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26.apple

「え? 紙をくださるんですか?」


 突然ルーヴァスから告げられた言葉に、私はきょとんと彼を見つめ直してしまった。


「ああ。先程はあなたに不愉快な思いをさせた。申し訳ない」

「いえ、そんな。私はみなさんの事情がよくわからないから……でも、紙を頂けるなら良かったです。これで料理が楽になります」

「……そんなに苦戦していたのか」

「え。あ、いや、えっと。…………まぁ、そうです」


 紙をもらっておきながら「していません」と否定するのもおかしいし、一応頷いておく。


「すまない、あなたにはいつも不自由ばかりさせる」

「大丈夫ですよ。皆さん親切にしてくださいますから」


 そう言って笑うと、ルーヴァスは表情を曇らせた。


「……あなたは……」


 と、彼が何か言いかけたところで、どたばたと二階から誰かが激しい勢いで降りてきた。


「へちっ、へちゅっ、ルーヴァスー!!」

「……リリツァス?」


 降りてきたのはリリツァスだった。なにか困ったことでもあったのだろうか。泣き出さんばかりの顔でルーヴァスの下まで駆け寄ってくる。


「どうした?」

「ノアフェスが酷いんだよ!! ひちっ、今回の仕事は行くなってへちちっノアフェスが、ノアフェスが!!」

「とりあえず落ち着いてくれ。何の話だかわからない」


 ルーヴァスが呆れたようにそう言うと、「俺が説明する」と二階からノアフェスが降りてきた。彼の顔を認め、ルーヴァスは首をかしげた。


「ノアフェス。先ほどの話は本当だろうか?」

「ああ。本当だ」

「へっち、酷いよね!? ノアフェスの……はくしゅん意地悪!」

「意地悪だと? その体で仕事などできるわけがないだろう、考えろ」

「できるもん!へちっ!!」

「できない」

「できるってば! へちゅっ」

「できないと言ってる」

「何の話だ」


 不毛な水掛け論にルーヴァスが割って入ると、リリツァスはむくれ、ノアフェスが説明しだした。


「さっきこいつが倒れた」

「え!?」


 予想だにしない言葉に、思わず声が漏れてしまった。


「た、倒れた? リリツァスがですか?」

「ああ。廊下で出くわした時に妙に顔色が悪かったから声をかけて――その後すぐにだ」

「大袈裟なのノアフェスは! はっくしゅん! 俺は本当になんともありません!」

「何ともないのに倒れる奴があるか」


 二人は再び言い合いになる。こうして見ているとリリツァスは元気そのものだ。ノアフェスの言葉が嘘なのかと思うほど。


 しかし今までのノアフェスを見ていて、こんなことで冗談を言う性格にも見えない。初日の彼の私への態度は優しかったし、多分、良かれと思って言っていることなのだろう。どうしたものかとルーヴァスを見てみると、彼はじっとリリツァスを見つめていた。


 何か思う所があるのだろうか。どこか険しい色を湛えた双眸でリリツァスの様子を伺っている。


「リリツァス」

「へちっ、なに?」


 ルーヴァスが不意にリリツァスに呼びかけると、彼は言い争いをやめて振り返った。


「本当になんともないか? ――今回の仕事が、出来ると思うか」


 念を押すように、確かめるようにルーヴァスがゆっくりと訊ねた。


 するとリリツァスは頷き、「へちっ、できる」と答えた。


「――ならば、致し方ない。ノアフェス、あまり心配してやるな」

「だが」

「本人ができるといった。それでいいだろう」


 ルーヴァスがそう言うと、ノアフェスは何か言いかけたが、しかし結局その口をつぐんだ。


「――わかった」

「だが、ノアフェスの言うことにも一理ある。リリツァス。無理だと感じたら仕事中でもすぐに下がるように。自力で移動が不可能だと感じたなら、――」


 そう言いかけて、ルーヴァスはハッとした表情になる。一瞬私の顔を見たが、すぐにリリツァスに視線を戻して、


「――頼めないのか」


 小さく彼がつぶやくと、リリツァスが笑った。


「大丈夫だって。へくしゅっ」

「いや、万一を考えて備えるべきだ。しかし、参ったな……」

「――つくるか?」


 ノアフェスがそう問うと、ルーヴァスは首を振った。


「今の状態では無理だ。わたしも、できることならつくりたいが……。あれを飛ばしている以上、おそらくその体力はない。仮にあったとしても、それだけ膨大な体力を使えば仕事に障るだろう。誰かに頼めないだろうか。ノアフェス、あなたは無理か?」

「俺には期待するな。第一、おそらく俺のものじゃあない」

「ならばシルヴィスはどうだろうか……」

「可能性が無きにしも非ず、といったところだが。まぁカーチェスに頼むよりは脈アリだろうな」


 何のことやらさっぱりわからない話が展開され始め、私は何も言えず俯いた。


 今のこの話は、「女王である私」ならわかったのだろうか。それとも、女王であってもわからなかったのだろうか。

 ルーヴァスが先ほど私を見たのは、何故だったのだろうか。


 私は何も知らない。


 彼らのことも、この世界のことも、――何一つ。





『――お嬢様?』


 落ち込んだ様子で部屋に戻ってきた私に、ポケットから気遣わしげな声が掛かってきた。


「……リオリム。私」


 ポケットから鏡を取り出し、そこに浮かぶ人影を認めて私は目を伏せた。


「私、……どうしたらいい?」


 私は彼らを惚れさせなければならない。そうしなければ私は死ぬらしい。おそらく確実に。


 けれど私は彼らのことを何も知らない。


 彼らが私の行動を制限する理由も。彼らが私を厭う理由も。


 何一つ、知らないのに。それなのに、どうすればいいのだろう?


「私、私には、やっぱり……無理。だって、さっきの話だって、全然わからなかった。リオリムならわかるの? どうしてみんなが私を家に入れたくなかったのかとか。街に行かせたがらない理由とか。……全然、わからないよ……」


 ベッドに腰掛け、私は後ろに両手をついて天井を仰ぐ。


 そうして少し沈黙が流れた後、鏡の中から『……私は』と小さな声が聞こえてきた。


『私では、……お嬢様のお力には、なれません。しかし、わかることなら、あります』

「……」

『それは……、今のあなたが彼らの過去を知らずとも。……この賭けに勝つ可能性はある、ということです』


 リオリムの言葉に私は身を起こして鏡を見た。


「……どういうこと?」

『これは「勝負」なのです、お嬢様』

「白雪姫と、私の?」

『いいえ。道化師と、死神姫の、です』


 よく判らない単語が彼の口から飛び出してきて、私は眉をひそめた。

さて。


企画はまだまだ続きます。



というわけでゲストをお呼びいたしました。


ゲストさん、どうぞ!



カーチェス;ええと、こんにちは



はい、こんにちは。なぜここに呼ばれたかはご存知で?



カーチェス;ユンファスからは、半殺しにされるから気をつけたほうがいいって何回も言われたけれど……



ひ、人聞きの悪い。少しからかっただけだというのに。



カーチェス;あんまり、仲間たちをいじめないでやってくれないかな



ええと……はい。すみません。



カーチェス;うん、お願いね。それで、俺はどうすればいいのかな?



ええとですね、端的に言うならばここで、僕の質問に答えていただきたいと考えておりまして。



カーチェス;うん、いいよ



ありがとうございます。


では質問にお答えください。

第1の質問。


趣味はなんですか?



カーチェス;趣味?



趣味です。なんですか?



カーチェス;……特にないな



えっ。



カーチェス;ああでも、書を読むのは好きかな? だから、読書、ということになるかもしれない



は、はあ。



では第2の質問。


好きな食べ物、嫌いな食べ物は?



カーチェス;嫌いなものは特にないな……全般的に果物は好きだよ



果物ですか。具体的には?



カーチェス;うーん……桃とか梨あたりは結構好きな部類に入るけど。でもグレープフルーツとかになるとそこまで好きでもないかな。別に嫌いでもないんだけれど



ふっつーですね



カーチェス;あはは、よく言われる。ユンファスには以前、「つまんないなー。じゃあ僕が嫌いなものを見つけてあげる」って言われていろんな物を食べさせられた記憶があるし



結果どうなったんですか?



カーチェス;結局見つからなくてね。ユンファスが飽きて終わったかな



彼らしい



カーチェス;うん、元気なのはいいことだよね



……カーチェスって照れていなければ大人ですよね



カーチェス;て、照れていなければって……別にそんなに照れることなんて



いや、彼女を目の前にすると挙動不審になりがちだなと



カーチェス;えっ!?



いや、「えっ」て言われても



カーチェス;俺、そ、そんなに様子が変?



まぁかなり挙動不審ですよね



カーチェス;……!?



なぜ今赤くなるんですか



カーチェス;い、いや別に赤くなってないよ



耳の先まで真っ赤ですが



カーチェス;そ、そんなことはないと思う



思うってなんですか思うって。まぁこの際どうでもいいです。


第3の質問。


今欲しいものは?



カーチェス;今欲しいもの……ないなぁ



なんか皆さん揃いも揃って物欲なさすぎじゃありませんか?



カーチェス;揃いも揃ってって……前の二人も欲しいものなかったの?



エルシャスは安眠希望でしたけど。抽象的なものは控えて欲しいと言ったら、欲しいものが消え失せました。



カーチェス;子供なのに、無欲だよね。もっとワガママでもいいと思うけどな



あとユンファスは端からありませんでしたね。



カーチェス;何だかんだでここの住人はみんなそうかもしれないね。あんまりお金遣いが荒い人はいないし



じゃあ貯金能力高そうですね



カーチェス;あはは、そうかも



では、第4の質問です。


宝物はなに?



カーチェス;宝物……は、これかな?



いつも髪を結わえてるリボンですか。白地に赤い線が中心に一本……かなりシンプルですね。



カーチェス;まぁ、装飾目的じゃないからね



じゃあどういう目的で?



カーチェス;お守りみたいなものかな?



ちなみに、これ、ご自分で買われたものですか?



カーチェス;ううん、違うよ。どうしてかな?



いえ、あなた髪が白いので。赤い線以外極めて目を引かないデザインだなと思って。



カーチェス;そうかもね。まぁ、誰かに見せたいものでも自分を飾りたいものでもないわけだし、問題はないかな



なるほど。かなり意味深ですが、なんかネタバレになりそうな雰囲気なので質問は控えますね。



では、最後の質問。

第5の質問。


もし一つだけ願いが叶うなら?



カーチェス;――願いが叶うなら、か



願い事はありますか?



カーチェス;うん、あるよ。――もし本当になんでも叶うのなら、――過去に戻って、「あの日」をやり直したい。でもそれはできないと知っているから――あの子に会って、謝罪したい



……それが、願い事ですか?



カーチェス;うん。これ以外に俺が今、願い請うことなんてないから



……また、意味深な。



では、この辺でお開きにいたしましょうか。



カーチェス;そう? じゃあ、帰ってもいいのかな?



はい、お好きになさってください。あ、別に帰りたくないというのなら帰らなくてもいいですよ。もしくはここに留まって姫とふたりっきりで話してみたいというのならそのシチュエーションを用意して差し上げても



カーチェス;そ、そんなことはしなくてもいいよ!?



あ、真っ赤ですね。



カーチェス;彼女だって迷惑だろうし、その……俺の身が、保たない……



女性凄まじく苦手なんですね。



カーチェス;苦手っていうか……慣れてなくて



彼女は嫌いですか



カーチェス;!? き、嫌いじゃないよ。いい子だなとは思うし、……ってこれ答えなきゃいけないことなのかな?



語りたいなら語ってくださっても結構ですよ。酒の肴にいたします。



カーチェス;い、いや結構です……じゃあ帰ります



はい、お気をつけて。



カーチェス;ありがとう。じゃあ、さようなら





……。


…………。


……アンケートの印象にあった「中学生」っていうの。

結構、間違ってないんですよね……初心だなぁ。


まぁいいや。


ではでは、以上で本日のコーナーはおしまいです。


いかがでしたか?




次回のコーナーをお楽しみに!

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