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70.apple

「あれ……ルーヴァスは」


 翌朝。私は、無事に怪我もなく帰還した妖精たちを見て、しかし首を傾げた。


「ルーヴァスは……お散歩中? っていう感じ?」

「散歩」

「たまにルーヴァスは散歩してるからさ、気にしないであげて~?」


 ユンファス自身もたまにふらりと散歩するとか言っていたし、この家の住人は散歩好きなのだろうか。

 何にせよユンファスの答えに、「はあ」と頷くと、カーチェスが「お風呂を沸かそう」と口にした。


「あ、風呂はもう沸かしてあります」

「え?」

「狩りから帰ってきたら、お風呂入りたいだろうなって思って。汗もかくだろうし……とりあえず皆さん、武器とか服とか片付けたら、お風呂に入られてはどうですか」

「気が利く」


 ノアフェスはそういうと、私の頭をわしゃわしゃと撫で繰り回した。……凄まじく髪が乱れた気がするけど気にしない。


 とりあえず、六人は風呂に入ることにしたようで、私はそのまま朝食の準備に取り掛かった。











「姫」

「うわっ」


 朝食の仕上げに差し掛かったところで、ノアフェスが声をかけてきた。

 黒い髪はしっとりと湿気を含んでいて、どうやら風呂をあがったらしいことがうかがえる。いつも緩めに布で括っている黒髪は解かれ、何だか新鮮な雰囲気だ。金の簪は挿しているように見えないから、恐らく袖にでも入れているのではないだろうか。

 とりあえず彼の突然の登場に驚いて思わず取り落しかけたコショウらしきものの瓶を何とかキャッチすると、ノアフェスはぱちぱちと目を瞬かせたのちに、ぴんと人差し指を立てた。


「邪魔をしに来た」


 なぜ。

 というかどうしてこのひと、気配が感じられなかったんだ……わざわざ気配を殺して近づいたのだろうか? だとしたらかなりの悪趣味だ。


「味見は任された」

「いや任せていませんけど。何しに来たんですか」

「邪魔をしに来た」

「何故だ」

「暇だ」

「知りませんが」


 私が淡々と返すとノアフェスは、ぷーっと頬を膨らませる。


「冷たいぞ」

「いやいや」

「もっと反応がないとダメだ」

「私は一体何を求められているのか」


 仕方なく出来上がった料理――トーストらしき何かだが名前が全く分からない――を小さく切ると、フォークで刺してノアフェスの口に突っこんだ。

 多分これで黙るだろう。


 と、思ったのだが。

 ノアフェスはトーストもどきを突っ込まれると目を見開き、わたわたとし始め、


「あふいほ」

「食べ終わってから喋りましょう」

「みふ。みふをふれ」


 あ、もしかしてこれ熱かったパターンか。

 私が水を汲んだコップを渡すと、ノアフェスはすごい勢いで手に取って飲み干した。


 すみません。


「死ぬかと思ったぞ」

「すみません。でも私を邪魔するとこうなります」

「解せぬ」

「解してください。はい、これ運んでもらえますか」


 ついでとばかりに皿の運搬を頼むと、ノアフェスは何とも言えない複雑な顔をした。


「手伝いか」

「ここに来て騒いだんですから少しくらい手伝ってください。はい」


 空の皿数枚を彼の両手に乗せると、ノアフェスはしばらく皿を見ていたが、諦めたようにリビングへと運び始めた。


 協力してくれるらしい。

 私も残りの皿を運び出し、リビングのテーブルへと並べていく。この皿は一人二枚ずつで十分だろう。


「というか、もうお風呂入ったんですね」

「うむ、一番最初に入ったぞ。一番風呂だ」


 こだわるところだろうか、それは。

 なんだかやけに嬉しげなノアフェスを見て不思議な気分になる。まぁ確かに、誰も入っていない風呂はきれいだし、気持ちがいいかもしれないけれども……

 というか一番風呂ってそういえば、


「早死にするんじゃなかったっけ?」

「なんだと!?」


 ノアフェスが驚いた様子で皿をテーブルに叩き付けた。


「ちょっと! お皿が割れちゃうので丁寧に置いてください!」

「あ、あぁ、いや、すまん。いやしかし一番風呂で早死にとはどういう原理だ。何かの迷信か」

「いえ、知りませんけど……そういう話を聞いたことがあった気がするというそれだけのことで」


 まぁ一番風呂で早死にする理由が思いつかないし、ただの迷信かもしれない。


「俺はこの家の中で風呂に入ることだけが楽しみだというのに……」


 唖然、という表情のノアフェス。そんなに風呂が重要なのか。


「まぁただの迷信かもしれませんし、そこまで気にする必要もないんじゃないでしょうか」

「そ、そうか。そうだな」


 ノアフェスは自身を納得させるように何度か頷くと、台所へ戻る。

 とそこで、私は一枚皿が足りないことに気づいた。それに、調味料もいくつか足りないと思う。コショウっぽい粉、もう少し瓶に詰めたほうがいいのではないだろうか。


「あ、ごめんなさいノアフェス。今のお皿と同じ大きさのお皿一枚と、調味料の……名前何だっけ。あの粉っぽい奴、持ってきてもらえませんか?」

「昆布か?」

「違いますよ!!」


 トーストに昆布かけてたまるか! それは一体どんな料理なんだ!!


「あぁもういいです、調味料は私がやるので、お皿を一枚お願いします」

「了解したぞ」


 私が台所に戻ると、ノアフェスはちょうどお皿を一枚持って台所を出るところだった。


「奥の席にお願いします」

「わかった」


 と、彼が頷いた時、かしゃん、と音がして皿が落ちて割れた。


「えっ」

「……」


 ノアフェスは数秒固まっていたが、やがて私の方を振り返ると、悪びれもせずに言い放った。


「すまん、落とした」

「ええええええ」


 皿一枚なんですけど! 落とすほど大変なものじゃないと思うんですが!?


 何だ、これはドジ体質だとでもいうことですか? 無表情だけどドジっ子だよ萌えるでしょとかそういう乙女ゲーム特有のよくわからない設定か。心底いらないのですが?


 というかこんなことが前にもあったような気が。


 しかしそうなっているものはそれで仕方ない。彼にケチをつけても、彼からすれば理不尽以外の何物でもないはずなのだ。とりあえず私が「掃除をします……」と言うと、


「いや、俺が落としたから俺が片付けておく。すまん」


 と彼はやはり無表情で謝る。


 ……いやいやこれドジっ子でも萌えないでしょう。ドジやらかしても無表情でしれっとしてるんですけど。誰ですかこの設定考えたの。どう考えてもキャストミスだよ。どうせドジにするなら冷静でも表情の出るルーヴァス辺りの方が良かったのでは。


「っていうかノアフェス掃除できるんですか」

「? 俺とてやればできる」

「本当ですか」


 どうにも信用ならない。そもそもこの家は私が来るまで誰も掃除した痕跡がなかったのだ。


 と疑惑たっぷりに確認すると、彼はやはり何でもないように「うむ」と首肯を返す。


 半信半疑ながらも状況が状況なので、料理を続行すべく私がその場を任せたところ……














「ノアフェス」

「うむ」

「私はあなたに何を任せたんですっけ」

「片づけだな」

「要するに掃除ですね」

「うむ。その通りだな」

「掃除って簡単に説明すると何ですかね」

「綺麗にすることだな」


 つまりあれだ。

 この場が綺麗になっている予定だよね。

 前以上にとは言わないからとりあえず皿の破片とかなんとかそのあたりは一通り片付いているはずですよね。


「だったらなんで辺りが血塗れなんですかね!!」


 私がそう叫ぶと、ノアフェスは「うむ、何でだろうな?」と首を傾げる。


 可愛く首傾げても意味ないですからね? その血まみれの指先見たらいくらバカの私でも誰が出血してるのかくらいわかりますからね?


 簡単に言えば皿の破片で指を切りまくったんですよね!


「無理なら無理と最初に言ってくださいよ! もしくは手伝うように言ってくださいよ!」

「だがあれだ、ここが血だらけでも特に誰も困らな」

「美観的な問題と衛生的な問題と気分的な問題ですよ困りまくりでしょうが! 少なくともあなた方が困らずとも私は盛大に困る! 普通に考えてくださいよ、台所の前が血塗れって何事ですか! あああもう私が掃除しますから、ノアフェスは朝食食べててください! 疲れているのならそのまま寝てください!!」

「そういうわけにもいかん。俺がやったんだ」

「だからなんですかさらに血塗れにしようと? 私の仕事をさらに増やす気ですか?」

「うーむ困ったな」

「困っているのは私ですよ! まぁ人には向き不向きがありますから、掃除ができないことについてどうこう言う気はもはやとうに消え失せましたけど、せめて自分の指で大惨事を繰り広げる前に対策くらいとっていただけますかね!」

「すまん」

「わかればいいです」


 若干というか結構イライラしながら私は水に濡らした雑巾をその場に叩き付けた。そしてノアフェスを台所まで連れていき、冷水に手を突っ込ませる。


「血をある程度洗ったら、適当な布で強く巻いて、止血しておいてください。そのあたりについては戦闘に慣れているノアフェスの方が詳しいと思いますけど、くれぐれも汚い布で覆わないようにしてください」

「心得た」


 ノアフェスが神妙そうにうなずくと冷水に指を浸したまま沈黙する。まぁ大人しければそれでいい。


 私は雑巾で血塗れの床を拭うべく先ほどの場所へと戻ろうとし、ところがそこで、


 ――がしゃん!


「!?」


 またノアフェスが何か割ったのかと後ろを振り返るも、彼は律儀に冷水に指を突っ込んだまま動いた様子はない。そして何かが割れた様子もない。


 私は台所を出て、そこで眼を見開いたまま固まっているユンファスに遭遇した。


 そしてその足元には、恐らく花瓶だったのだろうと思われるガラスの破片と色とりどりの花の数本、それから盛大にぶちまけられた水が床を汚しており、って。


「更に仕事が!!」

「え……あ、ごめん、姫」


 ユンファスは我に返ったように目を瞬かせると謝罪をして、しかし何故かその場から少しだけ後退(あとずさ)った。


「……ユンファス?」

「なに?」

「どうしたんですか」


 いまさらながらに気づく。なんだかユンファスの顔色が悪い。

 花瓶に挿した花をここに持ってきていたのだから、多分リビングかどこかに飾ろうとしたのだろう。そんなことを考えていた時から体調が悪かったとは思いにくいから、突然体調がおかしくなったのではないだろうか。


「顔色が悪いです。風邪でも……?」

「いや……その。ほら、お腹がすいちゃってさー?」


 ユンファスはいつものように飄々と笑って見せたが、やはり少し顔色が悪い。それによく見れば先ほどまで花瓶を持っていたであろう右手は、何かを訴えるように震えていて、それを左手が手首からぎゅっと握りこむようにして押さえつけている。

 もしかして、狩りの途中で怪我でもしているのだろうか。それが痛み始めた……とか、そういうことなのでは?


「ユンファス、もしかして怪我をしてます?」


 私がそう問うと、ユンファスは「え?」と目を見開き、しかし微笑むと緩くかぶりを振った。


「いや、違うよー。大丈夫……気にしないで? 案外僕も疲れてるのかもねぇ。ご飯食べたらひと眠りするよ」

「……」


 私はそれに、やんわりとした拒絶の色を感じ取った。


 そういえば、前にユンファスが血まみれで帰ってきたことがあった。あの時、私が心配して駆け寄ろうとしたら、それを冷たい目で拒まれたのではなかったか。

 今の彼がそれと同じ状況に見えるかと言われたら、かなり態度が柔らかいぶん、違うようにも見える。しかし、拒絶されているというのに、不用意に踏み込んで何かしら警戒されるのは得策とはいいがたいのではないだろうか。


 私は心配ではあったものの、深く追求しないことに決めた。


「すぐにご飯を用意しますね」

「あ……うん、お願いしてもいいかなー? それでさ、わがまま言って悪いんだけど、上で食べてもいい?」


 上というのは多分、自室のことを言っているのだろう。食べたら早く寝てしまいたいのかもしれない。まぁ疲れているのだろうから無理もない。


「構いませんよ。それなら、すぐに作って上まで持って行きます」

「え……いや、それはさすがに申し訳ないよ。僕がわがまま言ってるんだしさ」

「大丈夫ですよ。出来上がるまでにはもう少し時間がかかると思いますから、少しでも横になっていてください。後で持って行って、声を掛けます」

「そう? じゃあ、お言葉に甘えようかなぁ……ならせめて、掃除を手伝うよ。僕が花瓶割っちゃったんだし」


 と、ユンファスが提案してくれるが、脳裏に浮かんだのは「何でだろうな?」と血だらけの指をしたまま首を傾げるノアフェス。

 うん、とてもじゃないが任せたくはない。


「大丈夫ですよ。ノアフェスみたいになっても困りますし」

「ノアフェス……? もしかしてその血、ノアフェスの?」

「あ、そうです」

「あーあー、不器用はこれだからねぇ……」


 と、茶化すも、やはり元気はない。私はユンファスに上で寝ているよう勧めて、軽い掃除を済ませて食事を作り、彼の元まで運んで行くことにした。









「……」


 冷水に指を付けたまま、ノアフェスが自分の指をぼんやりと見ている。


 色白の細い指は、とうに血が止まっているように思われたが、当人は特にそれを気にした風もなく冷水に指を浸している。


「……いっそ、」


 誰に言うでもなく、やはりぼんやりと彼が零す。


「笛など吹けんほうが良かったのか」


 しかしそれにこたえるものはなく。


 彼は窓の外に視線を投げ、朝の光に眩しげに目を細めたのだった。

はいお久しぶりです皆様いかがお過ごしですか3連休が終わり絶望の天音です。

ちなみに一番風呂は体に悪いというのは割合根拠のある話だそうで、お気をつけて。


はてさて70.appleまで来てずいぶん遅いのですが、割烹では一足先にご報告させていただきました。

Twitterを始めました。

まぁ厳密にはTwitterそのものは前からやってはいたのですが、天音の名のアカウントは今回のものになります。

しかしさらっと天音の名でない方のアカウントがばれていたみたいですが何故でしょう。びっくりです。

とはいえそちらではままてんおよび他の小説についてまったく呟きませんので、今回のアカウント開設に至りました。混乱招いてすみません。


一応アカウントはこちら→https://twitter.com/mihaku_21 (@mihaku_21)


耳の早い方がさらっとフォローしてくださっていて、ありがたい限りです。

まぁこのアカウントではままてんの裏情報の他、ままてんの進捗、予告、適当に思いついた小説の断片……などがつぶやかれる予定です。多分。

現時点だとボツになったままてんの扉絵が公開されています。

たまにこちらではキャラクターも返事を……(もごもご

とりあえず、ネタバレにならない範囲であればこちらでも質問・作品へのご要望などをお受けします。

よろしければ、適当に覗いてみてくださいませ。



さて、宣伝はこのあたりにしておいて、あれを終わらせましょう。

そう。

お気に入り登録1000件企画第1弾ですね!

とりあえず夏祭りはこちらで後編として最後になります。

この時期に夏祭りって何って感じですが締め括りです。


では、どうぞ!






※この短編は本編と一切関係がありません。ご了承くださいますよう、お願い申し上げます。









ノアフェス;後は二人だな


主人公;何かカーチェスはともかくルーヴァスはあんまり……お祭りにいそうなひとじゃないですよね


ユンファス;別に嫌いではないと思うけどねぇ


シルヴィス;でも確かにあのひとは賑やかしさが不得手そうですよね


リリツァス;えー、そう? ひちっ。ルーヴァスって自分はあんまり参加しないけど、パーティーとか開いてくれたりするじゃんひちっ。不得手じゃないんじゃないの? へちゅっ


ノアフェス;だが実際自分はほぼ不干渉だ


エルシャス;……ルーヴァスのお茶会……すき


主人公;あ、お茶が美味しかったですよね


ノアフェス;羊羹もうまいぞ


ユンファス;今? 今言う、それ?


リリツァス;そういえばカーチェスってたまにお菓子買うよね、ひちっ


主人公;そうなんですか?


リリツァス;うん、街に出かけたりすると、お菓子買ってるのをたまに見かけるよへちゅちゅっ


エルシャス;この前……キャンディ……買ってた……


ユンファス;いや、あれってどうなの? ぶっちゃけ本人食べてないでしょ、あれ


主人公;どういう意味ですかそれ


ユンファス;カーチェス本人がお菓子食べてるのなんか、見たことないんだよね僕。っていうかカーチェスは甘いもの苦手じゃなかった?


主人公;え? この前普通にデザートの果物食べてましたよ


シルヴィス;あぁ、果物は大丈夫みたいですけど、普通の菓子は好まないみたいですね


主人公;ちょっと意外です。特別好きというわけではなくても普通に食べるひとかと思ってました


ノアフェス;出されたら食うんじゃないか。ただ自分から食べようとは思わんだけで


主人公;はぁ、そんなひとでしたか


ノアフェス;しかし甘味が苦手などと……人生の半分を損しているぞ


主人公;比率高すぎません!?


シルヴィス;いえ、その言い分はもっともです。もしかしたら半分以上損しているのではありませんか


ノアフェス;珍しく気が合うな、シルヴィス


シルヴィス;えぇ、そうみたいですね。もっとも、わたくしは貴方の珍妙な菓子はよくわかりませんが


ノアフェス;美味いぞ


シルヴィス;……なら今度一ついただきましょうかね


ノアフェス;ふふふふ、お前も和菓子に酔いしれろ


主人公;ノアフェスって何でこの状況下ですら無表情なんですか……


ノアフェス;無表情か


シルヴィス;もはや表情筋が死んでる勢いですよ


ノアフェス;む、それは困った


ユンファス;全然困ってなさそー


エルシャス;カーチェス……甘いのが嫌い、なの


ユンファス;あ、でもそういえば嫌いではないかも。好んで食べないだけで


主人公;ん?


ユンファス;食べる分にはほんと普通の顔してるんだよ。嫌いって感じじゃないなぁ


主人公;食べさせたんです?


ユンファス;以前、カーチェスが嫌いなものがないっていうから、見つけようと思ってさ


主人公;悪趣味だ……


ユンファス;でも結局見つかんなかったなぁ


主人公;それはそれで凄いですよね


エルシャス;……カーチェス


主人公;ん? あ


???;えっと……そしたら、林檎飴を、一本貰ってもいいかな?


店主;はいよ、毎度ー!


シルヴィス;思いっきり菓子を買っていますけど


ユンファス;誰だろ、さっきカーチェスがお菓子苦手って言ったの


ノアフェス;お前だ


エルシャス;……カーチェス


カーチェス;ん? ……ええと、誰かな? というか名前……どこかで会ったことある?


エルシャス;……(しょぼん


カーチェス;あっ、えっと、そんな顔しないで。ええと。ほら、よかったら林檎飴あげるから


エルシャス;……いいの?


カーチェス;うん、いいよ。どうぞ?


ユンファス;それ、君が食べるものじゃないのー?


カーチェス;え? あぁ、俺自身が食べるつもりで買ったわけじゃないんだ。だから、構わないよ


ノアフェス;なんと、甘味を前に食わんというのか。解せぬ


シルヴィス;というかやはり本人は食べないのですか……


主人公;ならこの状況下で何故買ったんですかね……?


カーチェス;君たちはこの子の……友達、かな?


ノアフェス;いや、お前も仲間だ


カーチェス;え?


主人公;それで伝わると思います? ってそこで何ドヤ顔してるんですかノアフェス


シルヴィス;眼帯はこの際放っておいて、問題はそこの白髪ですよ


カーチェス;ええと、白髪っていうのは、あの……俺のこと?


エルシャス;……もぐもぐ


シルヴィス;貴方も食べていないで何か協力なさい


エルシャス;……林檎飴……ありがとう


カーチェス;あ、ううん、どういたしまして


シルヴィス;何をほのぼのと礼を言ってるんですか。そんなこと頼んでいません


ノアフェス;……。思い出す様子がないな


ユンファス;インパクトが足りないんじゃないの


ノアフェス;ふむ?


エルシャス;インパクト……どうするの?


リリツァス;カーチェスでインパクト……あ


主人公;何か思いつきました?


リリツァス;えっと……(主人公をチラッと見る


主人公;ん?


ユンファス;なになに~?


リリツァス;……えっとほら、その……カーチェスって照れ屋でしょ?


主人公;えっ


ユンファス;ふぅ~ん? それで?


リリツァス;姫が抱き付いたら……思い出すかも? ひちっ


主人公;いやそれ私ただの不審者ですから! 頭おかしいですから!


ユンファス;でも勝機はありそうだよねぇ


主人公;いやもっとこう、まともな! まともな方向で行きましょう!?


カーチェス;ええと、俺は他のところに行っても大丈夫……かな?


シルヴィス;貴方この状態で立ち去ったらただじゃ置きませんよ


カーチェス;……え


エルシャス;ひめ、カーチェスをぎゅってするの?


主人公;……いや、え、おかしな人になりますよね?


ユンファス;大丈夫だいじょーぶ


ノアフェス;何事も挑戦だ


主人公;絶対おかしい


シルヴィス;つべこべ言っていないでさっさと終わらせなさい、ほら(主人公をカーチェスに向かって突き飛ばす


主人公;うわっ!?


カーチェス;えっ!?


主人公;た、倒れ……っ


カーチェス;待っ


ノアフェス;……押し倒したな


ユンファス;大胆だねぇ


主人公;ごめんなさい、ごめんなさい! 痛くないですか、すみません!(カーチェスの上からすぐにどく


カーチェス;え……いや、えっ、あ、その、ええと(赤面しつつ身を起こし


リリツァス;わ、悪い提案しちゃったかな……ひちっ


主人公;あの、ほんとすみません。シルヴィス、もう少しやり方があるでしょう……っ!?


シルヴィス;さぁ、どうですかね。それより、その顔、思い出したのではないですか


主人公;えっ


カーチェス;……~~っ


ノアフェス;どちらかよくわからん。思い出したのか?


カーチェス;そ、の……姫、だよね……?


主人公;あ、思い出していただけ……


カーチェス;あのね! 俺は百歩譲っていいとして、君はダメだよ、女の子なんだから!!


主人公;えっ


ノアフェス;突然の説教


カーチェス;俺、男なんだからね? わかってるよね、姫? こういうことして危ないのは君なんだからね!?


主人公;わ、私が抱き付きたくて抱き付いたわけじゃ


カーチェス;~~っ……はぁ……


主人公;すみません……


カーチェス;いや、君が悪いわけじゃないんだ。抱き留められなかった俺の責任で……はぁ……


ユンファス;真っ赤だねぇ~


カーチェス;君たちの提案だよね? 姫にこんなことさせたらダメでしょう?


シルヴィス;リリツァスの提案ですよ


カーチェス;えっ!?


リリツァス;ご、ごめんなさいいひちちっいいショックなことしたらへちっ思いだすかと思ってぇええへちゅちゅっええええ


ノアフェス;あながち間違いじゃなかったな


カーチェス;~~っ……


エルシャス;……。いいな


主人公;え……?


エルシャス;ひめ、カーチェスのことぎゅってした


主人公;いや、勢い余って押し倒しただけで、


エルシャス;あとで……ぼくも


主人公;なんで!?


エルシャス;……だめ……?


主人公;ううッ……後でですよ……?


ユンファス;あ、はいはーい僕も


主人公;却下です!!


ユンファス;なんで~? エルシャスはいいのに僕はダメなの? 差別じゃなーいー?


主人公;体の大きさ考えてくださいよ! 


ユンファス;そんなに身体が大きいほうではないでしょ?


主人公;アウトです! セーフなわけがない! だめ!


ユンファス;ちぇー、姫のケチー。体が小さいとこういう時得するんだなー……


エルシャス;……(ちょっと嬉しそう


リリツァス;エルシャスが珍しく嬉しそうにしてる……へちっ


ノアフェス;何でもいいが、最後の一人を探しに行くぞ


主人公;あの、彼ってそもそもちゃんと祭りにいるんです?


シルヴィス;どうなんですかね?


ノアフェス;あまり好んで喧騒の中にいる姿は想像できんな


ユンファス;どちらかというと一人ワイン傾けてる感じ


主人公;わかる


エルシャス;でもちゃんと……おいわいは、開いてくれる……


カーチェス;その、ルーヴァスは……遠慮してるから


シルヴィス;遠慮する必要など全くないんですけれどね。そもそも彼が家主ですし


ユンファス;で、結局どこ探すー?


エルシャス;このまま……あるいたら……いる……?


シルヴィス;どうでしょうか? 断言はできませんよね。彼が金魚すくいしたり林檎飴買ったりお化け屋敷に入ったりしている姿など想像もつきません


主人公;射的を楽しむ姿も想像つきませんし


シルヴィス;何か言いました?


主人公;いいえ、特に何も


ノアフェス;この先進んでもな……さっき見逃していたという可能性も無きにしも非ずだからな


カーチェス;……お祭りでルーヴァスの行きそうなところ……うーん……


主人公;ルーヴァスが好きなものって何でしたっけ


リリツァス;紅茶だよ! 自分でブレンドして飲んでる! たまに茶葉貰ってる!


シルヴィス;貴方のはくすねているだけでしょうが


リリツァス;うっ……へちゅっ


カーチェス;流石にお祭りで紅茶っていうのは想像がつかないかな……


主人公;でもソフトクリームとかで紅茶味とかあるかも。探してみましょう







エルシャス;……いないの……


ノアフェス;そのようだな


リリツァス;……ソフトクリーム、美味しそう……ひちっ


シルヴィス;貴方どうせ、無一文でしょう?


リリツァス;えっ!? ひちっ、なんで知ってるの!?


シルヴィス;貴方そもそも普段は財布なんて持ち歩いてないじゃないですか


リリツァス;あ、そういうことか……へちゅっ


ユンファス;じゃあソフトクリームは買えないねー。諦めなよ、運がなかったと思ってさ


リリツァス;うん……ひちっ


主人公;あ、それなら何かよくわからないお金はあるので買いましょうか?


カーチェス;え……良くわからないお金ってなにかな?


主人公;赤いひとからもらったので、私の知らないお金です


ユンファス;……。え、どゆこと?


ノアフェス;つまり使っても大丈夫な金なのか


主人公;多分。というかさっきの金魚すくいでほぼ使っちゃいましたし


シルヴィス;あの金はそんな出所不明の金だったのですか


主人公;まぁお小遣いとかなんとか言われたので使っても大丈夫だとは思うのですが。で、買います?


リリツァス;え!? い、いいよ! ひちっ


主人公;いらないんですか?


リリツァス;姫に買ってもらうなんて、何かこう……申し訳ないし、情けないし……へちゅっ


シルヴィス;まぁさきほど金魚すくいとやらをした時点でアウトなのではないですか


リリツァス;えええー!!


主人公;もう面倒くさいので買っちゃいますよ。すいませーんソフトクリームの紅茶味ひとつくださ……


???;いや、わたしは――その……なんというべきなのか、


主人公;ん?


ノアフェス;……今、通りの方から聞こえた声、


エルシャス;……ルーヴァス?


シルヴィス;向こうの方ですね。行ってみますか


ユンファス;じゃ、レッツゴー!


主人公;あ、ちょっと待ってください、はい、あ、お釣りですね。はい、リリツァスどうぞ


リリツァス;えっ?


主人公;ソフトクリームです。はい


リリツァス;えっ、え!? そ、そんなの悪いよ!


主人公;いいですから、どうぞ。じゃあ、ルーヴァス迎えに行きましょう!


ユンファス;ヒュー♪ 男前~






???;申し訳ないが、そんなところに上がれるほどの取り柄など、わたしにはないのだ


???;大丈夫大丈夫、おにーさんかおねーさんかわからないけど綺麗だから大丈夫だって


???;……いや、わたしは男だが……その……


主人公;あれ、ルーヴァスですよね?


ノアフェス;妙な輩に絡まれているな


ユンファス;殺すー?


シルヴィス;こんなところで殺したら騒ぎになりますよ


カーチェス;いやえっと、発想が物騒すぎるよ……?


エルシャス;ルーヴァス……なにしてるの……?


リリツァス;よくわからないけど、ひちっ、とりあえず話しかけよう!


主人公;え、話しかける間もなく連れてかれましたけど


シルヴィス;……何しているのでしょうね


ノアフェス;甘味だな。甘味に釣られたんだ


主人公;んなわけないでしょう、ノアフェス


リリツァス;あ、でもお菓子だったら確かに俺、ついていくかも……ひちっ


主人公;リリツァス、あなたいくつですか


リリツァス;いや、君よりは年上だけど! でも、美味しそうなお菓子だったら、食べてみたいし……


カーチェス;……まぁ、今はリリツァスのことではなく、ルーヴァスのことを考えよう。ルーヴァスがお菓子でついてくとは考えにくいでしょう?


エルシャス;……おどされた?


ユンファス;それはないと思うけどねぇ……


ノアフェス;そうだな。ルーヴァスの戦闘能力を鑑みれば、脅すのは容易くない


主人公;え、ここで乱闘沙汰とかやめてくださいね?


エルシャス;大丈夫……ルーヴァスがたたかうまえに、ぼくがたたかう……


主人公;いや、穏便に行きましょう!? ね!? っていうかあなた意外と血の気が多いのか!


シルヴィス;というか、彼、どこに連れていかれたのでしょう?


カーチェス;あっちの……お店? の裏の方へ行ったね


主人公;そういえばお兄さんかお姉さんかわからないけど綺麗とか言われていたような


ノアフェス;まさか身売りか?


主人公;んなことがあってたまるか!!


ユンファス;綺麗ねぇ……んんー? なんか……面白い予感がするんだけど


主人公;は?


ユンファス;綺麗とか言われて店に連れていかれたんでしょ。それなら何か出し物でも披露させられるんじゃないの


主人公;いやいやいや。何ですか出し物って。そこら辺の通行人勧誘してさせる出し物ってどんなですか


ユンファス;女装でもさせるんじゃない?


主人公;うぉい!? それいろいろと問題ないですか!!


カーチェス;……万一いかがわしい店の場合、姫は入らせるべきじゃないね。俺たちだけで行こう


主人公;ええええええいやいや色んな意味で私にも責任があると思うので入りますよ


ノアフェス;お前は女だからな。外で待っていた方がいい


主人公;ええええ


エルシャス;大丈夫……ひめは……ぼくが、まもる……


リリツァス;うん、俺も姫のためにがんばるよ! ひちっ


ユンファス;さらっと終わらせて来るから少しだけ待っててよ。ね?


シルヴィス;まぁ、こんなでも一応女性は女性ですからね。仕方ありません。ここは我々に任せておきなさい


主人公;ここぞとばかりに漂う乙女ゲーム感。いやしかしですね


ノアフェス;ルーヴァス亡き今俺が指揮を執るしかあるまい


主人公;さらっとルーヴァス死んだみたいになってますけど、生きてますからね?


ノアフェス;総員、目的はルーヴァスの身柄確保だ。――死者は出すな


主人公;当たり前ですよ!!


ノアフェス;行くぞ!


5人;了解!


主人公;えええええ行っちゃったよ。なに? 私にどうしろと? 待っていろと? ……はぁ……仕方ない、待っているか……






主人公;……いやいやおかしいよ20分経っても戻ってくる様子ないんですけど? このままだと私に身の危険があるんですけど? もう入りますよ? いいですよね? 入りますよ? 入りまー……(店の扉を開け


リオリム;お帰りなさいませ、お嬢様


主人公;えええええええええええええええ初っ端から予想外の伏兵がいるんですけど何事!? なんでリオリムがここにいるの!? っていうか鏡の中にいない!! 凄まじい違和感と感動!! そして髪キレイ!! 髪長いですね!!


リオリム;お褒めにあずかり、光栄です。私もお嬢様にお会いしたかった……。ここは執事喫茶ですよ。お嬢様専用の


主人公;って私何者扱いなのコレ。専用のお店なんか持っていた覚えはないんですが


リオリム;問題ありません。私がお嬢様にくつろいでいただくために創設いたしました。――ここにはお嬢様をもてなすために集ったものだけがおります。どうぞ、身も心も休まれてくださいませ


主人公;いやリオリムはどんな権力者の設定なの? そのリオリムにもてなされる私は何者なの? もう何でもいいけど例の七人を知らない?


リオリム;あぁ、妖精の七人ですか。彼らもいますよ


主人公;いるのかよ!!


リオリム;彼らはお嬢様への態度がなっておりませんので、私が指導しようかと思っておりまして


主人公;いやいやいやいやいや。何かがおかしい


リオリム;大丈夫ですよ。何も問題ありません。……ここはお嬢様のためだけの場所。ここでは貴女の望み通りのことしか起こりません


主人公;いやそれも大概おかしい。というか七人の姿が全く見えな


ルーヴァス;その……お帰りなさいませ、お嬢様


主人公;ルーヴァス! って何ですかその格好。リオリムと同じ服に見えるんですが


ルーヴァス;……? 私をご存知か


リオリム;ルーヴァス殿。お嬢様に対しては敬語で接してください


ルーヴァス;あ、あぁ、そうだったな。申し訳ない。……こちらへどうぞ、おかけください


主人公;え、何をどうやってルーヴァスを働かせることに成功したんですか


リオリム;それは他の六人に協力してもらっただけですよ


主人公;は……、何してるんだあの六人……? っていうかルーヴァスには記憶戻ってないし、いろいろ問題があるんですけど! とりあえず、ルーヴァ、


ユンファス;姫姫~、何か執事になってみたけど似合ってる~?(奥の部屋から現れ


主人公;さらっとノリノリで出てきましたねユンファス。まぁ元がいいので似合ってはいますけど、今はそんなことしている場合じゃ


リオリム;ユンファス殿、お嬢様には敬語で


ユンファス;あーそうだったそうだった。でもフランクな執事がいてもいいと思わない? ねぇお嬢様


主人公;いやそんなことは心底どうでもよくてですね


エルシャス;ひめ……ひつじさんに……なってみたよ(奥の部屋から現れ


主人公;もはや執事だとわかってないひともいるんですけど? っていうかエルシャス可愛いな!


エルシャス;……(少し嬉しそう


カーチェス;いや、ルーヴァス、俺だよ、わからない?(奥の部屋から現れ


ルーヴァス;すまないが、見覚えがない。知り合いだっただろうか?


リオリム;お二人とも、お嬢様の前ですよ。私語は慎んでください


主人公;いやまったくもって構わないですからルーヴァス正気に戻してください


ノアフェス;……着にくい。窮屈だ(奥の部屋から現れ


主人公;うわノアフェスが執事の格好してるのは違和感しかない。というかまともな洋装が違和感しかない


ノアフェス;やはりな。着物は最高だということだ


リオリム;ノアフェス殿、敬語で


ノアフェス;着物は最高です……?


主人公;もはや意味が分からないここは何の店なのか


シルヴィス;何でもいいですけどこの服着ることに何の意味があるのか教えて頂けますか、そこの金髪(奥の部屋から現れ


ユンファス;いやほらさぁ、何かシルヴィスがどうしてもって顔をしてるから? もう一度勝負を受けてあげようかと思って?


主人公;は?


シルヴィス;何ですって? 先ほどルーヴァスを正気に戻すための作戦だとかなんとか言っていたではありませんか


ユンファス;うん、そうだよ? それも兼ねてるけど勝負も兼ねてるってわけー


シルヴィス;意味が分からないんですが?


リリツァス;見てみて姫!! へちっ! 格好いい!? 俺、黒い服はあんまりコート以外に着ないから新鮮だなー! へちっ(奥の部屋から現れ


主人公;おお、違和感……。くしゃみばっかりしてる執事って問題でしょう……


リリツァス;そんなぁ!?


主人公;っていうかこれ絶対リオリムだけの力じゃないよね?


リオリム;……


主人公;リオリム?


リオリム;……お嬢様はやはり、聡い方ですね。ええ、お嬢様のご推察の通りです。これは確かに例の道化師の力を借りています


主人公;はぁ!? あ、あいつ二時間で完遂させる気ゼロってこと!?


リオリム;二時間? ……なんのことでしょうか?


主人公;いや、何というか


ユンファス;悔しくて悔しくて仕方なさそうだったし、姫へのサービスで一番になれたら僕に勝ったことにしてあげようかなと思ってね?


シルヴィス;貴方は馬鹿ですか? いえ問うまでもありません、馬鹿でしたね。それでどうやってルーヴァスが正気に戻ると?


カーチェス;ちょっと、ここで喧嘩は……


ルーヴァス;先ほどから話が見えないのだが、わたしが正気に戻るというのは一体何の話だ……?


リリツァス;っていうかさっきのガラ悪い感じのルーヴァス勧誘してた人って誰? ひちっ


主人公;確かに! あれ誰!?


リオリム;あれは道化師曰く「モブ」だそうです。名前や設定は特にありませんが、気が向いたら別の作品に登場するかもしれないと


主人公;メタいにも程があるぞ!!


ノアフェス;で、どうやってルーヴァスを正気に戻すんだ?


ルーヴァス;わたしは普通のつもりだが……


ユンファス;簡単簡単。僕たちで姫へのサービスが誰が一番か競って騒ぐじゃん? ルーヴァスは騒がないじゃん? むしろ止める方じゃない? だから正気に戻って僕たちを止めてくれる作戦


ノアフェス;む、それは名案だな


カーチェス;え、そうかな……


エルシャス;サービス……なに、するの?


ユンファス;まぁ姫に尽くそうって話だよねぇ。ただ、呼び方はお嬢様、ってことになるみたいだけど


主人公;いえ別にそういうの求めてな


ノアフェス;なるほど心得た。お嬢、ここに座れ


リリツァス;初っ端からずれてるよねノアフェスへちっ!


主人公;いえ座りませんよそれよりあの


リオリム;ノアフェス殿。執事ならばお嬢様には、己にとって何よりも尊いものとして接するべきです


ノアフェス;心得た


主人公;いや全然心得てる感じしませんけど? っていうかさっきのユンファスの作戦って結局勝負にはならないんじゃ


ユンファス;いやいや、正気に戻るまでに誰が一番尽くせたかを競うんだよ。簡単でしょ? ……ほら、お嬢様。喉が渇いたんじゃない? 僕が持ってきてあげるよ。紅茶がいい? コーヒーがいい? 暑いのなら冷たいジュースでもいいかもしれないね


主人公;さらっと執事モードに入ってますけど今そんな悠長なことしている場合じゃなくてですね


リリツァス;俺も負けない! ひ……じゃなかった、今は姫って呼んだらダメなんだった。ひちっ。えっと、お嬢様! 何か作ってあげるよ! 食べたいものとかない?


リオリム;リリツァス殿。敬語を


リリツァス;あ、そうだった、ごめんなさい……へちゅっ


カーチェス;ええと、それよりルーヴァス本人に話しかけたほうが効果的じゃない?


主人公;それ私も思いました! えーっとルーヴァス


ユンファス;カーチェスも姫に尽くしてごらんって


カーチェス;ええ? 俺も!? いや、その、ほら、何というか……(赤くなる


ノアフェス;カーチェス、顔が赤くなったな。熱でもあるのか? ネギで首を絞めるか?


カーチェス;え? 俺なにかノアフェスに恨まれるようなことしたっけ……?


主人公;いやいやいや


エルシャス;おじょうさま……、一緒に……ねよう?


ユンファス;大胆!


主人公;いや待てちょっと待って


エルシャス;おひるね、しよ


主人公;執事って昼寝するものなのか


リオリム;いいえ、まったくもって違います。……エルシャス殿、お嬢様と共に寝るなど、論外ですよ(真顔


主人公;リオリム、顔が怖いです


リオリム;これは……、お嬢様を怯えさせるなど、執事失格ですね。申し訳ございません


主人公;いや別にいいけど……ってそうじゃなくて、ルーヴァス!


ルーヴァス;何だろうか? ……あぁいや、何でしょうか、だったな……


主人公;いやいやなんで律儀に従っているんですか。いいから私たち見てて何か思い出しませんか


ルーヴァス;あなた方を見ていて……? いや……すまない、特には……


主人公;えぇ……どうすんのこれ。詰んだ……


シルヴィス;だから金髪程度の脳内構造で考えられることなどたかが知れているのですよ


ユンファス;まだほぼ始まってもいないのに何言ってんの。ほらほら、負けたくないなら頑張りなよー


シルヴィス;はっ、馬鹿馬鹿しい。誰がそのような頭の悪い遊びに付き合うものですか。貴方の誘う遊びなど、大抵毛ほども面白くないことくらい織り込み済みです


ユンファス;あーそう、じゃあ不戦敗ってことで


シルヴィス;何ですって? 勝手に勝敗を決めないでいただけますか


ユンファス;勝てる気がしないから逃げだすんでしょー。まぁいいよ、そういう逃げの姿勢もたまには大事なんじゃないの。知らないけどー


シルヴィス;聞き捨てなりませんね、私が逃げているとでも?


カーチェス;こんなところで喧嘩をしないでよふたりとも……!


エルシャス;おひるねすれば……みんなしあわせ


ノアフェス;あの二人が大人しく昼寝するとは思えないな


エルシャス;……寝かせる?


ノアフェス;それは強制的にということか? やめろやめてくれ頼む死ぬ


リリツァス;え、ここで暴れる気? やめてやめて!! へちちっ!


リオリム;はぁ……執事としては、教育のし甲斐がありそうですね……


主人公;いや今はそんなことはいいんだ。とりあえずルーヴァス正気に戻して元の位置まで戻らないと私に身の危険が降りかかるとか何とかでですね


リオリム;なっ……!? お嬢様、それはどういうことですか!?


主人公;二時間以内に妖精全員を正気に戻して所定の位置に戻らないと、ラッキースケベ案件が立つとかなんとかで


リオリム;そんな……! あの道化師、道理でこのようなことを……! ここを足止めのための店としていたわけですか……!!


主人公;で、ルーヴァス、これだけ騒いでいるんですけど、まだ思い出しませんか?


ルーヴァス;いや……? いったい何の話だろうか?


主人公;あー、もうっ、どうすればいいんですかこれ! ……いっそ諦めるか……あぁ、うん、そうよね……死ぬわけじゃないのだものね……ふふふ……夕日がきれい


リオリム;お嬢様、しっかりしてください!


ルーヴァス;……きれ、い? ……、……。……あな、たは……姫、か?


主人公;えっ!?


シルヴィス;……おや


ノアフェス;ふむ


カーチェス;思い出したの!?


ユンファス;んー? 今のでどうやって思い出したの?


シルヴィス;別段きっかけが必要なわけでもないのではないですか。私は特にきっかけがなくとも顔を見たら思い出した方ですし


エルシャス;僕はシルヴィスの髪で思い出した……


シルヴィス;……(さりげなくエルシャスから髪を手で守る


リリツァス;でもルーヴァス思い出したなら、姫も助かるんじゃない!? ひちっ


主人公;そ、そうですね! 戻りましょう! 急い……


道化師;3、2、1、0! はい終了~


主人公;……は、


道化師;継母ちゃんお疲れさま~。いや~、残念だったね。あともう少しだったのにね。まぁ約束が守れなかった以上、罰ゲームは受けてもらうよ


主人公;……。嘘でしょ?


道化師;や~、ちょろっと心理状況から記憶をいじってみたけど、なかなか興味深かったねぇ


カーチェス;……心理、状況……?


道化師;おっと、こちらの話。ごめんねー。さて、継母ちゃん。君は目標を達成できなかった……これの意味、分かってるよね


主人公;いやいやいやいや嘘でしょ……ちょっと待って……


道化師;ちょうどおあつらえ向きに浴衣着せてあげたんだしね、楽しいラッキースケベにもってこいだよね!


主人公;り、リオリム助け……


道化師;あ、リオリム君はお疲れさま。もう鏡に戻っていいよ


リオリム;なっ


道化師;さーて継母ちゃん。もう君の逃げ道はありません。大人しく罰ゲームを受け入れよう


主人公;い、嫌だやだやだやだ七人の記憶取り戻したのに理不尽にも程があると思います


道化師;ふっふーん♪ 聞こえないな~。やー、あともう少しだったのにねぇ。可哀想にねぇ。じゃあ、さっそく罰ゲーム受けてもらおうかな


主人公;うそうそうそうそうわぁああああああああああああああああああああああああああああ











そして主人公は悲惨な目に遭ったというが、それはまた、別のお話――





FIN


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