ドラゴンの城
昔々のお話です。
とある国に、民衆に人気の王様と、美人と評判のお妃様がいらっしゃいました。
二人の間には、それは端整な顔立ちをした王子様がいらっしゃいました。
王子は、父親である王様にも、母親であるお妃様にも、部下にもこう呼ばれていました。
女の子のようなかわいい王子。
王子は、王様には悩みごとがあることを知っていました。
王様は、隣の国にある、ドラゴンが住むという城のことで悩んでいました。
王子は、ドラゴンを倒せば、王様に認められ、女の子のようだと呼ばないと思いました。
そこで、王様に提案をしました。
「私が、隣の国の城へ赴き、王の憂いているドラゴンを、退治してみせましょう」
王様は大いに喜び、さっそく王子の旅支度を手伝いました。
あくる日、王子は城を出発し、ドラゴンの城へと向かいました。
城は暗く、薄気味悪いです。
赤々と燃える松明でさえ、恐ろしいものに感じました。
崩れかけの階段を登り、最上階を目指しました。
最上階には、銀色の鱗を持つ、瞳の美しいドラゴンがいました。
その体躯は、王子が想像していたよりも小柄でした。
三メートル四方の箱に収まってしまいそうです。
ドラゴンを前に、王子は叫びました。
「さあ、悪のドラゴンめ。私がお前を退治してやる」
すると、ドラゴンは、大きな口を開け、器用に舌を動かしました。
「はて、私がいったい何をしたというのか。私は何百年もの間、ずっとこの城に引き籠っていた。この城は先代から譲り受けたもので、強奪をしたわけではない。私には部下がいない。つまり、城から出ていない私が、悪事をはたらけるはずがない」
「王は、お前の存在を憂いておられる」
「なら、今一度城へ戻り、王に理由を問いかけたまへ。私の納得する理由が聞けた場合、私は大人しくお前に退治されよう」
王子は困り果てました。
王子は帰城することにしました。
城に到着したのは夜遅くでした。
謁見は翌朝にしようと、王子は自分の部屋に向かいました。
すると、王様の部屋から光が零れていました。
なにやら、話声がきこえます。
「あの王子、本当にドラゴン退治に行きよったわ。ドラゴンがいなくなれば、城はわしのものになる。権威を強め、民を従わすことができる。王子がいなくなれば、邪魔ものが減って楽になる。どちらにしろ、よい方向へ転んだものだ」
王子は驚き、王様の部屋に入りました。
「それはまことですか、王よ」
「むう。きかれていたのか。王子よ、わしのためだ。親孝行と思い、ドラゴンを退治してほしい。もし失敗したとしても、丁重に弔おう」
「まことなのですね」
王子は悲しみのあまり、ドラゴンの心臓に刺すつもりであった剣を、王の腹に刺しました。
「憐れな王よ。父を殺した私は罪深い。ならば、私も共にここで死にましょう」
王子は自分の腹に、剣を立てました。
「ドラゴンよ。愚かな我らに許しを」