治療
「さあ、ここに座って。」
入っていった部屋は、相変わらず真っ白であるが、先ほどの部屋よりも大きかった。しかし、そこにあるのは一つの椅子だけで他には何もなく、私は少し不気味に感じた。
私が椅子に腰を掛けるのを見ると、魔女が「じゃあ、倒すね」と言って手に持ったスイッチを押した。すると、体がいきなり後ろへ吸い込まれ、私は情けない叫び声をあげてし赤面する結果となった。その後数分間、部屋は下品な笑い声が響いていた。
「それじゃあ始めようか。」
二人の笑いがやっとのことで収まると、悪魔はそう言って先ほどの袋を開けた。
「えっ、ちょ、ちょっと!」
「大丈夫。少し痛いけど、すぐに感覚がなくなるから。」
袋の中から出てきたのは、とっても太く、大きい注射器だった。その外見からは、とても少し痛いだけでは済みそうにない。私は、それを手にじりじりと近寄ってくる悪魔に怖気づき、身を翻して逃げ出そうとした。
「はい、動くんじゃないよ。」
しかし、逃げ出すことはできなかった。魔女が、その見た目からは決してありえないほどの力で私を押さえつけたのだ。
「や、やめろ!そんなものを近づけるな!」
「安心しろ。痛いのは最初だけだから。」
「そうだ。安心して眠りな。」
そして、夜の街に私の情けない叫び声が響いた。
背筋に寒気が走る。私は、重たい瞼を手で擦り、薄っすらと開ける。
「…ここは、…」
目の前には、先ほどまでいたクリニックの部屋ではなく、駅近くの商店街路地が広がっていた。