弟子の話
ギルドを出ようとした俺達の前に現れた大男。
「おぉい!お前ら!」
「お、お前は!モルド!!………さん。」
「なに?あんたまた、あたしにボコボコにされたいわけ?」
モルドは一瞬レイナに睨みを利かした後、モジモジしだした。ん?何やってんだ?このおっさんは?
「なーに黙ってんのよ!文句があるなら言いなさいよ!」
モジモジしてたモルドが顔を上げ、恥ずかしそうに話しだす。
「あ……あんた!いやレイナのアネゴ!俺を弟子にしてくれぇ!」
「「………………は?」」
俺とレイナ2人同時に固まった。
おそらく唖然とはこう事なんだろうと心の底から思った。
「いやだから!俺をアネゴの弟子にしてくれよぉ!」
「なんであたし!?意味がわからないんだけど!」
「俺は……アネゴのその強さに惚れたんだ!最初は仕返ししてやろうと思ったが、俺の善意の心がそれを許さなかった!」
善意の心って……
モルドは続ける。
「俺はもっと強くなりてぇんだ!強くなってこの国の最強になって、誰も俺に逆らえなくしてぇんだよ!だから頼む!」
「ちょ……ちょっとまって!考えさして!」
動機が乱暴すぎるぜモルドさんよ……
あれ?モルドの頼みを聞いたレイナがこっちに来た。俺に話があるのか?
「ちょっと!どういう事よこれ!?」
もちろん小声だ、俺も小声で返す。
「いや俺にもわかんないって!でも多分あのアッパーだよね?」
「やっぱそうよね……。まぁ仕返しとか嫌がらせされるよりはマシ……なのかしら?」
正直微妙だと思う。あの筋肉の塊が付きまとってくると思うと、まだ仕返しされる方がマシな気もする。
レイナと俺が、どうするかと話し合っていると、モルドが大声を出した。
「おいGランク!なにアネゴとコソコソやってんだ! ――もしかしてお前もアネゴの弟子志望か!?」
え?なにこの展開!?やばいって!とにかく何とかしなければ!
「いや、弟子というか……今レイナとはパーティー組んでるっていうか……仲間というか……あはは」
「あぁ!!アネゴとパーティーだとぉ!ふざけやがって!Gランクが最強のアネゴの役に立てるわけないだろうが!」
モルドの言葉にレイナがキレた。
「ちょっとあんた、あたしの仲間侮辱するのもいい加減にしてくれる?言っとくけど、ウントはあたしより強いから!」
うんうん。――ってちょっと!!レイナ何言ってんの!これ以上話をややこしくしないでくれ……
モルドはレイナの言葉を聞き、落ち込んだかと思うと、ニヤリと笑いだした。
「ヒャハハ!じゃあよぉ、俺様と勝負しようじゃねぇかGランク!勝った方が本当のアネゴの仲間になれるってどうだ?」
「いいわ!その勝負受けるわ!ただし、あんたが負けたら、あたしの前に2度と現れないでよね!」
何でレイナが答えてんだよ!さすがに怒るよマジで!
「いや、ちょっと!拒否権ないのこれ?」
「「ないわ!(ねぇな!)」」
そんな事で俺とモルドでレイナの弟子入りをかけ、勝負することになったのだった。
てかそもそも俺、弟子になりたくねぇんだけど!
勝負内容は単純、決闘だ。場所はギルドの2階にあるステージに決まった。そしてルールは武器、魔法の使用は禁止、後は何をしても良いというガバガバルールだった。
俺とモルドがステージに移動すると、どこから聞きつけたのか沢山の冒険者の野次馬が集まっていた。
「ヒャハハ!おい逃げ出すんなら今の内だぜ!Gランクよぉ!」
温厚な俺もモルドの言動にはいい加減に腹が立ってきた。よし!言ってやろう!
「だまれ!さっきの依頼達成で今はEランクに上がったんだ!お前こそ逃げるんなら、さっさと逃げろよデブ!」
そしてモルドがブチキレた。
「てっめぇ……ぶっ殺してやる!」
怖すぎる。モルド怖すぎる。大事な事だから2回言いました。俺がビビってるとレイナが応援してくれる。
「ウントー!頑張りなさいよ!負けたら装備のお金返してもらうから!」
それは応援ではなく脅しです。ま、とにかく頑張るしかないな!
そして――決闘のゴングが鳴った。
「おらぁー!」
とモルドが走ってラリアットを仕掛けてきた。ボスゴブリンの攻撃を避けていた俺には何故かモルドの動きがとても遅く感じた。
俺はモルドのラリアットを難なく避けると、そのままモルドの腹に渾身のストレートを叩き込んだ!――が俺のパンチ力ではあまり効いていないらしい。
「マジかよ……」
「まぁ、俺様の攻撃を避けたスピードだけは褒めてやるよ!だが効かねぇなお前のパンチはよぉ!」
それから俺は防戦一方だった。モルドは速さこそないが、力があるので避けるしかなかった。
だがここから俺の反撃の開始だ!
また馬鹿のひとつ覚えのようにラリアットを仕掛けてくるモルドの攻撃をかわし、ここで『女神の幸運』を使う。
――偶然体制崩せ!
俺の願い通り、体制を崩したモルドの顔面が俺の目の前に来る。ここでもう一度『女神の幸運』
――俺のアッパーが偶然ヒットしろ!
そして俺はモルドの顔面目掛けて、今度こそ渾身のアッパーをお見舞いした。
「ア…………キ」
――バタン!とモルドが白目を向いて倒れた。それは盛大に、まるでデジャブを見るようだった。てか最後なんて言ったんだ?
「はぁ……づがれたー!もう無理!」
「やるじゃねぇか!」
「かっこよかったよ!!」
「見にきてよかったぜ!」
俺が倒れ込むと野次馬達が歓声をあげていた。レイナも興奮しながら近寄ってきた。
「やるじゃない!最高よウント!さすがあたしの初めての仲間だけはあるわ!」
「いやいや大袈裟だから。とにかく今日は疲れたから、あの話は明日でもいい?」
「もちろん!今日あたしは機嫌が良いから明日でも大丈夫よ!でも明日絶対話してよね!」
「うん、わかったありがとう。」
そんな会話をしていると、気を失っていたモルドが目を覚ました。と思いきや、俺を見つけるなり走ってきて仕返しかと思った俺は身構えたが――
モルドが俺の前で土下座した。
これは嫌な予感しかしなかった。そしてその予感は当たっていた。
「ア……アニキ!俺を弟子にしてくれ!」
「「………………は?」」
またハモった俺とレイナ。
「え?ん?弟子……だよね?」
「はい!レベルもランクも俺より下なのに俺を倒したアニキの強さに憧れました!お願いします!」
その後、俺とレイナで何時間も説得したがモルドは全く応じる気配はなく、俺は疲れとストレスで遂に心が折れたのだった。
――そして俺に弟子が出来ました……死にたい。
PV、ブクマ、評価ありがとうございます。
※モルドはハーレムの一員です。嘘です