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彼女

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 彼女と出会ったのは、会社の会議室であった。去年の春、彼女は私の所属する部署へやってきた。そして、それが運命であるかのように、私は彼女の担当になった。担当といっても、彼女が仕事に慣れるまでのフォローとしての短い期間の事だったが。しかし、私はその短い期間で彼女の虜となった。少し挑発的な目、つややかな黒髪、そして、心地よく響く、透き通った声…。どれもが私の心を鷲掴みにし、私は瞬く間に彼女に惹かれていった。担当が終わる日、私は思い切って「付き合おう」と言った。何の気なしに、さらりと言うつもりだったが、声が少しうわづっていたような気がする。彼女は、私の言葉を聞くと、少しおどけたように「ふふふっ」と上品に笑って見せ、「うれしいです。」と笑顔を見せてくれた。その時の彼女の顔がまぶしすぎて、私は固まっていることしかできなかった。彼女は、私の間抜け面を見て、少し呆れたように「ふふふっ」とまた笑ってみせる。私は、それを見て、にやにやと腑抜けた顔を隠し切ることはできないのだった。

 彼女との付き合いは、とても楽しかった。幸せだった。たわいもない話をしたり、ちょっとした間に散歩へ出かけたり、ご飯を一緒に食べたり、そんな特別でもなんでもないことが、彼女が隣にいるだけで、とても新鮮で、うれしくて、今までのどんな時よりも輝いていた。初めて彼女とキスをしたときは、胸の鼓動がうるさすぎて、その鼓動の音ばかりが頭に残り、肝心の彼女の唇については全くと言っていいほど、覚えていなかった。「中学生かっ」て、自分で突っ込みたくなったよ。

 あの頃の私は、いつまでもあの幸せが続くと思っていた。いつでも彼女が隣にいて、笑顔が絶えない。そんな輝かしい日常が…。けれども、そんな理想は壊れてしまった。あの日、彼女の発した一言で、私の輝かしい日常は壊れてしまった。最後に残ったのは、何とも言えない脱力感と、彼女への未練だった。


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