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90.apple

 気まずい思いで、隣に座るシルヴィスをちらりと見る。


「……」


 シルヴィスは沈黙したまま、目の前で騒ぐひとたちをじーっと見ていた。


 現在、私とシルヴィスはリビングの椅子に座っている。


 ちなみに目の前では、不機嫌そうに向かいの椅子に座るラクエス――話を聞いたところ、ルーヴァスが使役する精霊とのことだった――と、彼に色々話しかけるキリティア、その後ろでどんな苦いものをどれだけの量鍋に突っこんで薬にするかという恐ろしい話をしている妖精たち。その談義のために、わざわざリリツァスとエルシャスも呼ばれて二階から降りてきていた。


 いや……なんで、苦いもの?


「やっぱり枯れ葉がいいと思うよ、俺! だってお茶にもするし!」

「じゃあぼく、枯れ葉、あつめる」

「うーん、今の時期なら、枯れ葉を集めるより葉っぱを集めて燃やした方がいいよね」

「……」


 凄まじい話に、私とシルヴィスの眉間にしわが寄る。


 ……許してほしい。


 なんで、枯れ葉? あと、他にもさっきから炭とか骨とか理解不能で不穏極まりない単語が出てきているんだけど、どういうことなの? なんかあの、中国の薬、何ていうんだっけ。ああ、漢方?とかそういうのを参考にしているのかな……?


「……自分が飲み下す側と考えると、死にたくなりますね」


 ぼんやり、シルヴィスがそう呟く。


「……やっぱりあれ、飲む……ことになるんですかね」

「薬は苦いものということですから、よく効くものにしているのですよ」


 何だそれ。


 え、……え、何だそれ。


「良薬口に苦しというからな!」


 何故か自信満々にノアフェスが言い放った。


 誰ですかそんな妙な情報を彼らに教え込んだのは。この場合ノアフェスですか。


「ノアフェス、良薬口に苦しってそういう意味じゃありま」

「まっっっず!!」


 ユンファスの悲鳴のような声を聞いて、その場の全員がそちらへ視線を向ける。

 床に置いた小さな鍋から、匙で中身をすくって舐めたらしい彼は、若干涙目になっていた。しかし相変わらずの笑顔で、匙をリリツァスに突き出す。


「ねぇこれ殺人的な勢いで不味いよ、リリツァス食べてみなよ」

「や、やだよ!」

「ふむ、それならこれで病も撃退できるか」

「あとは……枯れ葉だけかな?」

「枯れ葉……どれくらいいる?」


 どうしてしっかり者そうなカーチェスまであんなおぞましいものを作っているんですか勘弁して。


「っていうか、臭いもひど……」


 鼻を押さえ、私は顔をしかめた。


「なあ、マジでそんなもん食えんのかよ。シルヴィスぶっ倒れねぇか?」


 キリティアが酷く困惑したような顔をしながら後ろを振り返る。すると、カーチェスが苦笑しながら「薬だから……、」と言った。


 いやいやいや申し訳ないですけどそれ多分ただのゴミ……


「薬っていうと、あれじゃね? 薬草とか、ああいう奴だろ? 骨とか落ち葉とかって、なんか違くね……?」


 キリティアがそう言うと、ラクエスがふんと鼻を鳴らし、


「黒魔術さながらだな」


 と吐き捨てた。


 ……鳥の時はまだ動物の姿をしていたから愛想がなくても許せましたけど、ひとの姿になるとこれは大変ヤなやつですね。


「薬草……って言っても草でしょ? 落ち葉も草みたいなものじゃない」


 ユンファスが快活に笑って言うが、全然違う。


「駄目ですよ、そんなの……、植物って場合によっては毒に……、ぅ」


 ずき、と頭が痛む。


「姫?」


 カーチェスが慌ててこちらへ駆けよってきた。


「……部屋に戻る? 多分、具合が悪いのなら寝てた方がいいよね」

「いえ……、大丈夫です」

「姫! まだ落ち葉入れてないけど、薬飲む!?」


 リリツァスが心配そうにそう聞いてきたので、


「あ、遠慮します」


 と速攻でお断りした。


「……やはり落ち葉がいるのか」

「いや、ほんとに申し訳ないんですけど、それは人間が服用可能な物体じゃあないです……」

「なに!」


 ノアフェスがショックを受けた様子で「そ、そんなはずは……」と狼狽えているが、フォローも思いつかず、私は何も言わないでおくことにした。しかし、そんなノアフェスに対して


「貴様らは無知も良い所だな。人間の薬は基本的に薬草か薬草を溶かし込んだ薬草酒だ。そんなことも知らんのか。貴様らの作っているそれは、単なるゴミだ」


 と、ラクエスが鼻で笑う。


 ……もう少し、言い方がないんだろうか。


「お前、人間の薬に詳しいのか」

「私が詳しいのではない。ヘルシャーが詳しいのだ」

「……ルーヴァスが?」


 リリツァスが不思議そうな顔になった。


「そう言えば……何で、ルーヴァスは風邪のこととか薬のことを知ってるんだろ……? へちっ、基本的に俺たちにとっては無縁なのに……」


 言われてみれば、そうだ。ルーヴァスが詳しくなる理由がよくわからない。


「ただの興味ではないですか? 彼は興味のあるものをよく調べるようですし。それよりも、その酷い臭いのものを一度どこかへやって頂けますか」


 シルヴィスが酷い顔色でそう言った。


「えーっ! シルヴィスもさっきまで俺たちと一緒に作ってたのに! へちっ」

「自分が飲む立場となると、とてもではありませんがご勘弁願いたいものです。それに既に飲む必要がないとわかったのですから、もう捨ててしまって構わないでしょう」


 ちょっと待て。


「待ってください、私に飲ませるのは構わないのに自分は飲みたくないってことですか」

「一応弁解しておきますが、あれを錬成していた時は、苦いものなら薬になると、リリツァスとノアフェスに唆されたのですよ」

「いやそれでも人としてどうかと思うんですけど!?」

「まぁ、人ではありませんから」

「……うっわ」


 シルヴィスの、人となりの最低加減を改めて思い知らされたところで。


「……ん?」


 シルヴィスがふと、薬を錬成している面子をもう一度見て、眉をひそめた。


「……エルシャスはどこへ?」

「え? エルシャスならここに」


 と、リリツァスが正面を指さすと、何故かそこには誰もいなくて。


「えっ? あ、あれ、何で? さっきまでここに」

「あのぬいぐるみ寝坊魔なら、さきほど地下へ降りて行ったが」


 何ですかその名前。


「エルシャスが下に? 何でだろう。ちょっと俺、下を見に行ってくる」


 カーチェスがぱたぱたと地下へ降りていくと、ややあってから、


「え、エルシャス! そこは開けたらだめだよ!!」


 と言うカーチェスの慌てた声が聞こえてきた。


 それに、ラクエスが顔をしかめて地下へ向かって叫ぶ。


「おい貴様ら、何をしている!」

「エルシャスしまって! ……え?」


 ラクエスの問いかけに返答がなかったせいだろう。ラクエスはしびれを切らしたように地下へ降りていく。


「……何だろ?」


 ユンファスが不思議そうにつぶやくと、今度は下からは怒号が聞こえてくる。


「貴様ら、ヘルシャーがあれほど開けるなと言っていた場所を!」

「ご、ごめんね。でもこれ……、これ、ノアフェスの本じゃない?」

「ん?」


 名前の挙がった当の本人である、ノアフェスが首を傾げた。


「何だ?」

「ノアフェスってあんまりあそこに本置いてないよね? へちっ」

「うむ。基本的にほとんどの持ち物は“小屋”に置いてある」

「何か下に本置いた?」

「いや? ……ああいや、ここへ来た当初に数冊は置いたが……それならカーチェスも見たことがあるはずだ。いらない本があるなら地下の本棚に置くといいと言ったのはカーチェスだからな」


 ノアフェスとリリツァス、ユンファスが話していると、地下から三人が上がってきた。


 今にもぶちギレそうなラクエスが死ぬほど恐ろしいのだが、あれは放っておいていいのだろうか。


 ……いや、怖いものには目を向けないでおこう。

 ひとまずカーチェスとエルシャスに眼を向けると、エルシャスが一冊の古そうな本を持っていた。


「……何あれ、ノアフェスの本なの?」

「いや違う。俺はこの国の本でわざわざ本を買ったことはない。お前たちの読んだ本を借りた程度だ」

「じゃああれ、何? 地下の棚で見たことなくない?」

「うむ……」


 ノアフェスとユンファスがこそこそ話し合っていると、シルヴィスが皆を代表するように訊ねた。


「……それは?」


 エルシャスはとことことこちらまで歩いてきて、テーブルの上に本を広げる。


「……薬の本……人間のものですね。そして言葉はこの国の、言葉……ですが」


 不可思議な点が、一つ。


 すべての文の下に、何故か――


 私の良く知る、日本語が、手書きで綴られていた。

お久しぶりです! 天音です!

絶賛風邪をこじらせておりますあはは!


……はい皆様はどうかご自愛くださいませ。


さて、元旦ぶりですが、人間に疎い妖精たちもようやく、まともに看病を始めてくれると思います。何せエルシャスが薬の本を見つけてきたので。


加えて、妖精たちに比べると精霊は、人間への知識においては常識人が多いので、まぁ主人公がとんでもないものを口にする確率も減るでしょうね!


まぁ減っただけですけど! あはは!


皆さまは風邪など召されていませんか?

こんな季節ですので、どうか無理はなさらずに。

まぁお前が言うなって話ですね!


ではでは、本日はこれにて。

100話まであと10話。頑張ります。


以上、体調管理のレベルがゼロを突き抜けてマイナスの天音でした!


……のどいたいな。

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