転生の話
今でも俺は思う、柄じゃなかったんだ……
俺の名前は不知 運斗。 現在20歳のフリーターだった……はずだった。
◇
俺は生まれてから20歳になるまで良い事が全くなかった。 言うならば不運、とにかく俺には運というものが全くなかった。
例えばおみくじを引けば大凶、まぁこれはまだ序の口と言っても良い。 他にはジャンケンをすれば必ず負けるし、極め付けは何も無いところで転んだりする。
「ほんとついてないよなぁ俺。」
いつものようににバイト帰りの道のりを愚痴を吐きながら歩いていると、これもまたベタだか赤信号を渡ろうとしている子供がいた。
まぁ俺としては車が通っていないのであれば別に良かったんだけど、あいにくこれもまたベタにトラックがプーッ!とクラクションを鳴らしながら、子供のすぐ近くに迫っていた。
「あぶない!!!」
そう――柄じゃなかったんだ。
「あ……」
石に足つまずいた……どんだけ運ないんだよ。
――俺はトラックに轢かれて記憶が飛んだ。
◇
目を覚ますとそこは真っ白な何も無い空間だった。
俺が戸惑っているとそいつは目の前に現れた。
「ようこそ。ここは女神の空間です。」
「は?」
俺の率直な感想だった。
目の前に現れたその女神とやらは、見た目はまさに美そのものだった。
地球ではあり得ないピンクの髪色で顔も左右対称かと思わせる美しい顔だ。 そしてスタイルも抜群だ。
だが俺はそんな事がどうでもよくなるくらい混乱していた。
「え? 女神? ここは? え!?」
「まぁその反応は正しい反応ですね。 なにせこの空間に人間が来る事自体あり得ない事ですからね。」
俺は無い頭を120%の力で回転させ考える、考える、考える、そして一つの答えにたどり着く。 というかそれしか思い浮かばなかった。
「あのーこれって、もしかしなくても転生ってやつですかねー?」
俺が聞くと女神とやらはニコッと美しい笑みを浮かべてくれた、かわいい。
「はい。 貴方は転生者として選ばれました。」
「転生者……ですか。 でも何で俺なんですか? 俺全くもって選ばれる運なんて無いのに……」
俺は当たり前の疑問をぶつける。
「まぁそうですよね答えましょう。 ……私は貴方の人生を見ておりました。 そう、貴方……いえ不知運斗としての人生を……」
そこまで言って女神は泣き始めた。
「まさか……まさかこんなに悲しい人生を送ってるなんて可哀想で……ぐすん……し、失礼しました。」
いや、やめて! 俺が泣きたくなるから! やめて!
女神は続ける。
「そこでです! そんな世界で一番可哀想な貴方にもう一度チャンスをと私が独断で決意したのです。」
涙を拭いながら女神は答えてくれた。
いや泣きたいの俺だから!
「あの話は分かったんですけど、その俺が助けた男の子って無事ですか? すいません、一応俺の死は報われたのかなぁって?」
女神が一瞬怪訝な顔をする。
「あーその事ですか……えーと、非常に言いづらいのですが、結果は小さな怪我だけで済みました。」
「よかったぁー! 俺は無駄死にじゃなかったんだ」
「ですが別に貴方が助けなくても子供は助かっていたのです……むしろ助けなければ無傷だったと言いますか……しかも貴方の死体を見て男の子は重度のトラウマのようです。」
女神すっげー申し訳無さそーにしてる。
俺どんだけ運無いんだよ! ただのヒーロー気取りの馬鹿じゃん! 男の子ごめん。
「いえ、あの大丈夫ですから……それより転生ってどこに転生するんですか?」
「あ、そうでしたね、今回貴方には剣と魔法と魔物と呼ばれるモンスター達が存在する世界に転生してもらいます。」
おい、まぢかよ、こんな展開漫画とかでしか見た事ねーぞ、てか転生って勇者的な事か?
「えーと俺は勇者として転生されるんでしょうか?」
「いえ勇者になるのは自由ですが、そういう事はありませんよ。 あくまで貴方には異世界で幸せに生きて欲しいだけですから。 ですから転生は15歳の少年として転生してもらいます。」
「何に成るのも俺の自由って事ですか。 ……じゃああの定番の特殊スキルとかチートとか貰えるんですか?」
俺はワクワクして聞く。 やはり転生といえばこれだろう。 チートで無双これしかない!
「何の定番かはわかりませんが、そいいう類の物は与えてませんね。 世界のバランスが崩れますからね。」
「ですが、特殊スキルという訳ではありませんが、異世界の言語とステータスは見れるようにしておきましょう。」
「へ? それだけですか? なんか凄く強い剣とか、経験値倍化とかそういうのは無いんですか?」
「すいません、そういうのは与えられない規則なんですよ。 勝手に呼び出しておいて申し訳ありません。」
「死にたい。 あ……もう死んでるのか。」
ナンテコッタ!? じゃあ俺は異世界に転生しても不運なままじゃないか……俺がそう嘆いていると女神は慌てて付け加えた。
「早まりすぎです! ……はぁ、わかりました。 さすがにスキルなどは与えられませんが、ステータスの幸運だけあげておきます。 貴方にはぴったりでしょう。」
ニコッと笑う女神だが、んー幸運かぁー正直微妙すぎる。 まぁ何も無いよりマシか、そう思い俺は承諾した。
「それでは異世界での幸せを祈っております、この女神アルディスの御加護のもとに、では行ってらっしゃい不知運斗様。」
あ、初めて女神の名前聞いた。 アルディスって言うんだ、とか思っているうちに俺は光に包まれた。
俺が居なくなった空間で女神は俺のステータスを見て目を見開いた。
「あ、幸運値1桁多く上げちゃった。……まいっか」