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28.apple

「ご馳走様でした」


 そう言って頭を下げると、ユンファスは「お粗末でした~」と笑った。


 昼食もとり終わったところだし、皿洗いでもして、また部屋に引っこもうか……と考えていると、足元で何かが動いた気がした。


「?」


 何気なくそちらに視線を寄せると、


「……え」


 灰色の鼠がこちらを見上げていた。


 ……まさかこの家が汚いせいで鼠もシェアハウスしてるわけ?


 微妙に眉をひそめつつ、しかしあまり逃げる様子のない鼠と見つめ合うことしばし。


 先に動いたのは鼠だった。


 タッと器用に、そしてあっという間に机まで駆け上がると、唖然とする私を置き去りに机の上を走り抜けた。そして、あくび中にくしゃみをして喉を痛めたらしく悶絶しているリリツァスの食事を華麗につまみ食いして去っていった。


「……」


 呆然と鼠の去った後を見つめていると「あれ?」と間の抜けたリリツァスの声が聞こえてくる。


「なんか俺のご飯減ってない? へちっ。喉痛い……」

「……」


 やっぱり気づいていなかったんですね、と言おうと思ったが相手を明らかに馬鹿にしている言葉と思われたので控えておいた。


 となると、ここはさりげなく無視に限る。


「そうだ、皆さんの食事が終わったらまた掃除しますね」

「掃除? この前へちちっ、やったよね?」

「いえ、掃除は何度でもしなければ汚くなる一方ですよ? それにこの前はかなり大雑把な掃除でしたから。もう少し細かいところまで掃除しておきたいと思って」

「掃除かぁ。姫って本当に働き者だよね~。僕は掃除とか、まず縁がないなー」

「いえ、しましょうよ」

「俺もやらないへちちっ、はちゅっ、へちちちっ」

「待ってください。皆さんの自室はどうなっているんですか」


 何となく嫌な予感を覚えて私は一応問うてみた。


 そう。何となく嫌な感じはしていたのだ。


 大雑把とは言え、私は一階はかなり綺麗にしたはずだった。目立った埃なんかはもう落ちていないはず。


 はず、なのに。


 掃除が終わってその翌日には既にチラホラと埃が参上なさっているとはこれ如何に。


 しかも妖精たちが二階と一階を行き来する度に埃が増えるとはこれ如何に。



 っていうかもうこうなったら一つしか浮かばないよね。


 つまるところ妖精たちのいる二階が凄まじく汚いということですよね!!


「……」

「姫? どしたのー?」


 ユンファスの問いに私はがたんと椅子から立ち上がった。


「……二階」

「んん?」

「二階。……滅茶苦茶汚いとか、そういうこと、あります?」


 問うてみると、ユンファスとリリツァスが顔を見合わせた。


「……まぁ、それなり? だよね? リリツァス」

「まぁひちっ、一階よりは汚いかもしれないけどひちっ、そこまで」

「廊下は私、あの日に掃除してます」

「あー……うん」

「なのに廊下にも一階にもかなり埃が現れてるんですけど」

「まぁなんていうの? 姫が可愛いから埃がなついたんじゃない?」

「ふざけてます?」

「え、ごめん。褒めたのに」


 これでは何をしたって無駄ではないか。つまるところ妖精たちの自室が凄まじい勢いで汚いから一階にも廊下にも埃が見え始めているということだ。根源を絶たなければどこを掃除したって一緒だ。


「皆さん少しは自室を綺麗にしてくださいよ!!」

「だってー。面倒じゃーん」

「そうそうひちっ。少し煙いだけで、なんてことないよひちっ」

「毎度掃除する私の身にもなってください!! これじゃどこをどう掃除したって同じです、もうこうなったら三日三晩お祈りして台風起こして家中に風巻き込んで埃吹き飛ばしますよ!!」

「え。姫そんなことできるのすごい」


 そこを拾うな! そして掃除してください!


 っていうかほんとにどうしよう。やる気なくなってきた。掃除する意味ないじゃない。


「……掃除はもうしなくてもいいかな……」


 遠い目で私がそうつぶやくと、ユンファスが「やめちゃえやめちゃえ」と軽いノリで言ってくる。ぶっ飛ばしたい。

 やめられるならやめますよ。でも掃除は私がここにいるための条件なので!!


「とりあえず私、自分の部屋に戻ります」

「えー、つまんないひちっ」

「つまんなくていいです。自分の部屋でも掃除してます。……っていうか自分の部屋を掃除してください」

「楽しくないしー」

「そんなに嫌なら私が掃除しましょうか?」


 私がそう言うと、二人は首を振った。


「ううん、自分でできるからひちっ」

「それが出来てないからこうして申し出ているのですが!!」

「まぁわかった、そこまで言うのなら暇な時にやってみるよ」


 絶対やらない気だこの人!!


 もういいや、と半ば諦めた気持ちで地下へ降りていこうとした時、ふと二人の会話が聞こえてきた。


「っていうかリリツァス、ほんとに今回の仕事できるわけ~? 倒れたって聞いたけど」

「ひちっ、できるひちっ、できるもん!」

「ほんと~? 大体、今回はあれ置いてくんでしょ? 君も留守番してる方が安全じゃない?」

「やだ! 俺仕事行きたい!! ひちちっへちゅっ」

「保険を持たないで行くって。君の詳しい事情は知らないけどさぁ、大丈夫なの? ルーヴァスが許可出したってことはそれなりに余裕あるのかもしれないけど、死ぬかもよ?」

「死にません! ひちちっ」

「あ、そ。まぁいいけどー。やっぱり受け入れとかやめて外に放り出しときゃ楽だった? さして今のところ切り札にもなりそうにないし」

「いい子だし、ひちっ。そんなこと言わないであげなよ」

「リリツァスってほんと甘いよねぇ。僕は切り札にもならない役立たずなら殺してあげる気なんだけどね?」



 ――切り札?


 私は一瞬足を止めたが、しかしそのまま振り返ることなく地下の自室へと降りていった。










「……切り札って、なんだと思う?」


 私が問うと、リオリムは目を細めた。


『私にも、なんのことかは測りかねます。……しかし、先ほどの言葉からしてお嬢様の事を言っているに相違ないかと』

「だよね。つまり、彼らもただの親切心で私を受け入れたわけじゃないっていうことだよね?」

『そういうことになりますね』


 リオリムの返答に、私は考え込んだ。


 私の受け入れに裏があることを、驚いたわけではなかった。


 彼らの様子を見ていて私を受け入れることに賛成している感じは微塵も見受けられない。シルヴィス辺りは私のことを本気で嫌っているようだから、さっさと放り出せるものなら放り出したいだろう。


 ルーヴァスの言葉を思い出す。


 彼は、私に嫌悪をあらわにする様子はない。しかしどのみち私を遠ざけようとしていたのは確かだった。ただ私がどうしてもここに留まりたいといったから、彼はそれを受諾した。決して、積極的に私を受け入れたがっていたわけではない。


 シルヴィスは、見ての通り私を嫌っている。ノアフェスも街への外出の際、私に対して疑心をのぞかせたことがあった。ユンファスも私に対してかなり曖昧な態度をとっている。


 普通に接しているのは、カーチェス、リリツァス、エルシャス――


「……」


 いや。


 あとで謝られたとはいえ、エルシャスもあの夜、様子がおかしかった。


――ゆ る さ な い

――これ以上僕から、何もとらせない


 記憶に間違いがなければ、彼はそう言っていた。


――わたくしはどんな立場であれ彼らは全部憎いんですよ


 初めて会った時の、シルヴィスの言葉。


 私が、彼らになにか直接酷いことをしたわけではなさそうだが、とかく私は何故か初見から疎まれている。


 それは、何故か?


「……」


 居候が嫌だ、というようには感じられない。


 シルヴィスは最初、確か私を見て居候を置くような金はない、と言っていたが、ルーヴァスの言葉とは矛盾する。


 彼は、カーチェスと元々は二人きりでここに住んでいた。しかし行き場を失った他の五人を見つけ、共に住み始めた――


 つまり、居候を嫌がっているのではない、と推測できるだろう。


 ならば、本来最初は居候として過ごしていたであろう他の五人と、私の違いは何か?



 ……一つは、性別の違いだ。


 女である、ということは充分、彼らにとって邪魔になる要因として考えられる。

 なぜなら、彼らの仕事の特質上、仕方ないからだ。


 彼らは自分たちの仕事を「狩り」だと言った。


 狩りをするなら、相応の体力が必要だろう。男性ならその体力をなんとか鍛えて作れるとしても、女性であるならそれは少々難しい。


 別に体力のある女性がいないとは言わない。しかし残念ながら私にそのような体力は欠片もないし、それは外見からしても容易に見て取れることだった。



 つまり、仕事の役に立たない。


 居候としてこの家に置くにせよ、本気で何の仕事もできないのであればただの穀潰しだ。それでは確かに受け入れたくもなくなるだろう。



 が、これはやや考えにくい。


 なぜなら、結局彼らは私を現在受け入れ、そして仕事に付き合わせる様子が毛ほども見られないからだ。


 本気で私を仕事仲間として他の五人と同様に使う気なら、私にもそれ相応の鍛錬をさせるはず。しかしそんな様子は今のところない。


 だから、この性別の違い、という線は少し薄かった。



 では、他になんの違いが?



 二つめの違いは、身分。


 私は女王で、彼らは一般人。だから、自分たちに苦しい生活を強いて、税金で生きている私を恨んでいる――?


 しかし、これも何か違うような気がする。


 なぜなら、私の今の状況が明らかに裕福なそれではないからだ。


 そもそも、税金でまともに食べていけるような生活をしているなら、妖精たちの家に転がり込む必要が全くない。いや、まぁ白雪姫の件はあるが、それにしたってわざわざこんな迷いの森に駆け込む必要はない。お金があるのならどこへでも、大げさな話が全く関係ない国へと亡命してしまえば済む話だ。お金があれば不可能な話じゃないはず。つまりは裕福な者を疎んでいるのなら、私のこの状況を見てまだそんなことが言えるのか、ということだ。


 だから、この線も薄い。



 では、他に、何が?



 そこまで考えたところで、『お嬢様』とリオリムが声をかけてきた。


「あ、ごめんね。考え事してた。なに? リオリム」


 私が問い返すと、リオリムは私を見つめてふとこう言った。




『お嬢様は、「小人」の意味をご存知ですか?』

さて。


企画はまだまだ続きます。



というわけでゲストをお呼びいたしました。


ゲストさん、どうぞ!



シルヴィス;……



うわぁそんな全力で嫌悪を示さずとも。



シルヴィス;なぜ、私がこのようにくだらないものへ参加せねばならぬのか本気で疑問です



仕方ないじゃないですか。長いものには巻かれておきましょう。



シルヴィス;興味ございません



一蹴!



シルヴィス;事実ですので。大体、何故殺されかけねばならぬのです



はっ? いえ、そんなことしてないですけど。っていうかあの4人はそんなことを吹聴して回っているのですか? それ、ほんとは嘘で、



シルヴィス;この上私を偽るおつもりですか? 稚拙な脳内構造のくせにおこがましい



なんかいつの間にか酷いこと言われてません?



シルヴィス;当たり前でしょう、貶しているのですから



なんかいつにもまして刺々しいですね。何かありました?



シルヴィス;何かありましたか、ですって? ええ、ございましたとも。あなた、この前のアンケート特典でとんでもないことを



うっわぁああああああああああああああああああああああ!! ここでそのネタバレはやめてください!


もういいです、あなたの不機嫌にお付き合いする気はございませんので、質問を進めます!


では質問にお答えください!!

第1の質問。


趣味はなんですか?



シルヴィス;料理ですが



家庭的ですね。



シルヴィス;何か文句でも?



本気で目つきが怖いんですが。



シルヴィス;当然でしょう、睨んでいるのですから



怖い。無理。ホントに怖い。



シルヴィス;さっさと質問を進めてください。あなたの顔を長時間見ているなど、冗談じゃありません



僕、そこまで酷いことをした覚えはないんですが。っていうか人の顔見てなんてこと言うんですか。失礼ですよ。



シルヴィス;ほう。あのようなことをさせておいて、あまつさえそのような戯言を吐くのですね。殺しますよ



ダメ。もう無理。怖い。この人やだ。


で、でもですね。あれ、特典を受け取った人からはかなり好評で、



シルヴィス;なるほど、脳天の風通しを良くしたいのですね。わかりました。協力して差し上げましょう



ごめんなさい!!



シルヴィス;わかったのならさっさと質問を進めてください



わかりました……うう。


第2の質問。


好きな食べ物、嫌いな食べ物は?



シルヴィス;……



どうかしました?



シルヴィス;……笑いませんか?



なんですかその反応。もしかして嫌いなものはピーマンとか、リリツァス並の回答を



シルヴィス;そんなわけがないでしょう。



ですよね。



シルヴィス;……好きなものは、…………



なんですか?



シルヴィス;その、……甘いもの、です



…………。



シルヴィス;……



…………。



シルヴィス;…………



ぶっははははっはははははっはははっはっははは!!!!



シルヴィス;な、何を笑って



だってその顔で甘いもの! あはっ、あははははははは! 似合わ無さ過ぎる!!



シルヴィス;……っ、だからっ! 言いたくないと、



わかりましたわかりました、甘いものですね、美味しいですよね。僕も好きです。


はい、嫌いなものは?



シルヴィス;……っ。……酒は……苦手です



本物の甘党ですね。



シルヴィス;いけませんかっ!?!?



そんなに目を剥かないでください。いいじゃないですか、可愛らしくて。



シルヴィス;こ、殺す……いつか絶対……っ



ちなみにお酒はどれくらい召し上がります?



シルヴィス;は?



ですから、どれくらいで酔うのかと



シルヴィス;そ、それは……べ、別にちょっとやそっとでは……酔いません



なるほど、一滴も飲めないと



シルヴィス;!? いえですから、そんな酔わないと、



オーケーオーケー、把握いたしました。いいじゃないですか。酒臭い男より、甘いもの好きな男の方が女性からは人気高いと思いますよ。



シルヴィス;知りませんそんなもの!!



照れちゃってー。はは。



シルヴィス;いつかあなたの全身に100の弾丸が打ち込まれるでしょう。これは予言などではありません。単なる決定された事実です



えっ怖い。



……えー、気を取り直しまして。


第3の質問。


今欲しいものは?



シルヴィス;欲しいものなどありません



無欲だー。


では次に。


第4の質問です。


宝物はなに?



シルヴィス;ありません。



即答ですね。別に物理的なものに限らずとも良いのですが。



シルヴィス;……ならば、以前、ある人が私に告げた言葉、ですかね。それ以外にはありません



さっぱりしてますね……


では最後の質問です。


第5の質問。


もし一つだけ願いが叶うなら?



シルヴィス;……願い



はい、願いです。叶うなら?



シルヴィス;……私の使命を遂げること。それが今の私の願いです。けれどそれは神などに縋って望みはしません。あくまでこれは、私の目的。ならば私は、私の手で遂げてみせます



……なるほど。


ネタバレ全開っぽいので詳しくは聞きません。



シルヴィス;質問は終わりですね? では帰らせていただきます。



はぁ。つれないな。



シルヴィス;さようなら



……。


お礼に酒樽5つプレゼント、



シルヴィス;殺しますよ



ごめんなさい









……。


…………。


………………。



怖かった!! なんだってあんなに何度も銃を僕に突きつけてくるんですかねあの方!! しかもいつもなら笑顔なのに僕には笑顔の片鱗もない!! 真顔!! 怖すぎる!!


……いや待てよ? 笑顔で銃口向けられる方がよほど怖いか?


……うーん……


まぁいいや。


ではでは、以上で本日のコーナーはおしまいです。


いかがでしたか?




次回のコーナーをお楽しみに!

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