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7.apple

「……み、皆さん武器が違うんですね」


 黙り込むのは良くないだろうと適当に言葉を零すと、律儀にもルーヴァスが反応してくれる。


「武器一つ一つにデメリットがある。それを補う為にも異なっている方がいい」

「デメリット?」


 何気なく問い返してみると、ルーヴァスは「例えば」と解説をしてくれる。


「わたしの場合は槍だが。槍は遠距離からの攻撃に長けているのがメリット。反対に、近距離戦に弱い。眼前に来られては攻撃は返しにくい」


 なるほど。


 考えたこともなかった武器のメリット・デメリットに感心していると、補足するようにカーチェスが口を開く。


「俺の場合も。鎌はリーチが広いから、敵がちょっと近くにきている時は対処がしやすい。けれど懐に入られた場合、攻撃はしにくい。だけど、ちょっと離れた所に銃を使うシルヴィスがいたら、対処してくれる」


 つまりそれぞれの武器のデメリットを補い合っている。そのために全員違う、と。


 まぁ確かに、全員剣、とかじゃ遠距離の攻撃できないしね。そうだったら私もまだ逃げる気が起きたかもしれないのにね。無理だよね。まぁ多分それでも普通に殺されると思うけど。


 っていうか、リーチが広い? ってことはなに、もしかして鎌って……滅茶苦茶に大きかったりする、の、か?


「――さて。そんな話はいいでしょう。もう寝ましょうよ」


 シルヴィスが鬱陶しげにそう言うと、みんな一様にそれに頷いた。


「ぼくも……ねむい」


 エルシャスが手で目をこすりだす。物凄く可愛いけどこの子が斧を使うんですね。何それ怖い。


「君はずっと寝てるみたいな感じだけどねー」


 ユンファスが笑いながらエルシャスにそういうと、


「まぁ、今日はみんな疲れてるから」


 と、カーチェスが困ったように微笑んだ。


 そういえばそうか。完全に忘れてたけど、彼らは仕事から帰ってきた後なんだった。


「お姫様はどこに寝るの?」


 ユンファスが聞くと、シルヴィスがおもむろに下を指した。


 ん? 下?


「床でいいでしょう」


 待て!!


 流石に反論しようとすると、ユンファスが代わりに聞き返してくれる。


「え、床はちょっと酷くない?」

「この家に余分なベッドがあるとでも? それとも貴方がその姫君にベッドを譲って床で寝たいというのならそれでも結構」

「やー、それはきついかなー」

「“小屋”は使えないでしょう?」


 シルヴィスがノアフェスに問うと、無表情のまましばらく黙り込んだのち、


「…………寝具を持って来いとでも言うのか?」

「まぁ、そういうことになりますね。嫌でしょう? でしたらその姫君は床か、床が硬くて嫌だというのなら……」


 言うのなら?


「森の中で熊の家に連れ帰ってもらうことです」


 死ぬ!!


「ゆ、床で寝ます」


 顔を引き攣らせてそう答えた私に、ルーヴァスが顔をしかめた。


「だが女性だ。やはり床は無理がないだろうか」

「では貴方が寝台を譲りますか? 当たり前ですけど、貴方は床で寝ることになりますよ」

「……それしかないのならば、致し方あるまい」


 ルーヴァスがそう言うが、是が非でも縋りつきたい気持ちだったけど、さすがにそれは申し訳ないので一応断る。


「あ、大丈夫ですから! 私、授業……じゃなかった、ええと……会議とか! そう、会議とかでよく寝てる方の人間でしたから! どこでも寝れると思います!」

「つまりはろくでもない女王だったということですね」


 身も蓋もないシルヴィスの言い方に私は顔を引きつらせた。


 私は授業でもそんな寝ない人間ですよ!! でも今のは安心させようと思って言っただけなんだから!!


「会議って……ひちっ、そもそも、女王が会議に出ることへちゅっ、って少ないんじゃ?」


 くしゃみをしながらリリツァスが不思議そうにそう聞いてくる。ぐっ、そんなこと考えていませんでした。いらないところ突かないで……ボロが出る。


「あ、え、あぁ、それはその、王の代理、です」


 私がしどろもどろに答えると、


「どうしようもない人ですね」


 シルヴィスが鼻で笑った。どこまでも腹の立つひとだな。


「会議はこの際置いておこう。いずれにせよ女性を床で寝かせるのには抵抗がある。何か考えねばならないだろう」


 ルーヴァスが悩ましげに首をひねると、


「あした……ベッド、作る?」


 エルシャスがちょこんと首をかしげる。するとシルヴィスが途端に嫌な顔を見せた。


「折角久々の休みなのにですか? 冗談じゃありません」

「ならば買いに行くか」

「待ってください。衣食住だけでも金のかかる居候ですよ。その上寝台だの何だのまで揃えてやる必要がどこに? 必要なら自分で作らせればいいではありませんか」


 無茶だ。それはいくらなんでも無茶苦茶だ。作るってことはつまり、木を切って削って組み立ててシーツを縫って……ってことでしょ。死ぬ。

 高校生ですよ。女子高生。凡庸な私がそんな技術を持ってるわけないでしょ!


「待って待って。作る云々はともかく、今話すべきはお姫様が今日寝る場所でしょ」


 ユンファスがそれた話を元に戻す。ほんとだよ、明日のことより今日のことです。


「……判った」


 おもむろにそう言ったのはノアフェスだ。皆が彼に視線を向けると、彼はやはり無表情のまま、


「俺が“小屋”に行く。姫は俺の寝台で寝かせてやれ」


 そういえばさっきも会話に出てたけど、小屋ってなんだろ? ここのことじゃないわけだよね?


「いいんですか? それで」


 シルヴィスが問うと、彼は頷いて


「元々そろそろ行こうと思っていた所だしな」


 と言う。私には何のことやらさっぱりだ。


「……はぁ。運の良いお姫様ですね、全く」


 シルヴィスは私を見て心底嫌そうにそう言い放つ。そうも顔に出さなくていいじゃないですか!


「……あの……えっと、いいんですか?」


 よくわからないが彼が私に寝台を譲ったことは確かだろう。念のため確認してみると、


「構わん。ゆっくり休め」


 そう言ってノアフェスは玄関から出ていった。


「わー、ノアフェス優しいね」


 ユンファスが感心したようにそう言うと、


「……まぁ、確かに……誰であれここの床で寝かせるのには、抵抗があるのだろう」


 とルーヴァスが下を見た。それにつられて私も下を見てみると……って、(きったな)っ!!


 埃まみれだし!! 何か色々落ちてるし!! いやいやここで寝るのは絶対無理だよ! ノアフェス本当に有難う御座います!!


 っていうかこの家、よく見てみると……よく見てみなくても滅茶苦茶に汚いじゃない! 何をどうすればここまで汚せるわけ?

 ……仕事は山積みだな、これ。とりあえず床がまともに見えるように掃除をするところから始めなければ……


「さ、もう寝ましょー」


 ユンファスの言葉を受け、全員二階に向かい始めた。


 廊下でそれぞれの部屋へと入っていくのを見つつ、私は扉に掛けられたネームプレートを見てみる。……まずい、読めない。何この文字。これじゃ私の寝る部屋が判らないじゃない。


 と、後ろから「何してるんですか」と嫌な声がかかった。恐る恐る振り返ってみると、案の定そこにはシルヴィスの姿。


「えーと……」

「貴女の部屋は一番隅のそこですよ」


 と、指差された部屋を見てみる。その間にも彼が自分の部屋に行こうとするので、何気なくその行き先を目で追ってみると……最悪なことに、私の部屋の隣だった。


 隅の部屋だから隣の部屋は彼の部屋しかない。よりによって唯一の隣人が彼なわけですね……うぅ。


「なんです、その顔は。言っておきますけど隣人が最悪で嫌がっているのは貴女だけではありませんからね」


 つまりあなたも嫌がってると言いたいんですね。一体私が何をしたというんでしょう。


 居候が来たから嫌がるって言うのは判るんだけど、何故か彼の場合は「憎い」とか言ってたし、居候を嫌がっているだけとは思えない。


 ということは、どれだけ働いても認めてもらえない可能性が高いということ。


 仮に認めてもらえたとして、惚れて貰うなんて夢のまた夢だ。


 ほんとに、何て厄介な役柄なの……


「あぁ、そうです。一つ、忠告をして差し上げましょう」


 シルヴィスは自室に入ろうとしたところで振り返ってそう言ってきた。何かと首をかしげると、彼はにやりと笑った。


「ノアフェスが行くと言った“小屋”。命が惜しいのなら近づこうだとか探そうだとか、馬鹿なことは考えないことです」


 …………は?


 え、小屋って……あの、彼が多分寝に行った所だよね? え、そんなに怖い場所にあるの? ハンターじゃないと入れないような? まさか猛獣の家とご近所とか言わないだろうな。


「あの……何でですか?」

「そんなことを教えて差し上げる義理はありません。気になるのなら殺されるのを覚悟で行ってみては如何です? それで貴女がここへ帰ってこないのならわたくしも万々歳ですからね」


 どうしてそうも薄情な言葉がぽんぽん出てくるのかなぁ……


 とはいえ反論しても恐らく仕方ない。それにそもそも、こんな迷いの森の中をふらふらと不用心に歩くようなことは私にはできないだろう。


 ともかく、彼が忠告してくれたことには変わりないので、


「忠告有難う御座います。ええっと、おやすみ、なさい」


 私がそう言うと、シルヴィスは二、三度瞬きをした後ふっと笑って、


「おやすみなさい。せいぜい良い夢を」


 と言って部屋に入っていく。ぱたん、と彼の部屋の扉が閉じるのを確認して、私は静かにため息をついた。


 ……先が思いやられるわ……

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