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89.apple

「……なんで」


 私がそう零した時、目の前に白い指が突きつけられる。


 ――あの、白い髪の男の指だ。


「貴様のせいでヘルシャーの様子がおかしい。命令くらい逆らわずに大人しくしていろ」


 ヘルシャー……、とは、この場合、ルーヴァスを指している、ということで間違いないのだろうか。


「どういう意味ですか?」


 私が聞き返すと、男が表情のないままに唇を開く。それにカーチェスが、


「ラクエス、姫を責めないで」


 と男に言う。


 ……どうやらこの男、ラクエス、というらしい。


「……あなたは、ルーヴァスの……精霊、ですか?」

「そうだ」

「なら、ルーヴァスがどうして私と鴉を会わせたがらないのか、その理由さえ教えてくれないのか、わかりますか?」

「……明確な答えは知らん。だがどうせ貴様のためだ」


 私のため……?


 どういう、ことだろう。


「ヘルシャーは他者に入れこみ過ぎるのだ、故に面倒なことを引き入れる」

「……。ラクエス、お前それくらいにしておけよ」


 キリティアがぼそりと呟く。


「……シルヴィス、体調は……、大丈夫ですか。なんて、聞くのもおかしな話ですけど……」


 普通の人間なら到底大丈夫ではなさそうな傷を受けている彼に、大丈夫ですか、と聞くのは滑稽な気がした。しかし、放っておくわけにもいかず。


 ところが、シルヴィスは意外にも私の想像よりは酷い顔色ではなかった。


「……まぁ、さほどは」

「銃弾も取り出したしねぇ」


 ユンファスがのんびりとそう言うと、シルヴィスは嫌な顔をした。


「銃弾……、が体に入っているとやっぱり良くないんですね」

「貴女、そういう知識もやはり、ないんですね。妖精は異物が、体内に入り込むと、身体の修復ができません」

「そうなんですか……」


 シルヴィスはゆっくりと体を起こし、椅子の背もたれを掴んで立ち上がろうとする。すると、キリティアが慌てて彼を支える。


「傷口、まだ塞がってないだろ」

「……別段、走り回るわけでも、ないのですから、大丈夫ですよ。……割れていないのです、死にません」


 ……割れていないって、何のことだろう?


 先ほどからわからないことだらけだが、ひとまずシルヴィスを落ち着いた場所へ移動させるのが先だ。


 私はキリティアとは反対側のシルヴィスの身体を支えて、彼が望むまま、椅子へと座らせた。


「……シルヴィス、妖精の傷が早く良くなるものとかってないんですか?」

「……。あっても、貴女の手には、入りませんよ。それより、あなたは、病人でしょう」

「こんな風邪、シルヴィスに比べたら」

「あー、僕良いこと思いついちゃった」


 大したことありません、と言おうとした私の声は、ユンファスの元気のいい声に遮られた。


「……ユンファス?」

「いやー、割と本気でいい案だと思うよ~これ。つまりさあ」


 ユンファスが、ぱちん、と片目を――彼は左眼が前髪で隠れているため、右眼を閉じられるとウインクかどうか怪しいのだが、多分ウインクだろう――瞑り、こういった。


「姫とシルヴィス、一緒に看病すればいいんでしょ?」

「……」


 私は一瞬、何を言われているのかわからなかった。


 しかし、数秒遅れて後、非常に不愉快そうな声が隣から。


「……はぁ?」


 絶対零度の声色に、私は頭痛を感じざるをえなかった。









「……やはり」


 ルーヴァスがそういうと、ソレが振り返った。


 全身黒ずくめのいで立ち。

 男か女か判別の付かない様相。


 その姿に、ルーヴァスにはほんのわずかにだけ覚えがあった。


「鴉」

「……」


 ソレは、答えない。


 ただ、無言で手元にハルバートを出現させて振りかぶる。


 しかしルーヴァスは軽々とそれを避け、


「Sefira haw zida」


 びり、とソレの眼前に小さな雷が走った。瞬時にソレが飛び退ると、一瞬おいて、その場に雷が落ちる。


「彼女に近づくというのなら、その前にわたしを殺しなさい」


 ソレは何も言わず、もう一度ハルバートで彼を薙ごうとする。

 対するルーヴァスは、さほど焦る様子はない。


「天槍よ」


 小さく呟いた彼の手元に、不可思議なものが出現する。


 それは、ガラスでできているように見えた。


 中心から淡い燐光を発する、ガラスの蔦とユリが絡みついた槍。


 儚いほど美しいそれは、武骨なハルバートを、りん、と鈴のような涼やかな音を立てて、難なく受け止めてみせる。


 ルーヴァスは受け止めたハルバートを払い、返す刃で鴉の肩から脇腹にかけて、一気に袈裟懸けに斬った。


 赤いものがほとばしり、ルーヴァスの頬を染め上げる。


 ソレは声も出さずに再度飛び退り、ハルバートを消した。


 そして、すばやく森の中へと姿を消す。


「……。行ったか。今回は、運が良かったな」


 ルーヴァスはそう呟くと、手元の槍を消失させる。そして空を見上げ、


「鴉は……、入ることができるようになった、のか?」


 そんなことを、ぼんやりと呟く。


 暮れなずむ空は、不吉なほど艶やかな赤で森を照らすだけだった。

はい今年も残すところあと少しですね。


今回随分と短かったのですがかなり色々詰め込んだのに気づいていただけたのだろうか……


さて。

えー、皆さま、いかがお過ごしでしょう。

良いお年を迎えられそうですか?


妖精たちはそうもいかないようです。


それでは、昨日の続きを、どうぞ~。





※こちらは本編とは一切関係がございません。

ご了承の上、お読みくださいますようお願い申し上げます。









主人公;……あれから特に何もないですね……


シルヴィス;誘惑に負けるなということであれば、それが分かっている今、負ける阿呆もいないということでしょう


ユンファス;えー、どうかなぁ。シルヴィスとかさぁ、案外姫の下着とか出てきたら真っ先に飛びついたりして


シルヴィス;ここから出たらハチの巣決定ですから。覚えておきなさい


ユンファス;え、なにー? 聞こえない


リオリム;お二人とも。お嬢様に不埒な真似をするようであれば、わたしは容赦いたしません。それでもと仰るのならば、受けて立ちます


主人公;リオリムここで臨戦態勢に入らないで仲間割れしてどうするの


リオリム;ですがお嬢様。お嬢様の身に何かあれば、わたしは生きていけません


主人公;ええ……リオリムの過去に何があったの……


ルーヴァス;皆、静かに。……向こうの岩に何か見える


エルシャス;……なに……?


カーチェス;……これ、鏡じゃない?


主人公;え!?


ルーヴァス;……! すまない、見せてくれ


リリツァス;あっ、ルーヴァス


ルーヴァス;これは……、わたしの、!?(湯に引き込まれる


主人公;えええええええええええええええまさかのルーヴァスがここで


エルシャス;……なんで……。なんで……?


道化師;いやぁ、しっかり者のルーヴァス君が落ちちゃったねぇ。びっくりびっくり


主人公;ちょっと! 何してくれてるんですか! 何が骨休めだこの野郎!!


シルヴィス;……姫。貴女、やはり何か知っているのですね


主人公;うっ


道化師;あ、面倒事になる前に消えようっと(消える


主人公;あっこら!


シルヴィス;これは、貴女の仕業ですか……?(にこ


主人公;え、……いえ~……温泉は気持ちがいいですね……


シルヴィス;ごまかしているつもりですかその下手くそな猿芝居で! 何をしたんですか!!


リオリム;お嬢様への暴言はおやめください! お嬢様の演技はお見事でした!


ユンファス;ええー……今それ言う? 見事じゃあなかったでしょ……


リリツァス;でも姫、事情が分かるの?


主人公;うっ……


エルシャス;ひめ、つらそう……だいじょうぶ?


主人公;は、はい、大丈夫です……


シルヴィス;大丈夫じゃないのはこちらなんですが!! 貴女何してくれたんですか!


リオリム;お嬢様は無実です! 何があろうとお嬢様は無実です!!


カーチェス;二人とも、暴れるのはやめて! 水がかかる、うっ


シルヴィス;散々面倒なことを引き入れておいてこの期に及んで何を!(主人公に掴みかかり


主人公;あ、(巻きつけていた布が外れる


全員;!!!!!!!!(全速力で主人公から目を背ける


リオリム;お、お嬢様に何てことを……、万死に値します、八つ裂きにして海に投げるしか


主人公;え、布が見つからないんだけど……


全員;!?!?!?!?


シルヴィス;ど、どこかにあるでしょう、ちゃんと探してください!!


ユンファス;そうだよ~、さすがにすぐに消えはしないと思うからさ……


エルシャス;……いっしょに、探そうか?


リオリム;いけません! 現状においてお嬢様に近づかれませんよう!


主人公;……本気で見つかんない……どうなってんの


道化師;あ、僕が隠しました♪


主人公;ひゃっ!? い、いきなり現れないでくださいよ!


道化師;いや~、いつでもどこでも僕は神出鬼没だからねぇ。大丈夫、見てないよ~。多分ね!


リオリム;……殺します。お嬢様に不埒な真似を働く者は、しかも道化師はいつか絶対殺します……


主人公;リオリムが滅茶苦茶怖いこと言ってるんだけど……


道化師;そんなに布が欲しいなら、この先に進めばまたどこかに落ちてるよ


主人公;……それって、取ったらやばい奴ですよね?


道化師;どうかなあ♪


主人公;……。わかりました。先に進みましょう


リオリム;しかしお嬢様


主人公;どのみち布があろうがなかろうが進むしかないんです。進みましょう


リリツァス;じゃ、じゃあ姫は最後尾でいい……? ひちっ


主人公;はい、大丈夫です


リオリム;くっ……お嬢様をお守りすることもできないとは、なんたる不覚


主人公;大丈夫ですよ、そのうち布も見つかると思いま……


エルシャス;あ、ぬの


リオリム;どこですか!?


エルシャス;あそこ(近くの岩の上を指す


リオリム;お嬢さま、こちらを!


主人公;え、ありがとう……、リオリム!?


リオリム;(湯に引き込まれる


シルヴィス;……。これは、わたくしの、せい、ということになるのですか……?


ユンファス;そうだろねぇ


リリツァス;あ!


主人公;な、何ですか?


リリツァス;見て、お菓子の家だよ!


主人公;な、なんでこんな熱気のこもった場所にこんなとんでもないものが……何で溶けていないんですか……


リリツァス;これ、マカロン……? マカロンだ! ぱくっ


主人公;えっ、ちょっと!?


リリツァス;あっ(湯に引き込まれる


主人公;り……、リリツァスのバカぁああああああああああああああああああ


カーチェス;……恐ろしいくらいみんな引き込まれていくね……


主人公;リリツァスのは! あんまりじゃないですか!? ノアフェスのやったこととまったく一緒ですよ!? 学習してくださいよ!!


カーチェス;うーん……でも……。これで、半分近く減ったことに……


エルシャス;……なんか、音、しない……?


主人公;お、音?


エルシャス;はっはっ、て音


主人公;ええ……何ですかそれ怖い……


ユンファス;なんか近づいてきてる気がするんだけど


主人公;ちょっと、怖いこと言うのやめ……、何ですかアレ


シルヴィス;……犬、ですかね


カーチェス;な、何でこんな場所に犬がいるのかな……?


ユンファス;しかも二匹いるねぇ


主人公;え、何でこっち来る……、え、ちょっ、や、(二匹の犬が主人公の頬を舐める


カーチェス;姫に悪戯をしないで!(一匹の犬を主人公から引き離そうとする


主人公;あ、さ、触ったらダメですカーチェス!


カーチェス;え? うわ!(湯に引き込まれる


エルシャス;……わんわん……もふもふ……まくら……(犬に抱き付く


主人公;いやだからだめですってぇええええええええええ


エルシャス;むにゃむにゃ……(湯に引き込まれる


ユンファス;……


シルヴィス;……


主人公;……。犬、消えましたね


ユンファス;……。うん、とりあえず姫、その頬っぺた、犬のヨダレでベタベタだからお湯で流したら……?


主人公;あ、はい……(湯で頬を流す


シルヴィス;……何故、こんなに……あっさりと……


主人公;……。何か、ほぼ私のせいで……すみません……


ユンファス;姫が謝ることじゃないよ……、とりあえず、進もう


主人公;うう……









続く

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