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「ユンファス、今いいですか」


 ドアにかかっている、謎の文字が書き連ねられたネームプレートを何とか読み解いて、私はユンファスの部屋の扉をノックした。両手に料理の乗った盆を抱えているので、かなりノックも大変である。


「あぁ、ちょっと待ってねー……」


 ほどなくして扉があけられると、ひょこりとユンファスが顔を覗かせた。ふわふわとした金の髪が揺れる。開いた扉からは、ほんのりと花の香りが零れてきているように感じられた。ユンファスは私を認めると、そのまま部屋から出てきて扉を閉める。そしてにこりと私に笑いかけた。


「ごめんねー、姫。手間かけちゃってさ。ほんと、情けないよねぇ」


 と、飄々とした様子で彼が肩をすくめる。


「いいえ、構いませんが……体調は大丈夫なんですか」

「うん、心配しなくていいよ。姫は優しいね。大丈夫だいじょーぶ」


 ぽんぽん、と、頭を軽くなでられる。しかし言葉とは裏腹にユンファスの顔色はまだいいとは言えず、元気とは程遠そうだった。


「ユンファス、狩りの際に無理でもしたんですか。酷い顔色です」


 踏み込まない方がいいとはわかっているものの、つい訊ねてしまう。それくらい、彼には元気がなかった。

 聞いてしまった、と思う私に、しかしユンファスは困ったように眉尻を下げる。


「いやー、そんな記憶はないんだけどねぇ」

「……じゃあ、病気……とか、そんなことはないですか。風邪?」

「……。姫」


 ユンファスはほんの少し、寂しそうに笑った。なぜかわからないけれど、それは寂しげなのに、どうしようもなく安堵した表情に見えた。


「君は本当に知らないんだねぇ」

「え?」

「ううん、何でもないよ。さ、料理をもらってもいいかな?」


 と彼が手をこちらへ向けてくる。

 私はその手に料理の盆を載せた。


「食欲はありますか? 消化の良いものの方がいいなら、作り直しましょうか」

「あはは、ありがとう。食欲はあるよ。心配しないで。食べ終えたら後でお皿持って行くねー。頂きます」


 彼はそう笑いかけると、片手に盆を載せて自室の扉を開け、そのまま引っ込んでしまった。


「……大丈夫かな……」


 この家の住人は体が弱いのだろうか。

 以前、確かノアフェスが「リリツァスが倒れた」などと言っていたような気がする。

 妖精は人間に比べたら体が弱いのかもしれない。


「……ルーヴァスかカーチェスなら、教えてくれるかな……?」


 私はそんなことを考えながら、二階からの階段を下りていった。




 未だに水に指を浸していたノアフェスにもうやめていい旨を伝えると、ノアフェスは無言でうなずき、さらっと朝食のつまみ食いをしてリビングへと去って行った。今から食べるんだからつまみ食いしないでいただきたい、まったく。まぁつまみ食いされた辺りをノアフェスに渡すから別にいいけど。


 私がそんなことをつらつらと考えながら朝食を運ぶ用意をしていた時、ふっと影が差し掛かった。


「手伝おうか?」


 軽やかに響いたのは、聞き覚えのある声。カーチェスである。

 振り向けば、やはり少しばかり髪の湿っているカーチェスが、ぞんざいに白い髪を一括りにしたままこちらを見ている。彼に関していうならばハーフアップに見慣れているのでなかなか新鮮な姿だ。いつも髪を結わえているリボンは、濡れるのを避けるためか腰に巻き付けた紐に掛けられている。


「あ、カーチェス。お風呂あがったんですね」

「うん。さっぱりしたよ。君のおかげだね、ありがとう、姫」


 にこ、と微笑む彼を見ると、こちらもいい気分になる。沸かしておいてよかった。今度から仕事帰りの日は風呂を沸かしておこう。


「それで、手伝っても大丈夫かな?」

「あ、わざわざいいですよ。私が持って行きます」

「俺の手が空いてるんだから、俺が手伝えば早く終わるよ。ね、手伝わせてくれないかな」


 カーチェスは柔らかく微笑み、首を傾げる。何ていい人なのか。


「では、お願いしてしまっても……?」

「うん、大丈夫。さぁ、貸して」


 差し出されたカーチェスの手に皿を載せると、彼はそれを受け取って颯爽と立ち去って行く。うん、照れなければ本当にイケメンなんですけどね。まぁ照れているのは照れているのでなかなか可愛いからいいか。本人に言ったら「男なんだけどな……」と眉尻を下げられそうだけれど。


「さてと、残りを運びますか……」


 私がそう呟いて料理を運ぼうとしたとき。


「ルーヴァス!?」

「おい、どうした!!」


 リビングから悲鳴のような声が聞こえて、私は思わずカトラリーを取り落した――











 ――同時刻。


「はーぁい、今帰ったわ!」


 聞き慣れた無駄にテンションの高い声に、男はうんざりとため息をついた。


「永遠に帰ってこなくても一向にかまわなかったぜ、こちとらはよ」

「まったく照れ屋さんねぇ、あんたは。あたしがいない間、何か面白いことはなかったわけ? こっちは結構楽しんだわよ~。おかげで予定より遅れちゃったわ」

「……面白いこと、ね」


 男が煙管に火をつけると、もう一人の方はにやにやと笑みを浮かべる。派手な装いをしたその人物は、中世的な顔立ちから性別を見分けるのが難しいように思われたが、その身にまとったドレスと唇を艶やかに彩る真紅の口紅は、その人物が女性であることをうかがわせた。すらりとした体躯、流れるような赤い髪、大きな緑の双眸、透き通るような肌――そのどれもが現実離れしたように美しく、艶めかしい。その美しさと、何より尖った耳はその人物が人間ではないことを如実に語っている。


「その様子だと何かあったわね? やっだもう、もったいぶらないの!」

「うっせ、黙れこの野郎」

「やだわ、可憐な乙女に対してその態度。信じられない! まぁいいわ、あたしは寛大だもの、許してあ・げ・る」


 ぱちん、とウィンクをよこされ、男の方は悪寒に震えた。大変気色悪い。彼としては生理的に無理だった。

 とはいえ実はこれが彼の腐れ縁である――長年ともに歩んできたものだが、未だに何がどうしてこうなったのかわからない。とかくこいつは気持ち悪い。この一言に尽きる。


 彼がそんなことを考えているとはつゆほども知らぬその人物は――いやむしろ知ってはいるがいつものことなので特に気にかけてもいないのかもしれない――楽しそうに男の肩にしなだれかかった。深い赤色の髪が男の尖った耳に垂れる。それを男は大変不愉快そうに払いのけたが、赤い髪の人物は全くもって気にした様子もなく問いかけた。


「で、何があったのよ」

「シルヴィスが来た」


 男の簡潔な答えに、


「あらやだヴィスちゃんが来たの! もう、ちゃんと前持って言っておいてくれればあたしだって出迎えたのにぃ」


 とシルヴィスと親密な様子をうかがわせたその人物は、唇を尖らせて不満をあらわにした。


「てめぇの不気味な顔なんざお断りだとよ」

「あたしが美人だからって照れてわかりやすい嘘言わないの、もう。あたしはそれが照れ隠しだってわかってるからいいけど、そうじゃない子は傷ついちゃうわよ。結婚できないわよあんた」

「知るか」


 男が腐れ縁から極力視線を外しながら吐き捨てると、「それで?」と問いを投げかけられる。


「ヴィスちゃんは、なんて? あたしに会いたいって言ってたのかしら?」

「んなわけあるか。……あいつが」


 男は少し目を細めた。いつも顰め面のその顔が、さらに機嫌悪そうに歪む。


「人間を、連れてた」

「……あら」

「……それもさらにわけが悪いことに、どうも“女王陛下”だそうだ」

「あらあらあら……」


 赤髪の人物は、にぃっと唇の両端を吊り上げて怪しげな色を含んだ笑みを浮かべた。


「なんだか楽しそうなことをしているじゃない。会ってみたかったわ?」

「しかしどうもきなくせぇんだな、こいつが……記憶喪失だとぬかしやがった」

「女王が?」

「あぁ。しかもシルヴィスの様子からするとあながち嘘でもないかもしれねぇ……だが、仮にそうだとして、だ。『鴉』はどうしてる? 記憶喪失になったにしても、鴉がその辺に女王を転がしておくとは考えにくい」


 男の問いに、赤髪の人物は笑みを深める。


「それが、消息が知れないのよねぇ」

「あぁ?」

「鴉。あたしも面白そうだと思って調べてみたわ。以前から鴉は調べてみているのだけれど――でもそもそも、一切の詳細が浮かんでこないのよ。……おそらく、帝国そのものが丁寧に施してあげたんじゃないかしら」

「クロで決定か」

「恐らくね。でも残念だわ。会えば気配でわかるかもしれないのに、本当に慎重……その姿すら見せないのだもの」


 その場に沈黙が満ちる。


 『鴉』の消息が知れないとなると、少々まずい。


 何故ならあれこそがおそらく、女王の最有力の手駒だからだ。その実態すら掴ませないその私兵こそが。何人いるのか、どのように編成されたのかすらわからないその私兵こそが、あの無力な少女の、絶対的兵力。……恐らく普通の人間が百人、千人かかったところで女王には指一本触れさせないであろう、最強の兵力。


 それが今現在どのように動いているのか、わからないとなると、女王を彼ら七人に抱え込ませたままで問題ないのかがつかめない。

 あの七人が無力かと言われれば、絶対にそんなことはない。むしろ、その七人の頭になるあの妖精がいれば、ほとんどのものは片づけられるだろう。少々面倒な“制約”が邪魔をするだろうが、ねじ伏せることそのものは造作もないはず。


 が。


「鴉がクロなら、どうなるかわからん。どうしたもんかね……」


 男はがしがしと頭を掻く。すると赤髪の人物は男に再び問いかけた。


「ヴィスちゃんは、その子のことを、なんて?」

「煮え切らねぇ返事だったな。ただ、あのお方のご意向だそうだ」

「あらぁ……。あのひとがそんな向こう見ずなことをするとは思えないのだけれど?」

「命令だっていうんだから仕方ねぇだろ。……しかしあんなものを抱え込んで何の得になるのかね」


 男がうなると、赤髪の人物はすっくと立ちあがった。


「もう一度、調べに遊んでくるわ」

「は? 今からかよ」

「あら何、あたしがいないと寂しいわけ? やだ、可愛いところあるじゃない!」

「死ね」

「はいはい照れないで可愛いんだからぁ。あたしはあんたに特に興味ないけど」

「興味あるようなら張っ倒して店から締め出してる」

「やだ熱烈な愛の告白ね! まぁいいわ、今からまた鴉を調べに行ってみる。あれだけ強大な兵力だもの、絶対に何かつかめると思うのよね」

「好きにしろ」


 男が短くそういうと、赤髪の人物は懐から小さな紙の束を差し出した。男がそれを受け取ると、赤髪の人物は再びぱちんとウィンクをする。


「……」


 男が半眼になったところで、赤髪の人物は洒落た黒の帽子を被って玄関のドアを開く。


「じゃ、行ってくるわ」

「……」


 男は何も言わないかに思われたが、やがて、


「……気を付けろ」

「言われなくても」


 赤髪の人物は笑みを浮かべると、闇に溶けるようにして去って行った。


「……適当に遊んでこい、」


 サファニア。


 その名は誰に届くこともなく、静かに空気に解けていった。

 1ヵ月以上相手の更新とかもうやる気あるのかよと言われそうで震えながら登場しました天音ですおはこんばんちは。


 いやー……凄いですね! やる気はあるんですよ、やる気は。ええ、ありますとも。ただ体が追い付かないだけで。年を取るって怖いなぁ(白目


 まぁ冗談はさておき10月の修羅場がようやく終わったのでひょっこり顔を出してみました。しかし実は年末まで忙しくなるよとかブラック認定していいですか。

 いやいやそんなことはどうでもよろしい。


 さて、ハロウィンです! カボチャカボチャ。

 え? 今日はもうハロウィンじゃない? 嫌だなぁ、読者様、そんなわけがないじゃないですかあははははは。


 ……はい昨日投稿する予定でした。すみません。


 いやー、去年も思ったんですけど、カボチャのスープが切実に飲みたい。

 ハロウィンそのものはまあ、仮装もしない人なので結構縁遠いですが、カボチャは好きです。美味しい。


 はい、僕の話はどうでもいいですね。


 で、まぁイベントと言ったらままてんですよ。天音が騒ぎます。

 というわけで今回もショートストーリーを用意してみました。


 というか、一応今回のこれもあれになります。お気に入り登録1000件記念企画。つまり第二弾。


 今回はリクエストにあった「主人公死亡の際に選択肢に上がったシンデレラIFを見てみたい」というお声から。やー、ありがとうございます。

 一切全くもってその話にはなりませんでしたが、とりあえず主人公を無理矢理シンデレラに仕立てあげてみました。やればできる子、主人公。ただし気分はどうやったって乗らない。


 しかしあれですよね。一向にままてん本編が春から進みませんが、実は秋になったら収穫祭をやってみたいなぁって昔から考えているのに、ほんとに進みませんね。辛い。

 収穫祭になったらみんなでこそこそお祭りに行って仮装に無理矢理参加させられてっていう描写をね、やってみたいのにね……


 うん、文句はこのあたりにしておきましょう。遅筆な自分が悪い。くそう。


 前置きが長くなりましたが――しかもほぼどうでもいい情報しかない、むしろどうでもいい情報しかない――ではでは、ハロウィン小話、どうぞ!

 







※本編とは無関係の内容となっております。ご了承の上、お読みくださいますようお願い致します














道化師;可愛い可愛いシンデレラ♪


主人公;……


道化師;その名の意味は灰かぶり♪


主人公;…………


道化師;つまり誰でもなれるよね♪


主人公;何が言いたいのかわからない上に聞くに堪えないほど音痴なので歌歌わないでください


道化師;え、僕結構歌上手くない!?


主人公;あなたの声がもう生理的に無理になってきて聴いてたら気持ち悪くて音痴に聞こえてくるんです


道化師;ねぇ僕にも人権というものがあるよ?


主人公;あなた人間なんですか?


道化師;……。人間じゃないけど


主人公;なら人権はありませんね。人間じゃないですから


道化師;ねぇ継母ちゃん。君、もうちょっと可愛くなる努力をしよう?


主人公;それは白雪姫を参考にしろということですか? お断りします


道化師;わざわざそこに彼女を持ってこなくていいよ! 普通に可愛くなる努力をしていこうよ!


主人公;鬱陶しいので何でもいいんですけどなんでまた現れたんですか


道化師;言葉に棘しかない


主人公;寝ていいです?


道化師;まだ用件一言も言ってないけどね!?


主人公;用件は最初に言うべきじゃないですか? 意味の分からない歌を聞かされてこちらは疲労困憊です


道化師;歌だけで!!!!


主人公;で、要件は何でしょうか?


道化師;うん、無視なんだね……知ってたよ……僕結構メンタル弱いのにな……


主人公;リオリム、どう思う?


リオリム;えぇ、お嬢様の仰る通り、大変鬱陶しいことこの上ないかと


道化師;二人して酷くない? 酷くない?


リオリム;お嬢様、寝ましょう


主人公;リオリム、あの赤髪への参考に子守唄をリクエストします


リオリム;かしこまりました。では……


道化師;はいそこいちゃつかない! ここぞとばかりに仲いいよアピールしない! あのさ、僕だってね? 色々考えて今日ここに来たんだよ


主人公;なら用件を簡潔にどうぞ。くだらないものなら、即刻寝ます


道化師;……。気を取り直して……


リオリム;お嬢様、歯は磨かれましたか?


主人公;うん、もう終わった。お風呂も入ったし、着替えも終わったし


道化師;寝る準備ばっちりみたいな会話やめてくれる? はいはい本題に入るよ! つまりこれ、Trck or treat!!


主人公;……


リオリム;……


道化師;……


主人公;……何様ですか?


道化師;辛辣!!


リオリム;お嬢様をこのような危険地帯に連れ出した挙句菓子を強請るなど言語道断ですね。許されません


道化師;お、お菓子ねだるくらい良くない……?


主人公;対戦相手からもらったらいいじゃないですか


道化師;それはなに、死神姫のこと言ってるの? あーだめ、それはダメ。彼女、作らないから。食べる側だから。いつも僕が用意してるの


主人公;なら適当に作ってラッピングして自分から自分へ送ればいいじゃないですか「あげるよ僕」「有難う僕」みたいな


道化師;それ痛い人だよ? 虚しいよ? 辛いよ?


主人公;その様子を見せて頂けるなら温かく見守ってあげますよ


道化師;嘲笑う気満々だね?


主人公;で、それだけなら私もう寝たいんですけど


道化師;そうは! 問屋が! おろしませーん!!


主人公;あーはいはいこの流れもう何回も知っているので。で、今回は何ですか


道化師;……継母ちゃんのスルースキルがカンストしてる……辛い……えっとね、お菓子をくれないならね、いたずらするよ……


主人公;意気消沈した様子で言われても同情心とか誘えないことを理解してくださいね


道化師;君さ、情とかそういうものある?


主人公;逆にお聞きします。色々なものを無理矢理放り出すことになって私ここに来たんですけど、その元凶のあなたには情があると言えるのでしょうか?


道化師;……。てへっ☆


主人公;禿げてください


道化師;えげつない悪口だ!!


主人公;夜中に叫ばないでもらえますか? 凄くうるさいです


道化師;ねぇ君元からそういう性格なの?


主人公;放っておいてください


道化師;……。えっとね、お菓子をくれないなら君にはシンデレラになってもらおうと思うんだ


主人公;話の流れがびっくりするぐらい見えてきません


道化師;あ、うん……。まぁそこは色々な都合でね。でも大丈夫。君は地味だけどそれなりに可愛いからさ、シンデレラもやれるって!


主人公;さらっと貶された気が


リオリム;許せませんね。お嬢様、こんな男は放っておきましょう。もう夜も遅いのですから、寝ても……


道化師;今寝たら僕怒って継母ちゃんに白雪姫のヒステリックな声をお届けするよ!


主人公;……。


リオリム;……。


道化師;……毎回脅しているとさ、流石に罪悪感湧いてくるよね


主人公;他に選択肢がないんですか


道化師;だって脅さないとやってくれないじゃん!!


主人公;当たり前です、暇じゃないんですから


道化師;僕だって暇じゃないけどね


主人公;へぇ


道化師;何その疑惑のまなざし。心にくるからやめて。で、シンデレラにはミッションがあります


主人公;王子をたぶらかして靴を捨てて来いと?


道化師;なんでそんな刺々しい言い方するの?


主人公;実際そういう童話だった気がするしそもそももう童話とか勘弁してほしいんです白雪姫という童話がもはや嫌いになりそうなので


道化師;あ、うん、ごめん……いや、でも! シンデレラになったら継母ちゃん、凄く可愛いドレスが着れるよ! 女の子の憧れだよね!


主人公;いらない


道化師;えっ


主人公;必要ないです


道化師;……え、


主人公;そもそも何でドレス着なきゃいけないのか意味わかんないし歩きにくそうだし暑苦しそうだしあとコルセットきつそうですよね。ガラスの靴とか足を痛める用途しか思いつかないしそもそも国中の女性の靴が合わないほど私の足小さくないんで。っていうか纏足(てんそく)ですか。そんな足の人間普通いないでしょう


道化師;……。いや、そうかもしれないけど……だって、ほら、そう、リオリム君! リオリム君だってさ、継母ちゃんの可愛いドレス姿とか見てみたくない!?


リオリム;……そ、れは


主人公;え、見たいの


リオリム;……そ、の。お嬢様が嫌がるものを、無理矢理とは、思っておりません


道化師;つまり見れるなら見たいよね? こう、ばーんと大胆に肩とか胸とか出して


リオリム;それではお嬢様が風邪をお召しになるかもしれませんので、露出度は控えめでお願いします


道化師;なぜ真顔で文句をつけられたのかわからない。っていうかそこは別に大した問題じゃないんだよね。普通のシンデレラとは違ってね、継母ちゃんにはたくさんの貴族と話してもらいます


主人公;嫌な予感しかしない


道化師;大丈夫、怖いことなんてないよ! いろんな貴族からハッピーハロウィンの品物もらってくるだけだから簡単だね!


主人公;要はもの乞いをしろと


道化師;何で君はそういう言い方するかなぁ


主人公;っていうか普通に考えてくださいよ。いきなりのこのこ舞踏会かなんかに出てみたところで普通の貴族は相手にしませんから


道化師;大丈夫、みんな優しいから! 七人全員からもらってきてね! できなかった場合はまぁ考えておくよ


主人公;あー、嫌な予感がする。……確実に私以外の誰か巻き込んでますよね? あの七人とか


道化師;……。まぁ人生そういうこともあるよ!


主人公;あなたがそうしているんですよこの野郎。やらなかったらどうなっ


道化師;やらなかったら君は白雪姫と一日ずっと一緒の部屋に閉じ込めるよ


主人公;……うわ……


道化師;じゃあ一夜だけ灰かぶりを楽しんでおいで


主人公;いや楽しめないんですが


道化師;そういうツンデレはいいから、楽しんできてね!


主人公;あなたはスジェルクか


道化師;じゃあいきまーす。目をつぶってねー。アインス、ツヴァイ、ドライ!


主人公;は、ちょ、待っ






主人公;……。どこだ、ここ。……。リオリムの鏡もなくなってる……


???;おいこらこの灰かぶりが。仕事をさぼるんじゃねぇぞ。俺が舞踏会へあのバカの迎えに行っている間に、この屋敷の掃除を全部終わらせろよ、いいな


主人公;は、……え、あなた、


???;あぁ?


主人公;く、クファルスさん! あの、すみません、他の七人がどこか知っ


クファルス;気安く俺の名前を呼ぶなこの灰かぶり野郎


主人公;……。えぇええ……


クファルス;いいな、掃除を終わらせておかねぇとてめぇの命はないと思え


主人公;シンデレラってここまで血なまぐさい話だったっけ


クファルス;聞いてんのかおい


主人公;き、聞いてます聞いてます。掃除しておきますできるだけ


クファルス;俺が帰ってくるまでだぞ、いいな(去っていく


主人公;はぁ。……。あれ、シンデレラって継母と義理の姉じゃなかったっけ? 男の人にいじめられた記憶はないんだけど。しかも思いっきりクファルスさんにこき使われているらしいこの状況、どうしたらいいの……。っていうかあれだわ、舞踏会。舞踏会いかないとダメってことは、無理矢理でもクファルスさんについていかなきゃいけなかった奴では


???;ほらほらそんな顔しないの☆ さ、灰かぶりはあの人物を呼ばないと舞踏会に行けないでショ☆


主人公;あの人物……? っていうかこれあのナルシストの声、


???;ナルシストじゃないよ僕は素直なだけ☆ じゃないじゃない、僕はあれだよ、あの魔法使い


主人公;……。フェアリー・ゴッド・マザー?


???;そう、ほら、来てくださいって呼んで呼んで☆


主人公;……。フェアリーゴッドマザー、来てください


スジェルク;ハァイ、コンバンワ☆ 泣きはらして可哀想に、可愛い可愛い灰かぶり☆


主人公;まぁ一切泣いていませんが、とりあえず馬車ください


スジェルク;……えっ、それだけ?


主人公;馬車あればとりあえず城には着くと思うので、それでいいです。正直ドレスとかあんまり似合う気がしないので、着たくないんです。ああいうのは可愛い人がきていればいいですから


スジェルク;そんな謙遜しなくても、お姫様は十分可愛いよ、自信持ちなよ~☆


主人公;わかりやすいお世辞をどうも。全然嬉しくないので、そういうのはいいですよ


スジェルク;えー? もっと自分に自信を持とうヨ! 自分は美しい、誰より美しいってサ!


主人公;あなたの話はどうでもいいので、馬車お願いします


スジェルク;馬車だけじゃつまらないからドレスもあげるヨ


主人公;いえ、結構で


スジェルク;はーい、アインス、ツヴァイ、ドライ!


主人公;うわ、家の外に馬車が


スジェルク;ほらほらキミも可愛くしないとネ☆ よっ、と!


主人公;……。動きにくい……


スジェルク;可愛いドレス仕立てたのに開口一番にその台詞は流石にクールな僕もびっくりだよお姫様☆


主人公;まぁ仕方ないですね、流石に一般人の服で城に入るのはまずいでしょうし、これで行きます


スジェルク;待って待って大事なものを忘れてるよ! ハイ、ガラスの靴☆


主人公;何か……履いてても、足、痛くないですね?


スジェルク;うん、ちょっと色々施してみたから。柔らかく感じるでしょ☆ やー、ほんっとボクって優秀。世の中の女の子がボクに憧れちゃうのも仕方ないネ……


主人公;きもちわr……じゃなくて有難う御座います。行ってきます


スジェルク;あーダメダメ! 馬車の御者がいないと! ほーら、よっと☆


主人公;馬車の前に人影……? まさか


スジェルク;さ、行っておいで☆






主人公;リオリム!!


リオリム;お嬢様! よかった、ご無事でしたか。……そして、何とお美しい姿に……普段も愛らしくお美しいですが、今宵はまた一段と華やかですね。そのようなお嬢様のお姿を見れるなど、光栄の至りです


主人公;さ、流石に私でも照れるから誉め殺すのはそこまでにしておいて……。さぁ、さっさと舞踏会に行って、貰うものを貰って元の世界に戻ろう!!


リオリム;かしこまりました。では、お手を


主人公;ん?


リオリム;馬車にお乗り頂くのですから、お手を


主人公;私そんな大層なものじゃないんだけど……。……ありがとうね(馬車に乗り込む


リオリム;私にとってはたった一人のお嬢様ですから。さぁ、しっかり座られましたか? 扉を閉めますよ


主人公;うん、ありがとう


リオリム;では、馬車を動かします。もしご気分が悪くなったりしたらすぐに仰って下さいますよう


主人公;うん、お願いします!





主人公;ここか……


リオリム;そのようですね。……お嬢様、お手を


主人公;ありがとう(馬車から降りる


リオリム;……ここから先は御者の身では入れません……。ですが何かありましたらすぐに私をお呼びください。すぐにでもお傍に駆けつけますから


主人公;大丈夫だよ、何もないと思う。じゃあ、行ってくる


リオリム;何卒、お気をつけて





主人公;うわ、舞踏会そのものはもう始まってるし、今さら出にくい雰囲気……


???;どうかしたか?


主人公;うわっ!?


???;す、すまない。驚かせるつもりはなかったのだが


主人公;る、ルーヴァス。……いや普段から優雅だし普通に貴族の格好似合ってるけど、こんなきらびやかな場所にいると新鮮……


ルーヴァス;……? どこかでお会いしたことがあっただろうか?


主人公;へっ、あ、い、いえ……


ルーヴァス;あなたも招待客の一人か? 遠路はるばるよく来られたな


主人公;あ、ありがとうございます……


ルーヴァス;……。ずいぶんと緊張しているようだが、どうした?


主人公;あ、えっと、何というか……今更一人で入りにくいなって……


ルーヴァス;あぁ、何だそんなことか。ならばわたしと共に行くか?


主人公;いいんですか?


ルーヴァス;構わないのではないか? 今宵は無礼講とのことだから、特にわたしとあなた二人のことを気にするものも多くはないだろう。酒も入っていることだし、あまり心配せずとも問題ないと思うが


主人公;ぜひともお願いします


ルーヴァス;そうか、ならば手を(手を差し出す


主人公;は


ルーヴァス;どうした?


主人公;あ、いや、はい、手ですね。……貴族は違うな……リオリムがさっき手を差し出してなければ意味がわからなかったわ……(手を重ね


ルーヴァス;今宵は特に冷えるな。……道中で月を見られたか? 美しい満月だった


主人公;そうだったんですか。そこまでの余裕がなかったな……


ルーヴァス;ならば、寒くさえなければ後でバルコニーから空を見てみるといい。……おや、これは


主人公;ん?


ノアフェス;なんだ、ルーヴァス殿じゃないか。珍しいな、こんな場にいるなど


主人公;ノアフェスが完全な洋装をしてる……貴重だ……しかもルーヴァス殿とか言ってる……


ノアフェス;む?


主人公;何でもありません


ルーヴァス;ノアフェス殿も、来られていたか


ノアフェス;声がかかったから適当に来てみたんだ。まぁ賑やかそうだからよしとする


ルーヴァス;……父君が亡くなられてからしばらく経つが……何かお困りのことはないだろうか? 何かあればできる限りで協力させていただくが


ノアフェス;問題ない。不安だったが親父がいなくなってもそれなりに何とかなるもんだな。お前の方こそ色々あるだろう


ルーヴァス;……まぁ、今までと大して変わらないからな。わたしの方は、さしたることもない


ノアフェス;さしたることもない、か……


主人公;……(何かここにいたら邪魔な感じが)


ノアフェス;ところでその女子はお前の恋人か何かか?


ルーヴァス;は? い、いや、そんなわけがないだろう。年頃の女性だ、彼女に対して失礼ではないか、ノアフェス殿


ノアフェス;……そういうもんか。知らんが、お前が女子を連れているのを初めて見た気がする


ルーヴァス;そうかもしれないが……


主人公;えーと私は、そこら辺の灰かぶりなので特に気にしないでいただければ……


リリツァス;あーっ、ルーヴァスさん発見! へちっ


主人公;え、リリツァス?


ルーヴァス;これはこれは、リリツァス殿。先日は助かった


リリツァス;ううん、良いよ全然! へちっ。俺の絵は上手くないけど、心は込めてるつもり! ところでルーヴァスさん、もしかしてそのひとルーヴァスさんの許嫁!? へちっ


ルーヴァス;……あなたまでそのような……彼女は、


ユンファス;えー、何々? ルーヴァス様恋人作ったの。隅に置けないねぇ


ルーヴァス;いや、だから


カーチェス;……ルーヴァス様、いつの間にそのような……


主人公;図ったように続々と見覚えのある面々が貴族の格好で登場するな


ルーヴァス;なぜカーチェスまで……。彼女は先ほど知り合ったばかりだ。妙齢の女性に対して失礼だぞ


???;ねむ……


主人公;あぁエルシャ……。………………誰


???;エルシャス、って、言います……眠い……


主人公;背がすさまじく高くなっているのだけど何があったの!! ……あ、すみませんこちらの話ですお気になさらず。というか、もしかして皆さん貴族


シルヴィス;何をしているのですか貴方がたは……ルーヴァス様は主役に近い来賓でしょう。あまりうろついていてはあいさつに来た他国の王族が泣きますよ


主人公;なに、ルーヴァスは王子か何かなの……?  主賓ってことは多分そうだよね……? 


ルーヴァス;これはシルヴィス殿。……いろいろ苦労をされたと聞いたが息災でおられたか


シルヴィス;ええ、まぁ


主人公;あ、凄く場違いな感じが凄いしこのまま帰、


シルヴィス;お待ちなさい


主人公;ぎく


シルヴィス;貴方どこの馬の骨ですか。ルーヴァス様をたぶらかすなど。……言っておきますが、彼と結婚しようなどとほぼ無謀に近いですよ。身分を考えなさい


主人公;おおおおお思っていませんよそんなこと!! さっき会ったばかりっていう設定ですよ!! 急展開すぎるでしょ!!


シルヴィス;……設定?


主人公;……。会ったばかり


ルーヴァス;しかしわたしも、あまり挨拶に回りたくないのだ


カーチェス;ルーヴァス様、さすがにそれはまずいのでは……


ルーヴァス;先ほど一通り挨拶を交わしてきた。あれでは足りないだろうか。あまり女性とばかり顔合わせをしていても、わたしも疲れてきてしまうのだが……


ユンファス;えー、可愛いじゃん女の子


ルーヴァス;愛らしいかもしれないが、そういう問題ではない。……そもそも私は結婚をしたくないのだ


主人公;……もの貰える雰囲気じゃないなこれ


シルヴィス;何ですって?


主人公;イイエナンデモ


カーチェス;まぁ疲れてしまうのはわかりますけど……結婚は


主人公;ルーヴァス結婚するんですか


ユンファス;あれ、呼び捨てするほど仲良いの


主人公;ルーヴァス様は結婚されるんですか


ルーヴァス;いや、自然体でいてくれて構わない。許嫁はほぼ決まっているようなものなのだが……


主人公;そうなんですか


ルーヴァス;とはいえそもそもお互いにほぼ顔も知らない。わたしとしてはその女性には幸せになっていただきたいし、結婚はすべきではないと思うのだがな……


エルシャス;……おうさま……たいへん


主人公;ルーヴァスは王様役か……


ルーヴァス;いや、許嫁はともかく、問題はその、先ほどこの会場で出逢った少女で


主人公;少女?


シルヴィス;あぁ、あの


主人公;あの?


カーチェス;彼女も確か王位継承者でしょう?


ユンファス;顔は可愛かったけど、あれは、ねぇ……


主人公;……。ん? 何か凄く覚えのある説明。それってまさか、しら


???;見つけたわ!! ルーヴァス様! それに他の皆さんもこんなところに揃っていらしたのね!!


主人公;うわっ、ほんとに白雪姫とか


白雪姫;……はぁ? 誰よあんた


主人公;口、悪っ。あ、いや私はただの灰かぶりで


白雪姫;何よそれ、汚らわしい。ルーヴァス様に近づかないで!


主人公;はぁ、すみません


ルーヴァス;……すまないが、彼女は私の友人だ。あまり悪しざまに言わないでいただきたい


主人公;え


白雪姫;まぁ、そうでしたの! ごめんなさいね。それで、ルーヴァス様! 私ちょっと人に酔っちゃって……外の空気を吸いに行きたいんですけどぉ、一人じゃ怖くて


ルーヴァス;……それは……


???;あれ、こんなところにいたのだね


主人公;……あなた、クランツ……


クランツ;……(主人公に微笑みかけ


白雪姫;まぁ、クランツ様! お探ししておりましたわ!


主人公;……ん? 今ルーヴァスを散歩に誘っていたような


白雪姫;はぁ?


主人公;すみません何でもありません


クランツ;ふふ、愛らしいひとだ。けれど、あまり私を嫉妬させないでくれ。君の姿が見えないと、私は胸が苦しくなるのだから


白雪姫;まぁ、ごめんなさい。でも嫉妬なんかしなくて大丈夫ですわ。私の心はいつだってクランツさまのものですもの!


主人公;……女って怖……


シルヴィス;貴女も女でしょう


クランツ;ルーヴァス殿、またお会いできてうれしいよ


ルーヴァス;この度はお招き感謝する、クランツ王子


クランツ;即位されたと聞いたけれど、なかなか苦労も多そうだね


ルーヴァス;ご心配痛み入る


クランツ;何かあれば是非とも我が国に協力させてくれ。それでは、今宵はこれで失礼するよ(去り際、主人公に少し近づく


主人公;?


クランツ;……今のうちに彼女から離れておいで(耳打ちし、去っていく


主人公;もしかして、私たちを助けてくれた感じか。白雪姫を回収して


ユンファス;……そうみたいだねぇ。っていうかあれが彼の許嫁候補でしょ? 本当に結婚したら一生不幸じゃん……かわいそ……


カーチェス;……ルーヴァス様の許嫁にならなければこっちの国は安泰だから大丈夫だよ


主人公;そういう問題なのか……?


リリツァス;そうだ、ねぇねぇ今日まんまるお月様だったよ! すっごく綺麗だった! へちっ


エルシャス;まんまるおつきさま……きれい……見たい……!


ルーヴァス;あぁ、道すがら、わたしも見た。良ければこのままこの面子で月を見にバルコニーへ向かうか?


ノアフェス;月見か、悪くない


ユンファス;いいじゃんいいじゃん! じゃあ僕はちょっとワインでも貰いに行ってくるよ


主人公;ちなみにこの面子って全員知り合いの感じですか……?


ユンファス;知り合いどころか、結構仲いいよ。ルーヴァスは王様だけど気さくだし、カーチェスはその配下でしょ。僕もカーチェスと横のつながりで仲良くなったし、ノアフェスさんも王だけどルーヴァス様の古い友人だし、リリツァスは王宮御用達の絵描きだよ。家がかなり大きい貿易してるからどこにでも精通してるしね。そこの紺色も一応カーチェスの横の繋がり、エルシャスは紺色が連れてきたんだよね。武術の腕がいいから、将来はルーヴァス様の護衛になってもいいと思うな~


シルヴィス;この金髪が


ユンファス;ん~? 何か言った?


シルヴィス;いいえ、特には?


カーチェス;ここで喧嘩しないで……


主人公;錚々(そうそう)たる顔ぶれ。……えーとクランツさんはここの王子様ですか


シルヴィス;貴女、全然モノを知らないのですね(鼻で嗤い


主人公;……灰かぶりなもので


エルシャス;はいかぶり……なに?


シルヴィス;汚らわしいもののことですよ


主人公;えー……


ルーヴァス;シルヴィス、失礼だ。……今宵のこの舞踏会はあの王子の花嫁を探すために開かれたものだ。あの姫君が今のところはもっとも有力候補だが……まだ決まったわけではない


主人公;はあ、なるほど


エルシャス;おつきさま……みにいこ……


ユンファス;おけおけ、それじゃ行きましょうー!


主人公;そうで、


(鐘の音)


主人公;……。


シルヴィス;おや、もう12時ですか


ルーヴァス;そのようだな


主人公;……あれ、これやばい奴では。シンデレラって鐘が鳴ったら……


(鐘の音)


ユンファス;月見るならワインでも持ってこようかー?


リリツァス;いいねいいね! へちっ


エルシャス;……そろそろ……万聖節……?


(鐘の音)


主人公;やばいやばいやばいやばい


カーチェス;ええと、どうしたの?


(鐘の音)


主人公;あのー、何でもいいので何かもらえたりしませんか


シルヴィス;何かと思えば物乞いですか


(鐘の音)


主人公;したくてしているわけじゃないんですけどね!!


シルヴィス;そのドレスでも何でも適当に売ったらいいでしょう


(鐘の音)


主人公;あああああもうだめだまずい


ルーヴァス;何でもいいのか?


(鐘の音)


主人公;何でも大丈夫でだと思います、まともなものであれば


ルーヴァス;ならばこの髪留めはいかがだろうか(髪をほどく


(鐘の音)


主人公;あああああああ有難う御座います天使!!


カーチェス;えっと、それなら……困ったな、あげられるようなものがない……


ユンファス;じゃあこのイヤリングあげるよー


主人公;恩に着ます!!


(鐘の音)


カーチェス;見つけた。こんなもので申し訳ないけど、キャンディ。よければどうぞ


主人公;ほんっとに有難う御座います!!


エルシャス;……ぼくは……はい、リボン


主人公;わざわざエルシャスも髪をほどいて、有難う御座います!!


ユンファス;凄い面白い光景


(鐘の音)


主人公;あああ10回目の鐘


リリツァス;じゃあこれ! 絵具、あげる! へちっ


主人公;持ち歩いてるんですかそれ!! 有難う御座います!!


(鐘の音)


ノアフェス;ならば煎餅をやる


主人公;ぶれないですね!! その中世貴族の姿で煎餅出してくるんですね!! 美味しいですよね有難う御座います!!


(鐘の音)


主人公;……。服が戻った!? ……、え、それだけ!? 灰かぶりの姿になるだけ!? 全員分もらえなかったけどそれだけで済、


道化師;な、わけがないでしょ~


主人公;あ、あの外道


道化師;その言い方はやめようね。外道じゃなくて道化師だよ。継母ちゃん、達成できなかったねぇ


主人公;……逆に聞くんですけど! この状況下で、まずシルヴィスから何かもらえると思います!? 無理ですよ! 頭に銃弾貰うくらいしか思いつかないよ!


道化師;シルヴィス君の印象凄いねぇ


シルヴィス;……(主人公を睨む)。まぁ、そうですね。わたくしが貴女に何か渡すわけがありませんね、姫


主人公;……。え、記憶


ルーヴァス;……我々はここで、なにを……


リリツァス;何か、頭がもやもやする~……ひちっ


道化師;魔法が解けたから、彼らにかかってた記憶封印の魔法も解けたんだねぇ。何でもいいけど継母ちゃん。達成できなかった場合のお仕置きを考えてきたよ


主人公;う


道化師;つまり! 僕にお菓子を作って、贈ってね!!


主人公;……。は?


道化師;だから、君が僕のためにお菓子を作って贈るの。簡単でしょ?


主人公;……なんであなたなんかに?


道化師;さらっと酷いこと言われた気がするけど流すよ。何でって罰ゲームだもん


主人公;私を地獄に突き落とした人に? お菓子を作れと?


道化師;継母ちゃん、目が据わってるよ……


主人公;…………。リオリムー!!!!!!!!!!!


道化師;!?


リオリム;はい、何でございましょうか、お嬢様


主人公;この道化師をどうにかしよう。いや、もういっそ殺そう


道化師;え、待って。なんでそうなるの


主人公;私が殺す。だから死体遺棄をお願い


リオリム;かしこまりました


道化師;待って待って待って待って落ち着こう落ち着こう継母ちゃん


主人公;一番苦しむ死に方って何だと思う?


リオリム;色々試してみるのもよろしいかと。……僭越ながら手を汚すのであれば私が行いますが?


道化師;無理無理無理無理なんでそうなったの怖い怖い怖い


(スパイダー);愚か者よの


道化師;蛛ー!!!! 助けて!!!! 継母ちゃんが僕を虐めるの!!!!


蛛;自業自得よ、道化師。せいぜい楽しんで来い


道化師;君ホント薄情だよね! いや待って待って怖い怖いあの子の眼見てすっごい怖い後ろの執事も凄い怖い無理! いやぁああああああああああああああああああああ









 万聖節は、賑やかな悲鳴で始まり、道化師はそこで地獄を見たというが――


 それはまた、別の話。

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