愛されたければ愛せ
私は、呆気にとられたが、しかし、その裏ではなるほど、と関心していた。
「それで、私はどうすればいい?」
「お前は、どうしたらいいと思う。」
「そんなこと…」
そんなことわかっていたらこんなところまで来ていない。
「…わからない。」
「まあ、そうだろうな。大体、わかっているのなら相談になど来ないもんな。」
なら聞くなよ!私は、心の中で激怒する。こちらをおちょくっているとしか考えられない彼らの言動に、私はますます彼らを信用できなくなっていた。
そんな私を後目に、彼らはけたけたと目尻に涙を浮かべていた。
「まあまあ、そんな顔するなよ。ちゃんと望みは叶えてやるって。」
なだめるような口調で私にしゃべりかけてくる悪魔の顔が徐々に真剣みを取り戻していく。
「それで、ここからが本題だ。あんた、すべての人、すべての他人に愛されるということがどういうことか理解しているかね。」
私は、少し考えてから首を横に振る。
「簡単なことだよ。昔からよく言うだろ。人から愛されたければ、まず自分から愛せよってね。つまりは、そういうことだよ。」
「…はっ?」
「いや、だから、人に愛されたければ、自分から人を愛せってことだよ。」
「えっと、もっと具体的に頼む。」
理解に苦しむ私を見て、悪魔は深いため息を漏らす。
「いいかい。つまりあんたは、これから全ての人を愛せってことだよ。」
隣から魔女がぶっきらぼうに言い放つ。
「そ、そんなこと…、私にだって苦手な人間や嫌いな人の一人や二人はいる。すべての人を愛するなんて、できるわけが」
「そこで、俺たちの出番ってわけだよ、お前さん。俺たちが、あんたをちょちょっと治療みたいなことをすれば、そのうちだんだんと苦手な人も愛することができるようになってくるから。まあ、任せておけって。」
自慢げに悪魔は言い、顔を不敵にゆがませる。
「おい、あれ持ってきて。」
悪魔は、魔女に向かって言う。魔女は、悪魔の言葉を聞くと「へーい」と言って奥の部屋へと入って行った。
「いったい何をするんですか。」
「まあ、気にするなって。言ったって、きっと理解できないことだからさ。」
へらへらと悪魔は私の質問を誤魔化す。すると、奥の部屋から魔女は白い布の手提げ袋を持って戻ってきた。
「はいよ。ちゃっちゃと済ませようぜ。なんだか眠くなってきちまったよ。」
魔女は、持ってきた手のひらほどの大きさの袋を机に置きながらあくびをした。
「そうだな。俺もこいつを相手にするの疲れてきたところだ。」
無性に腹が立つ。こいつらは、どこまで私を馬鹿にすれば気が済むのだ!自然と両手の拳に力が入る。しかし、彼らは私のいらだちなど気にも留めずに椅子から離れ移動しだした。
「おい、あんた。ちょっと付いて来な。」
魔女が顔だけ私に向けそう指示してきた。私は、いらだちのせいで重くなった腰をしぶしぶあげ、これまたしぶしぶと彼らに付いていった。