82.apple
「まず、姫の十分な休養についてだが――」
と、ノアフェスが言ったところで、「はい!」と手が挙がった。
「うむ。リリツァス」
「俺、俺! 子守唄を歌ったらどうかなって思います! へちっ」
「子守唄……?」
リリツァスの提案に、全員が顔を見合わせる。
「子守唄と言うのはあんな年齢になっても通用するのか?」
「えー、個人的にかなり面白い絵面なんだけど、それ。大の大人の男が年頃の女の子囲んで子守唄合唱すんの? 何その暑苦しい光景。今は面白さ求めてるわけじゃないでしょ」
「でも! 子守唄って寝つき良くなるからうたうんでしょ?」
「こもりうた……きいたことない。どんなの?」
エルシャスの問いに、全員が押し黙る。
「誰もわからないのでは話にならないではありませんか」
「いや待て。何となく……何となく、覚えがあるぞ。あれだ」
ノアフェスは咳ばらいをし、眼を閉じた。そして、
「ねーんねーんこーろーりーよーおこーろーりーよー……」
と、歌いだしたところで、ユンファスが手を挙げた。
「ストップ。何その辛気臭い唄」
「子守唄だろ」
「いや、無理だって。しかも何言ってるのかわかんない。なに、ねんねんって」
「要は、寝ろと言うことだろう」
「やめよう、ダメだそれ。暗すぎて姫が泣く。永久的に寝ろって言われてるみたい」
「ええと、そこまでは思わないけど……とりあえず聞いたことない唄だし、姫には馴染みがないんじゃない?」
「ノアフェスの国は姫とほぼ縁がないでしょうしね……その唄もわからないでしょう。それでは寝ようとしている時に突然暗い歌を耳元で延々聞かされるという半分地獄のような絵面になるのではありませんか」
「最低じゃん寝られないまさに悪夢」
「ふむ。駄目か」
「駄目だねぇ」
「ぼくうたう」
「へ?」
突然の意外すぎる発言に、全員の視線が小さな妖精へと向かった。
当の本人――エルシャスは特に視線を気にした風もなく、大きく息を吸い込むと、
「あーあーうー。うーあーあーあー」
「待って待って待って待ってへちっ」
リズムもメロディもない大声に、全員が制止を掛ける。エルシャスはきょとんとした顔になると、首を傾げた。
「……だめだった?」
「ご……ごめんね。ちょっと声が大きいから、姫もきっと起きちゃうだろうし。それに、それは多分子守唄じゃないよね」
だから今回はやめよう?と、カーチェスが穏やかに却下を言い渡す。
「っていうか何歌おうとしたのエルシャス」
「つくったの」
「……うん。だよね」
ユンファスはため息をつくと、頭を掻いた。それに、エルシャスがしょんぼりと肩を落とす。カーチェスは慰めるようにその肩をポンポンと軽く叩いた。
「子守唄はなし? へちっ」
リリツァスがそう問うと、「待って」とカーチェスが口をはさんだ。
「もしかしたら、思い出したかもしれない」
「え」
「何だ、歌えるのか?」
「ええと……あんまり自信はないんだけどね……」
「自信がなくてもこの際いいでしょう。とりあえず歌ってみてください」
「……あんまり歌は得意じゃないんだけど……」
「赤くなってないで歌ってみてって」
ユンファスの言葉に、カーチェスは困ったように視線を彷徨わせたが、暫くしてから息を吸い込んだ。
それから。
「いとし子よ 眠れよや
軒端を叩く 雨さえ耐えて長深き眠り
やさしく見守る
眠れよ あこよ 安らかに」
カーチェスの柔らかな歌声に、ややその場はしんと静まり返る。
思わず聞き入ってしまうほどには、彼の歌声は優しく温かかった。
しかし歌い終わった当人はやはり恥ずかしげに首を傾げる。
「……変……だった? ごめんね、歌はあんまり得意じゃないんだ」
「いい」
エルシャスがぽつんとそう呟いた。そして、ぱちぱちと拍手を始める。ついで、
「確かに……寝つき良くなりそうだよね。いいんじゃない、これ?」
とユンファスが頷くと、全員も頷き始めた。
「ふむ、悪くないんじゃないか。これならあいつも眠れるやもしれん」
「眠れるかなぁ……」
「自信を持て。何事も自信が一番だ」
「カーチェス……がんばって……」
「そうだよ、頑張って! 姫が死んじゃわないように! ひちっ」
「そ、そうだね……そうだよね」
「それなら早いうちに彼女の元へ行きましょう」
そう言って全員が席を立った時、地下からルーヴァスが階段を上ってきた。
「……皆揃ってどうした?」
「ねぇ、姫の様子はどう!? へちっ」
「姫か? 彼女なら今しがた眠りについたところだ」
「つまり、眠ってしまったのですか」
「しまった……? ああ、そうだが」
「では意味がないではありませんか」
「は?」
「じゃあ駄目じゃん。次の案上げよう、次の」
「了解! へちゅっ」
「つぎ……なにがいいかな」
「ふむ。どうしたもんか」
それぞれが再び席に着くと、状況を理解していないルーヴァスは訝しげに彼らを一瞥したが、特に何も言わずに台所へと向かっていった。
「では、引き続き会議を行う」
「次はどうします」
「休養は今のところどうにもできん。残るのは栄養だ。すぐ元気になるよう、精のつく食べ物がいいだろう。何がある?」
「栄養が大切……ってことはあれかなぁ。半分、食事が薬みたいな感じ?」
「そういうこと……になるのかな?」
「ふむ。良薬口に苦しと言うことわざを聞いたことがあるな」
「つまり体にいいものって苦いんじゃない?」
ユンファスの発言に、全員が「それだ」と言う顔になる。
「本で読んだけど、薬は不味いっていうしね」
カーチェスがそう言うと、リリツァスも頷いた。
「俺舐めたことあるけど、すっごく変な味したよ! まずかった! へくしゅっ」
「なんでそんなもの舐めてんの」
「にがかった……?」
「えっと……不味い印象しかないけど、苦かった、かも」
「ならば決定ですね。体にいいものは不味く、苦いのでしょう。ですがまあ、不味いの基準はひとによって異なりますし、ここは苦いものとした方がいいかもしれませんが」
シルヴィスがはっきりと言い切る。
「じゃああれかなー。苦いものをとにかく集めてスープとか作ったりしたらいいんじゃない?」
「お前冴えてるな」
「そう? じゃ、苦いものを各自集めて来ようよ」
「にがいもの……なんでもいいの?」
エルシャスがそう聞くと、ノアフェスが大きく首肯を返す。
「何でもいい。薬になりそうなものを全員でかき集めよう。そして……そうだな、一時間後にここに集合し、そこから料理を検討しよう」
「了解!」
――地獄が始まったことなど知る由もない少女は、まだまどろみの中にいる。
はい、お久しぶりです天音です。
幸せな3月が終わり、地獄の4月がやってまいりましたね、ははは。
……はぁ。
先月は僕の誕生月であったこともあったのか、読者様から色んなものを頂いた月でした。感想やレビューやファンアートなどなど……今までで一番素敵な誕生月だった気がします。ありがとうございました!
レビュー特典に関しては現在誠意制作中ですのでどうぞいますしばらくお待ちくださいませ。
さて。
まぁ新年度、ということで、みなさまに一つ発表がございます。
Twitterの方で僕をフォローしてくださっている方はもう大体お判りでしょうか。
ままてん、ゲーム化いたします!
冗談か? と聞かれそうですが、冗談ではありません。
ままてんがRPGになります。
その証拠がこちら。
※画像は開発中のものです。
……はい、これでもかというほど載せてみました。
いかがでしょう。
ちなみに主人公はこんな感じになります。
ちまいですね。はい。ちまいです。
まぁ素人の作るものなのでアレですが、ぜひとも読者の方々に楽しんでいただけたら。
タイトル画はラフ画なので、雑の極みで恐縮です……。ちなみに暗そうに見えますけど、ホラーじゃありません。ホラーじゃありません(大事なことなので2回)。内容としては本編ではなく、本編を元に作られたミニゲームと言うことで、主人公が妖精たちの依頼に応えていく……といったものを予定しております。すべての依頼が終わったら豪華なご褒美が……?
……と言う感じです。
公開は5月中旬を予定しておりますが、何分ゲームは処女作となりますので、至らないところも多いと思われ……というわけで、大変申し訳ないのですが、読者様全員ではなく、特定条件を満たした方にのみ配布させていただきたいと考えております。
あと大切なことなので一応付け加えておきますと、PCでしか動作いたしませんので、スマホ・ガラケーのみ使用される方には大変申し訳ございませんが配布できません。なにとぞご了承くださいませ。
いずれままてん本編をあますところなくつぎ込んだRPGを作ってみたいものですが、それは次の機会と言うことで……今回はミニゲームの配布となります。
もし少しでも興味のある方は、後々発表される特定条件を満たしていただけたらと思います。
と、いう、エイプリルフールネタでした!
今回はよくできていたエイプリルフールではないでしょうか!
画像があると説得力が違いますね! ははは!
……すみませんごめんなさいタチの悪い嘘はやめろと怒られそうこわい。
ちなみにあながち完全なウソでもなくてですね、ごらんの通り、画像があるということは……?
まぁ5月中旬とか! 多分無理ですけどね!
ですがいずれ配布すると思われますので、その時にはまたこちらで告知させて頂こうと思います。
ではでは、本日はこのあたりで。
以上、エイプリルフールが楽しかった天音でした。
全力のエイプリルフール大好きです!!(笑