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4お仕事開始

 翌朝9時、言われた通り律儀にマンションにやって来た。合鍵はあったものの部屋番号を押して呼び出すと、執筆中や考え事をしていると面倒くさいのでそのまま静かに入って来て欲しいと言われる。


「急な予定変更で都合が悪くなればメールします。それ以外はいつ来てくださっても構いません。私がいてもいなくても仕事はありますから。用もないのに貴女はいらっしゃらないでしょう?」


 それは牽制かとも思ったが、来て困る相手に合鍵なんて渡しませんと言われればかなり信頼され過ぎているような気がしてそれはそれで困惑する。


「では早速仕事の説明をさせてください」


 時間を無駄にしない男は言うと、ダイニングテーブルの上の咲希専用だというパソコンを開く。スケジュール画面には結構びっしり書き込まれていた。


「私の予定は全てここに入力しています。来客もここに載ってない方は無視して構いません。新たに書き込む場合も私に確認してから相手にも返事をしてください」


 事務的なことを細々説明した後、今度は書斎と続きの資料室に案内された。図書館みたいな本棚が並びびっしり上から下まで本が詰まっている。


「そのうち、整理してもらえると助かります」


 それは気の遠くなりそうな作業だ………ざっと見回しただけでも結構いい加減に放り込まれた感満載の棚もある。

 咲希の知る漆原像と違和感があるのは多分誰かが適当に押し込んだんだろう。


「とりあえず今日は電話番とこちらの原稿の校正をお願いします」


 とダイニングテーブルの上の紙の山を示された。すぐ横の棚にはありとあらゆる種類の辞書の類いがずらりと並んでいる。国語辞典だけでも広辞苑に各出版社のものがある。

 かなり古い時代のモノもあるので、そこらの本屋より凄い品揃えかもしれない。


「時代によって同じ言葉でも意味が違うんです。それに昨今は新しい言葉がどんどん増えていますしね。子供の頃親の古い辞典ではなく新しいものを買い直してくださいって言われませんでしたか?」

「うちの場合、兄達のお下がりが次々回ってきてましたから特に意識したことはなかったです」


 ああ、成る程…と頷くと辞書の種類と使い方を大雑把に説明してくれた。


「訂正は赤で、場所がわかるように付箋を付けてください。わからないところも印を付けておいてくだされば私が確認します」


 この紙の山全部かと尋ねたらあっさり肯定された。急がなくて良いから間違いがないか正確性が重要とのこと。時間がある時に来て、いつ帰っても良いと。

 質問があれば遠慮なくとソファに座りパソコンを開き何やら入力を始めた。


 咲希はコーヒーを入れて、自分も座ると原稿を手に取る。

 何の原稿だろうと読み始めた途端に引き込まれた。面白い。

 小説?普段殆ど表情が動かない何を考えているのかよくわからない男だと思っていた分驚いた。

 内面は物凄く感情豊かじゃないか。しかもこの繊細さ。細やかなのに大胆な展開。この先どうなるのか気になって読むのを止められない。気付けばもう昼を過ぎていた。


 添削してない……………

 というか、引っ掛からなかった。気付かなかっただけ?

 ん〜〜〜、どっちだろう……………


「そろそろお昼にしませんか?」


 顔を上げれば、にこやかな笑顔が真上にあり二重に驚く。


「凄い集中力ですね。声をかけたのですが気付かなかったので勝手に出前を頼みました。中華で良いですか?」


 もう少ししたら届くと言うので簡単に片付け烏龍茶を入れリビングに運ぶ。ダイニングテーブルはとてもじゃないがそんなに簡単に片付くレベルじゃない。これも今後改善しないとね。


 届いた料理を小皿に取り分けながら気になったことを聞けば、画面上で気付いたミスは訂正済みなので、再度別の目で確認したいとのこと。何度繰返し見ても見逃すことはあるんだとか。

 そう言われてみれば、販売された書籍の誤字脱字を発見することあるよね。新聞上でも結構見つかる。友人の両親なんか毎朝赤ペン持って各紙チェックするのが趣味って言ってたな……それもどうかと思うが………

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