

 誰一匹として反論せず、黙々と三匹は、転換室を退いた。


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