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死にたがりの少年

   全治七日感シンドローム

              有空 優介


 目が覚めると僕は病院のベッドの上だった。

 ここは二〇八八年の東京である。過去のひとはドラえもんが誕生して世の中がもっと便利になると予想していただろう。だがしかし、そんなことはない。進化したのは科学でも技術でもない。人だ。ある科学者が自分の体を改造したのである。すぐにそれは非人道的であると批難された。だがそれはすぐに終わった。その科学者の子供が彼の特異性を受け継いだのだ。そうして人々は自分のこどもにも特異性を与えてやりたいとすぐに自分の体を改造し始めた。でもそれだけでほかの生活は八十年前からなんにも変わっていない。

高校受験の前日の朝僕は塾に向かっていた。ひと月前の塾の模試で合格率九十%を叩き出したのだからおおかたいけるだろうとおもっていた僕は天狗になって好きなアニメの動画を見ながら塾に向かって歩いていた。周りの人の叫び声も聞こえず歩いていた。僕は交通事故に合った。右足右腕骨折全治三ヶ月。その他三ヶ所の骨折。絶望した。舌を噛みちぎった。

 病院のベッドで目覚めた僕は生きていることを実感した。そして舌があることを実感した。横で何かを言っている母さんが言うには半分ほどかんだ時点で気を失ったらしい。母の言っていることはもう耳障りでしかない。

「しょうがないだろ。こんなんじゃ受験もできない。もう生きていくことに希望なんかみえないよ。」

 そう怒鳴りたかったがもう下を噛まないため口になにかされていて喋ることができなかった。

 そんな憂鬱なことを考えていると慰謝がやってきた。どうせやることもないので退屈な話を聞くことにした。いしゃがいうにはこうだ。

 僕はまだ中学生で何も受験だけが全てではない。しかも交通事故という真っ当な理由がある。ここで終わりではないのだから諦めてはダメだ。

 そんなこと言ったって一五の僕にはこれが全てだ。みんなが遊びや部活に夢中になっている間に僕は勉強とマスターベーションしかしてこなかった。しかも現在右手は全く使えない。ペンも握れなければナニも握れない。そう、例えるならスマホのアプリゲームに月何十万も借金してまで課金していたのに朝起きたらそのアプリのサービスが終了していたみたいな感じだ。何が残っているって言うのだよ。いやまあ、ナニは別におかしくないし残っているのだけれども。

 その日は僕もいろいろあって頭が混乱しているだろうからゆっくりしなさいといことで、慰謝は部屋から出ていった。そのとき面会時間も終わりということで母も帰っていった。帰り際、泣きながら生きてちょうだいとつぶやいていた。

 別にそんなことで自殺をやめようとは思わない。確固たる意思があってやったことである。ただ少しだけ僕の中の何かが流れた。

 そんなこんなで時間が過ぎてもう零時である。ぜんぜん眠れない。少し体力を使おうかなと思って自分の左手をナニに伸ばした時あたまの中に声がした。

 「小さいね」

 驚いてあたりを見回すと誰もいなかった。それもそうだ、だって僕の病室は個室なのだから。まあいい。ちなみに僕のものは本当に小さい。

 とりあえず気にせず続けることにした。

 「聖なる場所、病院でそういった性なることはやめろよ」

 また声がした。なんだこれは。誰がうまいことを言えと言ったのだ。もしかしてと思い頭の中であなたは誰ですかと言ってみた。もちろん左手はナニをもっている。するとまた頭の中に声がした。

 「となりの病室の野ノ崎唯ですよ。君は?」

 僕が考えたのはこれだ。おそらく隣の病室の野崎唯は特異性を持った女である。その特異性は性器に触れているものとテレパシーが可能であるといった類のものだろう。

「半分くらい正解だよ。君は賢い。頭はいいのに下の方はあんまりいいものではないようだけど。」

 「うるさい、僕の名前は坂城和馬。君も隔離病室なのか?」

 「まあそうだよ、自己破損病ってやつでさもうすぐ死ぬのだ。君は?あ、それと君の特異性を教えてよ。」

 「まてまて、いっぺんにたくさんの質問はやめてくれ。頭がパンクする。僕は交通事故、別段死ぬようなものではない。僕の特異性は本当にしょぼいものだよ。自分の精子を自由に操れる。昔事故に遭ってそれで本来の力である自分の体液を自由に操れるっていう特異性が退化したんだ。」

 自己破損病っていうのは簡単に言うと自分の特異性を使いすぎたせいで体が壊れてしまう病だ。別に多くの人がなる病ではないけどブラック企業や人助けのやり過ぎでこうなってしまう人もいる。

 「お前、自己破損病なら能力使わないほうがいいじゃないか。もうテレパシー使うなよ。」

 「君は自分が死にたがるくせに他人が死に近づくのは止めるのだね。」

 「それもそうだね。じゃあ、もうすきにしてくれ。おれはやることやるから。」

 「やることっていってもひとり遊びだろ、この童貞。そんなことよりも私の話相手にでもなってくれ。」

 「童貞言うな。確かに童貞だが中学三年生で童貞じゃないほうが珍しいぞ。まあ僕も眠れなかったところだからいいぞ。」

「じゃあ最初の質問。彼女はいるのかな?」

「いるわけがないだろう。僕は童貞だぞ。」

 「そうか、ならよかった。」

 「なんだそれ、お前僕に惚れているのか?」

 「ああ、私は君に惚れている。だから死んでほしくない。これは説得しようとしているのだよ。」

 「どうして?あったこともない僕に恋心を抱いているの。まさか運命とか?今この時間にたまたまナニを握ったからテレパシーできた。そんな汚い運命あってたまるか。」

 「そうだろう。でも君は覚えてないだろうけどわたしは君にあったことをちゃんと覚えているよ。昔一度出会っていてそれ以来私はずっと一途に想い続けてきたのだよ。」

 「え、いつどこで出会ったの?」

 「それは言わない、いつかきみがおもいだしてくれるから。そんなことより説得だよ。死ぬのはよしたほうがいいよ。どうせ死んだって退屈だろうし、痛いだけだよ。」

 「そんなこと言ったら、生きていたって希望がないじゃないか。」

 「確かにそうだろう、でも君には希望はなくても勃起はあるじゃないか。」

 「うるせえ。上手くないんだよ。逆さまに読んだらキッボであって希望じゃあないだろ。」

 「確かにそうだな。でも本気で死んで欲しくないんだよ。自分の命削って説得するくらい好き。」

 「そうか、ありがとう。でも僕の気持ちは変わらない。」

 「まあいいさ。これから毎日説得をつづけるよ。」

 「毎日?僕は毎日ひとり遊びしているような奴じゃないぞ。」

 「あれ?童貞って毎日するんじゃないの?おかしいな、ちゃんと調べたのに。」

 「それは偏見だ。」

 「そんなことより別にしなくてもいいから毎晩握って話してよ。」

 「ま、いいだろう。ところで説得は明日からにしてくれないか。溜まっているんだ。」

 「なるほど。それじゃ…」

 すべてを聴き終える前に僕は遊び始めた。何故かはじめると彼女の声は聞こえなくなった。

 翌朝、目が覚めると医者にお願いして口の装置を外してもらって野ノ崎に会いに行けるようにお願いした。

 だがしかしその願いは叶わなかった。彼女の病室は面会謝絶。僕はすぐに落胆した。べつに恋愛感情とかそういったもんじゃない。ただ、今まで生きてきて好きと言われたことのなかった僕はそれが嬉しかったんだ。だけどそんな彼女が危険な状態といった事実がたまらなく悲しかった。ただし僕にはそのことに対して落胆することしか思えなかった。

 その日の昼頃見舞いに来ていた母と父が妙に騒がしくなって理由を聞いても何も答えてくれずすぐに帰ってしまった。

 おそらく僕には隠しておきたいこと、両親に関係のあること、かつ不幸なことという条件から誰かが倒れたのだろうと予測された。

 悲しいことだ、だがそんなことよりも僕は自分の自殺志願と野ノ崎の危険状態の二つで頭がいっぱいだった。

 その日は、あまりにも考えることが多くて一瞬のように過ぎ去っていき夜になった。

 夜になり僕はその日握ろうか考えてやめた。その日は前日の夜のように会話などなくひとり寂しく過ごした。

 翌日は、母も父も来なかった。ただし精神科の先生が来た。そして口の装置をはずしてもらった。

 「僕の名前は、花澤 三矢。君の話し相手を担当することなった。よろしくね。」

 「よろしくお願いします。まず一つ聴いていいですか。」

 「うん、いいよ」

 「どうして僕の口を解放したんですか。また舌を噛むかもしれませんよ。」

 「なるほどね、確かに病院の会議ではその話が出ているよ。君と同じ考えの医者もたくさんいるよ。でも僕はそうは思わない。だって君はもう死ぬ気はないのだろう。」

 「どうして言い切れるんですか。」

 「だって、野ノ崎と話をしたのだろう。」

 「どうして知っているんですか。」

 「質問が多いな。簡単だよ、僕の特異性は特異性を使ったものがいるとそのことについて解析できるっていうものだからね。そうだ、君は使わなかったけれどどんな特異性を持っているんだ。」

 「ぼ、僕のは…」

 「まあ、いいよ。いつか言えるようになったら教えてね。今日の話はこれだよ。」

 そう言って花澤はチョコレートを取り出した。

 「なんですか、それ。」

 「チョコレート。君好きなんだよね。」

 「そうですけど別に美味しいって意味で好きなんですよ。語れることはとくにないです。」

 「そうだよ。だからこれを食べながら世間話でもしようじゃないか。」

 そういって花澤はチョコレートを放り投げてきた。

 「僕はね、君がもう死のうと思ってないって確信しているからなにも心配いらないと思う。だからこれから明るい話をしようと思うんだ。」

 そういって彼は満面の笑みをした。

 「僕は高校受験に失敗して、そして何もできなかったんだ。もちろん君と同じように自殺志願したこともあった。だけど、僕には恋人がいてその人が止めてくれて精神科医を目指せるようになったんだ。」

 「は、はい…」

 正直僕には響かなかった。だってそうだろ、成功した人が自分はこんなにダメだったって言ったってそれは自慢にしか聞こえない。つくづく中学生らしくない考え方だなと思った。

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