68.apple
すこし早めの昼食を取っていると、共に食事をしているカーチェスから視線が注がれているのに気づいた。
「……ええと、私の顔に何かついてたりします?」
「あ、いや、そういうわけでは、ないんだけれど」
カーチェスは私に話しかけられた途端、ぱっと頬を染めて視線を逸らす。うん、相変わらずの反応だ。
「別に、特別なことはないんだけれどね。なんていうか」
「はぁ」
「君は、本当においしそうにご飯を食べるなぁって、そう思って」
それだけだよ、と赤みの残る頬を緩めて、彼は美しい笑顔を見せる。
「……そうですか?」
特に自覚もないことを指摘されて首をかしげると、ユンファスがひらひらと手を振ってニヤリと笑った。
「はっきり言っちゃえば? 食べ方がこう、女王様っぽくないってさ」
「えっ」
頬を引きつらせて私が姿勢を正すと、ぷっとユンファスが噴き出す。
「いやいや、別に悪いことじゃないと思うよー? 僕は」
「いえ、女王ぽくないって、あの」
「記憶喪失なんだし、いいんじゃない? まぁそれにここ、お城じゃないし。いいと思うよ、気楽にしちゃっててさ」
いや、記憶喪失だとしても多分、所作までは抜け落ちないはずだ。これでは不審がられてもおかしくない。記憶喪失というところが疑われてはさすがに困る。
「ど、どういうところがこう……女王っぽくないですか?」
「うーん……全体的に? ノアフェスもやるからあんまり気にしてはいないけど、お皿持ち上げたりとかは普通しないよね」
「皿」
言われてから手元を見ると、ちょうど持ち上げていた皿が視界に映りこむ。それに慌てて皿を素早くテーブルに置くと、ユンファスが爆笑した。
「ちょっとユンファス、そんなに笑ったら失礼だよ」
「いやもうユンファスって結構失礼なのでそのあたりは気にしてないですけど……」
大体、このひとは悪戯好きだしよく人のことをからかうし、いちいち気にしていたらきりがないひとだというのは、この短い付き合いですらわかっている。
というかそんなことは心底どうでもいいのだけど、この世界では皿を持ち上げないのがマナーなのか。いや、ノアフェスは持ち上げるみたいだから、この国では、というべきか。
いずれにせよテーブルマナーなどそこまで気にしたこともなかった。このあたりはこの世界の住人であるスジェルク辺りに聞くべきだろうか……
「あ、酷いこと言われた気がする。まぁ気にしないけどさー。ほんっと姫って面白いよね。見てて飽きない」
「私はおもちゃじゃありません」
「うんうん知ってる。可愛いよー」
「まともに話聞いてます?」
軽くユンファスをにらむと、彼はやはり笑う。……本当によく笑うな。
元々いっつもこう……チェシャ猫よろしくにやにやと笑っていた気はするけれども、大爆笑というのはなかったような。
――と。
「……賑やかだ」
ひょい、と階段から顔をのぞかせたのはノアフェス。
「あれ、皿を持ち上げるひともう一名ー」
「? 何の話だ?」
「いや、あの、すみません……」
「姫が謝る必要はないでしょ。ユンファス、君が謝るべきだよ」
「えー? そういうもの? ノアフェス、ごめんねー」
「……。うん? だから何の話だ?」
突如として謝罪されたノアフェスが話についていけず首をかしげる。
「昼食か。俺もそろそろ食すとしよう」
「じゃあ持ってくるよ」
「いや、自分で持ってくる」
「そう?」
「うむ」
ノアフェスが無表情のまま台所に消えてから、ふと私はあることに気づいた。
「そういえば結局、食事はカーチェスが作ってくださったのですね」
「え? あぁ、うん。君もエルシャスも疲れただろうしと思って」
なんて気遣いのできるひとなのか。助かる。
「ありがとうございます。カーチェスはやっぱり優しいですね」
「えっ!?」
カーチェスの頬が朱に染まる。あれ、今の私の発言って照れるほどのことですか。彼にとってはこれもダメな感じか。
……恥ずかしいことを言ったみたいで私まで照れるからこの話はやめよう。
何かほかに話題はないだろうか。
ここは無難に、話題そのものを誰かに振ってみよう。
「そういえば皆さん、今日はどうされるんで……」
そう、訊ねようとしたところで。
「――姫、」
階段から降りてくる足音が聞こえて、ルーヴァスが現れる。
その表情は、幾分か固かった。
「はい……?」
「すまないのだが、食事が終わったら、一度自室の方へ戻ってもらえないだろうか」
「それは、構いませんが……」
仕事、だろうか。この雰囲気は。
……でも。
「あの、ルーヴァス……」
「……何だろうか?」
「お仕事の、お話、ですよね? 狩りの……、私には、関係ないお話で……」
ルーヴァスはその言葉を聞くと、少し顔を歪めてふいと目をそらした。それから、
「そうだ」
と頷く。
……うそだ、と。
わかった。
彼のその苦々しい表情から、そらされた視線から、彼の言葉が嘘だと。わかってしまう。
けれど、なぜ。
どうして、嘘をつく必要が?
「……わかり、ました」
――私は、頷いた。
わざわざ嘘をつくくらいなのだ。きっと彼は、私にその理由を話さない。
それならば。
「ようやくキミが素直になってボクを恋しく呼んでくれたと思ったらこの仕打ちって酷くナイ?」
「恋しくないし私はいつも素直です。とりあえず知ってること全部教えてください」
「話聞いテ☆」
私が襟首をつかんで笑顔で話しかけると、スジェルクは笑顔のままケタケタと笑った。この状況下で笑われると馬鹿にされている感が半端なくて大変腹立たしい。
現在位置は自室。ドアにスジェルクを襟首掴んで叩き付けているような状況ですが。
「……個人的にそろそろ整理したいと思うんですよ。色々と」
「色々とネ☆」
「で、教えてもらおうと思いまして」
「この体勢デ?☆」
「この体勢で」
「キャ☆」
スジェルクが照れたように口元に両手を当てるのを完全に無視する。
呼んですぐに来てもらえたのは助かったがどこまでもイラつかせてくれる人だ。どういう脳内構造をしているのか。
「とりあえず、あなたについて教えてもらおうと思います」
「あぁ何ダ、ボクについて聞きたかったノ? なら最初から恥ずかしがらないで素直に言ってくれればよかったのニ☆ 可愛いナァ。まぁボクはやっぱり格好良いしね、わかってたよキミの気持ちハ☆」
「死んでくれ」
真顔で本心が零れるも「照れナイ照れナイ☆」と受け流される。このひとのようには死んでもなりたくないが、このひとのメンタルの強さには呆れを通していっそ感心する。あと何故そんなに自分ダイスキーなのかさっぱりわからない。確かに綺麗な顔立ちではあるけれども、それを自分で言うといきなり残念な人にしかならないというのをなぜ判らないのか。
「で、ボクのコト? うーん、どうしよっカナァ。教えようかなーどうしようカナー☆」
「あ、そういう前振りは良いんで」
「冷たぁイ☆」
いちいち大げさなジェスチャーで反応する彼を見ていると何だか色々馬鹿馬鹿しくなってくる。
「まぁとりあえずボクのことだケド。ボクは精霊デス☆」
「知ってた」
「もっと驚こうヨ☆」
「前に聞きました」
「アレ、そうダッタ?☆ ん~、で、ボクはこの家の住人デス」
「普段どこにいるんですかあなた」
「それハ秘密☆ 謎が多いほうが気になるでショ~☆」
心底どうでもいい。
ということすら彼を楽しませるだけの気がしてきて、私はおざなりに頷いた。
「あぁそうですか、わかりました。あなたのことはその程度で結構です」
「遠慮しないデ☆」
「十分すぎるくらいわかりましたスジェルクさんは超がつくイケメンなんですねこれで満足ですか」
「雑!☆」
私は彼の襟を手放すと、椅子に座った。彼は襟元を正しながら、「積極的だナァ☆」と笑っている。そして私の元まで歩み寄ってくると、椅子に座る私の顔を覗きこんでくる。
「キミが知りたいのはボクのコト?☆ 今知りたいのはそこじゃないんじゃナイ?」
「わかっているんですか」
「さっきの会話を聞いてたら、なんとなくはネ☆ まぁボクはほら、とっても格好いい上に頭もいいカラ☆」
これさえなければ本当に格好は良いだろうに。
「まぁ、そしたら多分想像通りだと思います。……ルーヴァスたちは何を隠しているのでしょうか?」
私の問いに、彼が笑みを深めた。
ルーヴァスは控えめではありながらも確かに私を気遣ってくれている。彼は悪いひとじゃない。だから、私に危害があるようなことだとは思わない。
でも、隠され続けていていいことかどうかはわからない。
私はこの世界のことを何も知らず、知らないままに女王の座についている。そして理不尽極まりない命の危険にさらされているわけで、とりあえず情報が多いに越したことはない。
それに彼ら七人のことも、いくらかは把握しておきたい。
「……知りタイ?」
どこか意味深な響きを孕んだ声音に、私は、
「教えたくないというなら、いいです。あなたに無理に聞くのはさすがに申し訳ないと思いますし……でも、聞けるものなら聞いておきたいです」
私の答えに彼は頷いた。
「ナルホド☆ ――なら、見せてあげようカ」
「見せ……て?」
意味が分からず眉を顰めると、スジェルクは双眸を三日月型に細めた。
「キミにその覚悟があるのならネ」
「覚悟――」
「でも見たくないものを見ることになると思うヨ。いろんな意味でネ☆ ――だって」
――彼らは、親切心から、隠しているんだから
スジェルクの言葉は、何故か、哀切な響きを持っていた。
「姫」
ルーヴァスが、私に声をかける。
玄関前、他の六人もそれぞれの獲物をもって、物々しい雰囲気で私を見ている。
「これから、仕事に出かけてくる。……今回はそれほど時間はかからない。明日の朝には戻る――家からは出ないように」
「……はい」
私は彼の言葉を、どこかどこかで聞いているような気分でいた。
「怪我をしないでくださいね」
私が言うと、ルーヴァスはほんの少しだけ微笑んだ。それから六人に向き直り、
「対象の捕縛が任務だ。遂行の後、速やかに私に引き渡してくれ」
「了解」
全員から一斉に同じ言葉が紡がれる。
「それでは、――行くぞ」
ルーヴァスが上着の裾をひるがえして去っていく。それに六人が続いていき、やがて家には静けさが訪れた。
「……スジェルク」
私が呼ぶと、どこからか一匹の鼠が私の隣まで走ってきてふわりと人の姿をとる。
「私は、行くべきなんでしょうか」
私が彼を見ないまま、七人が消えた扉に向かってそういうと、彼は目を細めた。
「――サァ。それは、キミによるサ」
私が彼を見ると、彼はやはり笑っていた。
ただそれは、口元にわずかに刻まれた笑みだけが笑みと示すだけで、目はまったく笑っていない。さながら試すようなその視線を受けながら、私は視線を彷徨わせた。
私は、ルーヴァスの隠していることが分かればいいと思った。
別に彼らのしようとしていることを、邪魔したいわけじゃない。ただ、自分の身に危険の迫るようなことであれば何か対策を取りたい。あるいは、彼らの秘密が白雪姫に直結するようなことであるならば、それはなんとしても回避したい。そういう気持ちでいた。そのほかに、特に他意はない。
「スジェルクは最初、私に協力するのを下心からと言ってたと思います。……あなたにとって、この秘密を私に教えることは、吉と出ますか?」
「サテ。それは、なかなか難しい質問なんだよネ☆ ボクはどちらでもいいかナァ、と思っテルヨ。本質的なところは変わらないからサ」
「はあ」
「ボクは彼らを君が受け入れられればいいと、そう思っているだけダヨ」
「それがあなたの、下心、とやらですか?」
「ウーン? それを完遂するのに必要な、コト? カナ☆」
彼は変わらず笑っている。けれど、下心について、話す様子はない。
私が、彼らを受け入れること。
それが彼の下心のカギだというのか。
けれど。
……それは、逆ではないだろうか?
私は彼らに対してそこまで負の感情を抱いてはいない。彼らと出逢ったのはほんの少し前だが、この短期間の中で私は彼らに好印象すら抱いている。
対する彼らは、複雑だろう。
妖精としての本能と、人間と妖精の確執。それらを鑑みて言うのならば、「受け入れられればいい」という言葉は、私でなく、あの七人に向けられるべきではないのか。
彼らが憎き人間である私を、受け入れる。それこそが大事なのではないのだろうか。
スジェルクの言葉が分からない。
「……この秘密を教えることで、あなたは受け入れられればいいと、そういいますけれど」
「ウン?」
「……この秘密を私が知ったら、私は彼らにさらに好印象を抱き、受け入られる――そう考えているということですか?」
私が慎重に問うと、彼はゆるりと首を傾げる。灰色の髪が肩先からさらりと零れた。
「――逆だよ」
ふと、静寂を帯びた声音で、一言、そう紡がれる。
スジェルクは真紅の瞳を伏せ、笑みを消した。
「キミがこの事実を知ったなら――」
彼は作り物めいたその美貌に、何の表情も感情も乗せず、無機質に吐き出した。
「キミはあの七人に、戦慄するんじゃないカナァ?」
私は結局、スジェルクのいう「見せてあげようか」という提案に乗らなかった。
彼のその提案には、ルーヴァスの“この森から出ず家にいて欲しい”という頼みを破ることになるし――否、これは以前、スジェルクに強引に連れ出されたことにより既に破ってしまったのだった。だからといってまた破りたいとも思わないのだけれど。
私の懸念はそこではなく――無論そこも心配ではあるのだけれど――ただ、スジェルクの言葉が。
あの七人に戦慄すると、そう告げられたから。
……真意はよくわからないけれど、今は知りたいと思えなかった。
彼らのことは嫌いじゃないのだ。嫌いじゃない。好印象ですらある。それは間違いない。
でも今、戦慄する、と称されるようなものを見て、それでも彼らに好印象を抱いていられるかはまた別だ。そこまでの信頼関係はまだ、ない。
私は、私が彼らを嫌うことが怖かった。彼らを恐れるようになることが怖かった。
ここの他に、私の居場所はない。だからここでは、なるべく普通でいたいのだ。
家族のような信頼関係はない、友人と言えるほど気安い関係でもない、でも今のこの距離は、決して遠すぎるものではない。
お互いが歩み寄ろうと思っているときに、水を差すようなことは控えたい。
「……ホラホラ、手が止まっているヨ☆」
「え、あ、はい」
私は気分転換がてらに始めていた文字の練習を再開する。
だいぶマシな文字が書けるようになってきたのではないだろうか。簡単な読み書き程度ならできる気がする。
「……そういえば、ルーヴァスは、」
「うん?☆」
「明日の朝には、戻ると、そう言ってましたね」
「あぁ、今回は近いからネ」
近い、というのは狩りの獲物が割合近くにいる仕事だったということか。
「それなら、お風呂沸かしておいた方がいいですよね」
「ん? ソウ? 面倒じゃナイ?」
「外から帰ってきたらお風呂に入りたくなると思います。私、風呂を磨いてお湯沸かしてきます」
そして、お風呂を沸かしたら、食事を作ろう。
彼らが返ってきた時に、おなかが空いてたらすぐに食べられるように。
――今はただ、何も考えずに動こうと思った。
更新どうなったんだよままてん終わったのかと思われそうなくらい間が空きました天音です皆様いかがお過ごしですか。
少々ごたごたしておりまして死ぬほどだるいのですが、8月ってあれですよね。小学生で言えば夏休みってやつですよね。1か月以上休暇になった気がする。いいなぁ、あの頃に戻りたい。
まぁ無理なことを言っていても仕方ないので、とりあえず本題に移ろうかと。
お気に入り登録数1000人突破企画、開始であります! 1000人どころか1050人になろうとしている? いやぁ、ありがたいですね!
……遅れまくって本当にすいません色々意味わかんないくらい忙しかったんです。許してください。友人に10万字の二次創作小説書いてたし自分で予定を入れておきながらなんだけど凄まじい疲労を毎日味わって四六時中足は痛いし上の人間は死んでもいいと仰るほどシビアだし口が裂けても言えないけど。
っていうか二次創作小説は絶対やらないと決めていたのになぜ10万字も。しかも鬱。つら。一年越しの誕生日プレゼントとは言えあんな七面倒なプレゼントはもう一生やりたくないです。そもそも短編ですとかいって短編書けたためしがなくていつも長くなるのわかってたのになぜ了承した過去の僕。
えー……気を取り直して……え、企画開始って何って思った方、鋭いです。
まぁさらっと言っちゃうと一回で終わらないよってことです。
つまり連続するわけですね! 数回に分けて、企画を楽しんで頂こうと思います。
いやー、ここまでこれたのって読者様のおかげだし、ぶっちゃけ小説そのものは著者が書きなぐる気力を持っていれば完成とかはすると思いますけど、お気に入り登録数は水増し行為でもしなければ自力でどうにかするのは無理なものなので。ありがたいです。ありがとうございます。これからもままてんを、もそもそと覗いてみてやってくださいませ。
で、最初の企画は何かというと。
突然ですが皆さん、暑いですか。
暑いですね。夏ですね! え、もうそろそろ夏も終わり? そんなまさかはははは。
つまり夏祭りです。
脈絡ねぇよなんて言葉は聞こえない。夏祭りです。
はい。
皆様から頂いたリクエストもいずれ投下していきますので今しばらくお待ちくださいませ……
というわけで、世界観も時代もへったくれもなくままてんで夏祭りをやってみようと思います。
道化師にバトンタッチするので、道化師、そのミラクルパワーで楽しく仕上げてください。
では、やかましい著者はこのあたりで。
では、どうぞ!
※本編とは無関係の内容となっております。ご了承の上、お読みくださいますようお願い致します
道化師;はーいバトンタッチされましたみんなの人気者道化師でーす。お久しぶりー良い子にしてたかなー? 今回も僕の優しい気遣いで、みんなの日常にハッピーな彩りをお届けするよ!
主人公;心底いらない勘弁してください
道化師;あれ、継母ちゃんすさまじく疲れた顔してない? なに? 大丈夫?
主人公;わかりません? 上の本編見てくださいよ。あなたも相当疲れるんですけど、さらに吹っ飛んだ方の相手したら疲れるにきまってるじゃないですか。疲労困憊です。はっきり言ってあなたと話している余裕が今ないんですよ。出直してください。1億年後くらいに
道化師;そんな、可哀想に……じゃあ僕がとびきり素敵なプレゼントを君にあげよう!
主人公;人の話聞いてました? 正直あなたともう関わりたくないんですが
道化師;うんうん楽しみで仕方ないんだよね、でも楽しみって言えないんだよね、わかるわかる
主人公;話を聞いて!!
道化師;今回の企画はこれです。じゃん! 題して、「カオスれ! 禁断の夏祭り」!
主人公;もはやままてんがどこを目指しているのかが見えない
道化師;企画なんてそんなもんだよ
主人公;自覚あるならどうにかしてくださいよ
道化師;夏祭りだよ、夏祭り。楽しみになるでしょ?
主人公;この顔見て楽しみにしてるように見えるんです?
道化師;遠足前日の小学生かな!
主人公;体育祭前日の運動音痴の顔だよわかれ!!
道化師;継母ちゃんって運動音痴なの
主人公;運動神経とか切れてます。というかそんなものは存在しない
道化師;いやどういうことなの……まぁいいや、夏祭りに運動神経は使わないから安心して大丈夫だよ!
主人公;まずもってあなたが絡んでいる時点でろくなことはないって判明しているんですが?
道化師;継母ちゃんの中で僕ってどういうイメージか教えてもらってもいい?
主人公;トラブルメーカって名前じゃ生ぬるい歩く災害
道化師;ひどいね!?
主人公;ご自分ではどういうつもりでいるんですか
道化師;うーん、愛のキューピッド?
主人公;あ、冗談は顔だけにしてください
道化師;泣くよ
主人公;どうぞ
道化師;……。うん、気を取り直して……企画の概要を話そうと思います。とりあえず現代の――つまり継母ちゃんがいた世界によく似た世界で夏祭りが開催されました。そこにあの例の妖精七人が僕の力で吹っ飛ばされて洗脳を受けてその世界の住人化しています
主人公;えげつない
道化師;君の任務は七人の目を覚まさせて全員を開始地点まで連れてくること。わかった?
主人公;つまり夏祭りを練り歩いて洗脳されておかしくなった七人を回収して戻って来いってことでいいんですか
道化師;そうだよー。あ、お小遣い上げるから君も楽しんでおいで
主人公;いらない
道化師;そう言わずに。お金で解決できることもあるからさ
主人公;強盗とか会うパターンかな
道化師;そうかもね
主人公;犯罪巻き込まれるのわかってて行きたくない!!
道化師;いや、可能性の話だから。はい、五万円
主人公;お小遣いって金額じゃないし!! 夏祭りにそんな使う奴いませんけど!? 何ですかこの札束!
道化師;あればあるだけいいものだよお金は。はい、これ持ってミッションコンプリートしてきてね
主人公;やらなかった場合はどうなるんですか
道化師;あぁそうそう、二時間以内にミッションコンプリート出来なかった場合はラッキースケベ案件を立てるよ
主人公;誰かこいつを殺してくれ
道化師;わかったらいってらっしゃーい。がんばってね!
・
・
・
主人公;……ん? あぁ、ここが夏祭りか……っていうか何で私は浴衣を着ているんだ……動きにくい……。人が多いしあと規模がでかそうだし全然見つかる気がしな……
???;なぜですか。お金を払っているではありませんか
主人公;……早々にシルヴィス発見……。っていうか一番最初に見つけたのが彼でしかも何かどう考えてもトラブル起こしてる気配濃厚ってどういうこと……私ってどんだけ不運なの……。……はぁ。あそこは射的屋か。行ってみよう
シルヴィス;わたくしは正当に対価を支払っていますよ。そのうえで撃とうとすることの何が悪いのです
店主;いや、すまん。が、あんたが関わってくるともううちが赤字決定……
シルヴィス;知ったことですか。そもそも子供が目当てのものを落とせずに泣いているのを見て、笑っているような悪趣味なものに赤字云々などという資格はありません。観念なさい
主人公;うわ……あの商品の山はシルヴィスが撃ち落としたものか……。まぁ、元が銃使いだからそりゃそうなるだろうけどさ……
子供;おにーちゃん、あれとって! あの端っこのゲーム!
子供;私も、あれほしい! 真ん中のお人形!
子供;おれもー! あのプラモデルがいい!
シルヴィス;わかりましたから、少し落ち着きなさい。私の腕を信じてください
主人公;いやいやおかしいでしょ……っていうか自分のものじゃなくて子供の欲しがってるものを撃ってあげてるのか……意外だな
店主;いや、その。わ、笑ってたことはすまんかった! だが、赤字になると、そのう……
シルヴィス;見苦しい。だから香具師は嫌いなのです。どのみちあなたの店は終わりです。今年は運がなかったと諦めるのですね
店主;そ、そんなぁ……
主人公;まぁでも正当な言い分、ではあるか……。射的屋ってそういうものだしな。口出しはやめてしばらく見守っていようかな
シルヴィス;ん……? 何です、貴女も欲しいものがあるのですか
主人公;は? 私?
シルヴィス;えぇ、貴女のことです。欲しいものがあるというのなら撃ち落として差し上げますが
主人公;あ、私は商品とかはいらなくて……
シルヴィス;……。……貴女、どこかでお会いしたことがありますか?
主人公;えっ
シルヴィス;……いえ、勘違いなら良いのです。とりあえずわたくしはこの店主を叩きのめします
主人公;お、おぉふ……叩きのめすって……
シルヴィス;あと三発行きますよ
店主;待っ
シルヴィス;もう遅いです(三発ですべて商品を打ち落とす
店主;あぁ……終わりだ……もう何もかも終わりだ……
主人公;そんな悲観するほどのことなのか
店主;お、覚えてろよ……この恨みは忘れねぇからな! この長髪野郎!
シルヴィス;人の容姿を野次る程度の脳内構造ならたかが知れている。恨みがあるというのなら己の身を亡ぼす覚悟で来なさい、腰抜けが
店主;冗談じゃねぇ!
シルヴィス;貴方の稚拙な負け惜しみなど興味はありません。その商品をよこしなさい
店主;くっそ!! もってけ泥棒!
シルヴィス;泥棒というのは正当でない方法で物を手に入れるものでしょう。心外ですね。日本語くらいちゃんと勉強しなさい。……ほら、これが欲しいものでしょう
子供;わぁ! 有難うおにーちゃん!
子供;やったぁ!! ありがとー!!
子供;これでカッケー車作るんだ!
シルヴィス;はしゃぎすぎないように。これできちんと満足するのですよ。親を困らせてはいけません
子供全員;はーい!!
シルヴィス;あぁ店主、この一文にもならなそうなよくわからない玩具はお返ししますよ。いりませんから。良かったですね、商品が戻ってきて(指人形らしきものを放り投げて返す
店主;ふざけんな!
シルヴィス;わたくしはいつでも真面目ですが何か? ――それで、貴女はいつまでそこにいるのですか
主人公;えーと、あのですね
シルヴィス;それともあの指人形が欲しいとか?
主人公;まったくもって要らないです
シルヴィス;でしょうね。それで、何の用です
主人公;あの、私の顔に見覚えあります?
シルヴィス;……
主人公;……そんな不審者を見るような目で見なくても。私です。見覚え、あるはずなんですけど
シルヴィス;いいえ、まさか。――みすぼらしい姫君にかかわってろくなことはないので、わたくしはこれで失礼いたしますよ
主人公;しっかりわかってんじゃないか! ちょっと、あのですね! あなた方七人を連れ戻さないと私に身の危険があるのでほんと勘弁してください
シルヴィス;貴女の身の危険など知ったことですか
主人公;少しは知っておけよ!
シルヴィス;口汚い姫ですね
主人公;口汚くて悪かったですね! えぇ、えぇ、どうせ高貴なお姫さまじゃないんでね!! 綺麗な言葉遣いなんて無縁ですよ! どうでもいいから正気に戻ったんなら他の六人探す手伝いをしてもらえますか!!
シルヴィス;……はぁ。これだから頭の悪い女は始末に負えないんです
主人公;馬鹿ですよどうせ!!
シルヴィス;そもそもこの人ごみじゃ六人なんて……あ
???;二人までなら入れる。行くぞ
???;嫌だよぉおおおおおお
主人公;……
シルヴィス;……
主人公;ノアフェスとリリツァスですね
シルヴィス;そのようですね
主人公;軽く修羅場ってますね
シルヴィス;そう見えますね
主人公;どうしますか
シルヴィス;放っておけばいいのではないですか
主人公;いやダメですよ! ちょっと、そこの二人!
ノアフェス;む? 誰だお前は
リリツァス;俺は! お化け屋敷は! 入りたくない!!
ノアフェス;大丈夫だ。皆ただの人間だ
リリツァス;怖いものは! 怖いの!! ひちっ
ノアフェス;お前は花粉症だな
リリツァス;ひちっ、え、そうだけど、なに?
ノアフェス;花粉症より怖いものはないな
リリツァス;ん?
ノアフェス;行くぞ(リリツァスの首根っこをつかむ
リリツァス;うわぁああああああああああああああ
主人公;うわ怖。近づきたくない
シルヴィス;……
主人公;とりあえずあの二人がお化け屋敷から出てくるのを待っていよう……
シルヴィス;ねぇ姫
主人公;はい?
シルヴィス;わたくしたちも行ってみましょうか
主人公;……。は?
シルヴィス;ほら、ぐずぐずしないでください、行きますよ
主人公;いやいやいやいやいや待ってください無理無理無理無理死ぬダメ無理勘弁してくれいやぁああああああああああああああ
シルヴィス;ふむ。割と中は暗いのですね
主人公;……恨みますよ。本気で恨みますよ
シルヴィス;ご自由にどうぞ。貴女ごときの恨みなど大したことはなさそうですしね
主人公;百年祟るぞ……
シルヴィス;おっと、あの二人を発見……
ノアフェス;これは……ゴム製か。駄目だな。もっとこう、精巧につくらないと、骨には見えん。こういうところに雑さが見えると怖さも半減するな
リリツァス;ひっ。何か降ってきた! ひちっ。何かいる!
ノアフェス;水か何かだろう。……あとこの血糊はもう少し暗い色の
リリツァス;降ってきたの血かも!
ノアフェス;流石にそれは用意できないだろうな
リリツァス;用意って何! もう無理! 俺出る! へちっ
ノアフェス;まだ入ったばかりだぞ
リリツァス;怖いものは怖いんだもん無理だよぉおおおおおおひちちへちっ
主人公;あのぉ、お二人さんちょっと
リリツァス;いやぁああああああああ出たぁぁああああああああへちちっあああああああああああああああ
主人公;人をお化け扱いすんな。っていうかリリツァス、私だって怖いんですからそんなに騒がないでくださいよ更に怖くなるじゃないですか……
リリツァス;あれ、なんで俺の名前知ってるの? っていうか、ひちっ……君、
???;わっ!!
主人公&リリツァス;うわぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああ(一目散に逃げだす
シルヴィス;ちょっ……まったく、騒がしい連中ですね
ノアフェス;うむ。見てて面白い
シルヴィス;というかノアフェス。貴方もこんなところにいないでさっさと戻りますよ
ノアフェス;うん? 何の話だ。なぜ俺の名を知っている?
シルヴィス;馬鹿ですか。わたくしですよ、わたくし
ノアフェス;なるほどオレオレ詐欺か
シルヴィス;頭に鉛玉をぶち込みますよ
ノアフェス;その悪態……シルヴィスか
シルヴィス;思い出し方がおかしくありませんか
お化け役;ふむ。そなたら随分と落ち着いておるの
ノアフェス;うむ? まぁこのようなからくり屋敷は慣れているからな
シルヴィス;というかおかしな喋り方をする人間ですね。お化け役ならお化け役に徹していてくださいよ
お化け役;人間……? ふむ。まぁよい。そなたらもさっさとここを抜けるがいい。仲間の一人は金魚すくいに精を出している
ノアフェス;親切なお化けだな
シルヴィス;情報どうも。信用していませんけど
お化け役;早く行ってやった方がいい。何せ先ほどの二人はもうすでにここを抜けておるからの
シルヴィス;随分早いですね
ノアフェス;俺たちがのんびりしすぎたな
シルヴィス;行きましょう
お化け役;……。……人間の祭りなどつまらぬと思ったが……くっくっく、玩具がおればそれはそれで楽しめるもの
・
・
・
主人公;死ぬかと思ったもう無理
リリツァス;大丈夫? 姫
主人公;え、思い出したんですか
リリツァス;うん! ひちっ、走ってたら思い出した
主人公;それは何よりです。あ、あの二人も出てきましたね
リリツァス;ノアフェス酷いよー!! ひちっ
ノアフェス;すまん。楽しみたかった。主にお前の反応を
リリツァス;なんで!? 怖いのに!
ノアフェス;それを楽しむものだぞ
リリツァス;無理! 怖いものは怖いよ!! ひちっ!
ノアフェス;む、間違えて物を貰ってきてしまった。返してこなければいかんな
主人公;は? 何を貰って、ってうわぁああああああああああああああああああ
リリツァス;なんで頭蓋骨を持ってるのぉおおおおおおへちちはちっくしゅんはくちっ
ノアフェス;ただの偽物だ。ゴムなのが気に食わずにもぎ取って見ていたら返す時をはかりかねて持ってきてた
シルヴィス;馬鹿ですか。っていうか器物破損ですよそれ
ノアフェス;返してくる。先に行っててくれ
リリツァス;もう何も持ってこないでよぉおおおおへちちはちっ
シルヴィス;やかましい、すこしは静かにしてくださいよ。とりあえず金魚すくいにでも見回りに行きましょう
主人公;え、シルヴィス金魚すくいやりたいんですか。なーんだ、ちょっと可愛いところあるんじゃないで
シルヴィス;ぶん殴りますよ
主人公;……なんで?
ノアフェス;シルヴィス、時に正直になることも必要だ
シルヴィス;貴方さきほど一緒にいましたよね? わたくしの言っている意味わかっていますよね?
ノアフェス;知らんな
シルヴィス;はぁ?
リリツァス;っていうかノアフェス早かったね。帰ってくるの
ノアフェス;さきほどのお化け役が白昼堂々頭蓋骨を探していたのでな。放り投げてきた
主人公;いやお化け役が屋敷から出ちゃダメでしょ
ノアフェス;お化けも祭りが楽しみたいんだろう
主人公;仕事良いのか
シルヴィス;どうでもいいですからさっさと他の妖精を回収しましょう
主人公;他の妖精がいるんですか。金魚すくいに
ノアフェス;そのようだな
主人公;それどこの情報です?
ノアフェス;お化けだな
主人公;うわぉ
リリツァス;いいの!? 信じていいの!? ひちっ
ノアフェス;人生のんびり行くのも大事だ
主人公;そうですねぇ大事ですね。でものんびり行ったら私に身の危険があるんですよ
シルヴィス;ではゆっくり行きましょう
主人公;ねぇ喧嘩売ってます?
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続く?




