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別れ
私は、すべての人に愛されたかった。ただ、それだけだったのだ。
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「…別れましょう。」
彼女の声が、部屋に響いた。冷たい声だった。透き通り、直接頭に響くような、私の大好きな声が発した言葉だった。
「…な、なんで…」
「あなたのことが、もう好きではないからよ。」
咽喉が押しつぶされる感覚の中、必死に漏らした私の言葉は、何ともあっさりと返されてしまった。私の大好きな声で…。
彼女は、私が何も言えなくなっている姿を、少し悲しそうな目で見つめる。そして、手元にあった荷物に手をかけた。私は、はっとして彼女が立ち上がる姿を目で追う。何か言わなくては…。彼女を引き留めなくては…。しかし、私の頭には何の言葉も浮かんでは来なかった。私は、口をパクパクと不恰好に動かすだけで、言葉を発することはなかった。
『キー…パタン』
甲高く、耳障りな音が鳴り、その直後にすべての終わりを思わせる決まりのいい音を残して、彼女の姿は私の目の前から消えてしまった。
「愛してる。」
私一人が取り残された部屋に、震える声がむなしく響き渡った。