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25.apple

「――レシピの記録? そんなことのために紙が欲しいと?」

「姫はそういう風に言ってるよ。別に紙じゃなくてもいいから、とにかく記録できるものが欲しいんだって。何かないかな」

「ならば壁にでも書いたらどうだ」

「いや流石にそれはちょっと……」


 ノアフェスはカーチェスを見遣って目を細めた。


「そういえばお前は随分と姫に協力的だな」

「ええと、なにかダメかな?」

「ダメだのダメじゃないだの、そんなことを俺に決める権利はない。ここでの主は俺ではなくルーヴァスだろう。事の良し悪しはあの男に聞け。俺が言っているのはそんなことじゃない。――お前は憎んでないのか?」


 ノアフェスの問いに、カーチェスは「随分と饒舌だね」と笑った。


「君がそんなに喋るとは思わなかったな」

「答えになってないが」

「なら逆に聞かせてくれないかな? 君は、姫のことをどう思っているの?」


 そう問われると、ノアフェスは目をそらした。



 ここは、ノアフェスの部屋だった。


 あの後、カーチェスは二階へ行くと相談の出来そうな者を考え――結果、彼のもとを訪れたのだった。


 ノアフェスは訪れたカーチェスを拒むような色は見せなかったが、何かの作業中だったのか、カーチェスが入室してからもずっと机に向かっている。話の本題を切り出すとこちらに顔を向けはしたが、その体は机に向かったままだ。


「俺には、――わからない」


 ノアフェスの答えに、今度はカーチェスが目を細める。


「俺は、自分のことさえ分かってない。なら、彼女を憎んでいるかどうかなど、――解るはずもない」

「そう。まぁ、君は、そうなんだろうなって、なんとなく思ってたよ。君は他人のこと、あんまり気にしないしね」

「質問には答えた。それで、お前は?」


 ノアフェスが再度問うと、カーチェスはふわりと微笑んだ。


「可哀想だな、とは思うよ」

「――可哀想?」

「彼女に罪はないはずだから。ここに来たのも――あまりに、不運だなって、思ってる」


 カーチェスがそう答えると、ノアフェスは視線を机に戻して肘をついた。


「曖昧な答えだ」

「そうかな」

「可哀想だから、親切にしているのか?」

「そうだって言ったら? 俺、おかしなこと言ってる?」

「言っている。ルーヴァスはともかく、――この住人の間でそれを口にするのか?」


 ノアフェスが含みのある言い方をすると、カーチェスは笑みを消した。


「彼女自身に、罪はないよ」

「それ自体に何の意味がある? シルヴィスやユンファスがその答えで納得すると思うのか」

「しないだろうとはわかっているけれど……」

「ならば無闇に姫の肩を持たないほうがいい。――ここを追い出されても、俺たちには行くあてがない」


 彼の言葉に、カーチェスは目を伏せる。そっと自分の手のひらに目を落として、「でも」と呟く。


「それは、彼女も同じだと思うんだ」

「思うにせよ、それは胸の内にしまうだけにしておけ。敵意がお前に向かう可能性もある。場合によっては――錯乱した時に殺されるかもしれない」


 ノアフェスはそう言ってから、「俺も」と小さく続けた。


「俺も、哀れな奴だとは思ってる。しかしまだ恵まれている。娘から逃げてきたと言っていたが、それがよしんば真実だったとして、本来ならあいつにはここでなくとも逃げ場がある。生きていける場所など、いくらでも選べる。――所詮俺たちとは、端から違うのだ」


 諦めたようなどこか投げやりな物言いに、カーチェスもまた、表情を曇らせた。


「――それでも、ここに彼女が来たことは、縁じゃないかなって、俺は思ってる」

「……」

「完全に信用できないのは、その度合いこそあれここにいるみんな同じだよね。俺たちは所詮、行き場を失ってここにたどり着いた者たちばかりだ。それなら彼女も一緒じゃないかなって、俺は思うな」

「……」


 カーチェスの意見に、ノアフェスが賛成を示すことはなかった。ただ複雑そうに手元に視線を落とすばかりで。


 それからしばらく、沈黙が続いた。


 別に、さして居心地の悪い沈黙ではない。意見が分かれるのはわかっていたようなことを議論していたのだ。カーチェスもノアフェスも、相手を疎ましく思うことはなかった。これがシルヴィスやユンファスでなかったのが幸いしたと言えよう。


 カーチェスがそのまま何とはなしにノアフェスの背を見つめていると、ふと彼が振り返ってきた。


「まぁ、いい。それについて俺があまり言及したところでお前は意見を変えないだろう。それより本題に戻すが」

「本題? あぁ、記録のことかな」

「あぁ。紙を渡せないとシルヴィスやユンファスは言っていたようだが、“あれ”を残しておけば問題ないのではないか?」

「“あれ”? ――あぁ、そういえば、そうかも」


 ノアフェスの意見に、カーチェスははっとしたように瞬きした。「忘れてた」と彼が零せば、ノアフェスも「俺も似たようなものだから気にするな」と言う。


「問題は“誰”のを残していくか、だけど」

「ルーヴァスはまず無理だろうな。シルヴィスはそもそも貸し出す気などないだろうし……エルシャス、ユンファスは持っていないはずだな」

「俺は諦めて。絶対使えないから」

「右に同じくだ。俺も使えるとは思えない。ならば、……一人しか残らないが」

「……リリツァスか。彼のは確かに信頼できると思うけど……果たして、俺たちが言って使われてくれるかな?」

「リリツァス自身に頼めばなんとかなるだろう」

「まぁ、リリツァスも姫に協力的だから説得は期待できるかな。……うん、そうするよ」


 カーチェスが退室しようとするのを認めると、ノアフェスは机に向き直った。


「提案ありがとう、ノアフェス」


 去り際にカーチェスがそう声をかけると、ノアフェスはひらりと一つ手を振った。




「――親切?」


 ぱたん、とノアフェスの部屋の扉を閉めてから、カーチェスはつぶやいた。


「俺が、……彼女に……?」


 ゆっくりと、歩き出す。向かったのは彼自身の部屋だ。扉を開き、中に入ってからそっと閉める。


「俺が、優しい――?」


 カーチェスは吐き出すようにそう言うと、小さな掠れた笑い声を上げた。それから右の手のひらで顔を覆う。


 苦しげに息をついて、自嘲気味に口の端をわずかに釣り上げる。


 そして、違うよ、と吐息のような声で紡ぐ。


「……そんなものじゃないよ」


 とん、と背後の扉に背を預け、


「そんなものじゃない」


 うなだれ、うつむいたまま、苦しげにつぶやく。


「そんなに綺麗じゃない。そんなに俺は優しくない。――君が言うみたいに、俺は優しくなんかない。俺は汚い。骨の髄まで穢れきってる、それでもいいって選んだんだ」


 言い聞かせるかのように。或いは罪を告白するように。


 小さく、力なく紡いで。それから、ずるずると扉に背を預けたままそこに座り込んだ。


「――でも君に俺が優しく見えるというのなら」


 カーチェスは後ろで髪を結わえているリボンを解いて手に取り、見つめた。顔を歪め、リボンを額に押し付ける。


「それは俺の、ただの自己満足、だ――」


 俯いた彼の頬に一筋、光るものがこぼれ落ちた。

さて。


企画はまだまだ続きます。



というわけでゲストをお呼びいたしました。


ゲストさん、どうぞ!



ユンファス;はぁい、こんにちはー



はい、こんにちは。今回の企画をご存知ですか?



ユンファス;うん一応? 「妖精たちの自己紹介コーナー」とかいう人のプライバシー全力で侵害してる奴だよね



……。まぁ間違っていませんけど



ユンファス;じゃ、始めていきましょー☆



え、怒ってます?



ユンファス;え、全然。こういうバカみたいな企画僕は好きだし



さらっと貶された。まぁこの際無視致します

では質問しても大丈夫ですね?



ユンファス;うん? そもそも拒否権とか用意されてるのこれ? 昨日のエルシャスを見てた限りそうは見えないけど



あぁ、見てたんですね。はい、仰る通り拒否権とかないです



ユンファス;うわぁひど。まぁいいけど。じゃあ質問どうぞ



では質問にお答えください。

第1の質問。


趣味はなんですか?



ユンファス;趣味~?



はい、趣味です



ユンファス;僕の場合結構色々あるからなー。一様にこれ、とは言えないけどー……



けど?



ユンファス;まぁ、花をいじるのは好きかな?



花をいじる? 土いじりですか?



ユンファス;あー違う。例えばー……そうだな、フラワーアレンジメントとか?



え、そういうの好きなんですか



ユンファス;え、変?



別に変とは言いませんけど。意外です。手先不器用とか言ってませんでしたっけ



ユンファス;それはあれ? 姫のベッドを作るために木をぶった切ってた時のこと?



そうです。



ユンファス;まぁ、僕は僕自身のことを器用だとは思ってないよ。でも、ほら。何か花とかさ、あと、宝石とか? 女の子が好きそうなものばっかだけど、ああいう華やかなものって、何となく心が明るくならない?



……健全なことを仰る



ユンファス;なにそれ。僕のことをなんだと思ってたのー?



とりあえずアンケートではチャラ男の一言に尽きる印象ばかりでしたから。「趣味? 女遊び~」とか言いそうだなぁ、と



ユンファス;うわ、不名誉ー



まぁそんなことはどうでもいいです


では、第2の質問。


好きな食べ物、嫌いな食べ物は?



ユンファス;好きな食べ物と、嫌いな食べ物かぁ……。うーん。あ、匂いの強いものは嫌い



例えば?



ユンファス;例えばって言われてもな……新鮮なものはともかく、魚は結構苦手かも



はあ



ユンファス;あと、好きなもの? 好きなものは辛いものかな?



意外です



ユンファス;またー? そんなに意外なことばっか言ってる?



いえ、そこはチャラ男らしく「女の子も好きだからね、甘いものかな?」とかあとはそれに続けて女性を口説くような言葉も言い出すかと



ユンファス;俺に対する偏見かなり激しくない? ねぇどうなってるのこれ?



まぁ日頃の行いということで。


それでは第3の質問。


今欲しいものは?



ユンファス;欲しいものねぇ。特にないや



まじですか



ユンファス;まじです



……。


第4の質問です。


宝物はなに?



ユンファス;ないなぁ



つまらない人ですね



ユンファス;ねぇひどくない? なんか俺に対する扱いひどくない?



それでは、第5の質問。最後の質問です。


もし一つだけ願いが叶うなら?



ユンファス;願い、かぁ。――うーん、難しいなぁ



これもないとか言うんですか?



ユンファス;ううん、そんなことはないけど。そうだなぁ、あえて一つだけ言うのなら――



なら?



ユンファス;痛みを知りたい



……ドM、ということでしょうか



ユンファス;凄まじい変換された!?



ユンファスさんまさかの



ユンファス;違うから! 断じて違うから! っていうかなんかもうここやだ! 僕部屋に戻る!



いえ、先ほどの答えの真意を聞きませんと



ユンファス;答えなきゃいけないわけ!?



まぁあれだけ意味深な答えを返されたら、……あぁ、ドMという解釈でいいのならそれも結構で、



ユンファス;答えるよ! ドMはやめて! みんなが誤解するでしょ!?



答えが微妙だからそういっただけで、僕はただ一般的な見解を、



ユンファス;わかった、もう聞きたくない、話すから黙ってお願いだから!



あぁ、はい



ユンファス;痛みを、解りたい。涙の流れる理由を、感じたい。そういう意味



……。これ以上言うとネタバレになります?



ユンファス;凄まじいネタバレになるー



わかりました。この辺でやめておきます



ユンファス;うんお願い。はぁ……かなり酷い目にあった……もういいや、帰ったらリリツァスに胡椒ぶっかけて楽しも……



うわぁ悪趣味。


まぁその辺は僕の関与するところではないのでこの際放置しておくことにいたしましょう。




ではでは、以上で本日のコーナーはおしまいです。


いかがでしたか?




次回のコーナーをお楽しみに!

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