ちょっとはっきりしない関係性
『いやあ……未来ちゃんの言う通りだったわ』
ボクはお酒を呑んでいい気分で、未来ちゃんに電話した。
この頃のボクと彼女の関係は、気軽に電話できるぐらいの仲になっていた。
はっきり告白はしていないけど……なんとなしに付き合っている状態。
恋人ではないけど友達と言うにはちょっと距離が近すぎる……そんな間柄だった。
別にボクらの関係をはっきりさせようとは思わなかった。
好きか嫌いかで言えば好きなのだけど、じゃあウキウキしたような恋愛関係かと言われるとなんだかそれは違う感じがした。
ともかくボクにとって未来ちゃんはなんでも話せる相手で、ずっと話していても飽きない女性だったのだけど、彼女にとってボクはどうだったのかは分からない。ただ電話をしてもメールをしても別に嫌がるふうでもなくむしろ楽しそうだった。
伽耶ちゃんとは付き合っていたけど、楽しくなかったが、未来ちゃんとは付き合っていないのだけど、なんだかとても楽しかった。
月並みな言い方だが、変にはっきりさせようとして、今の関係が壊れてしまうのが一番嫌だった。
『でしょ。お姉さんの言うことは聞いとくものだよ』
『いや、お姉さんって未来ちゃん、ボクと一つしか変わらないじゃん』
伽耶ちゃんはボクよりいくつか年下だったが、未来ちゃんはボクの一つ上だった。
ただ童顔だった彼女は、年齢よりも若く見えた。
『簡単に人の言うこと信じちゃだめだよ』
『だよね。まさか、石田さんがボクがいないところで悪口言ってるなんて思わなかったよ』
『まあ、人って立場が変わると態度も変わることがあるからね。そういう時に人の本質が見えたりするんだよねえ』
『そうなんだろうけど……未来ちゃん、過去に何か嫌なことでもあったの?』
『そりゃあたしにだっていろいろあるわよ』
未来ちゃんはこの時、20代の後半。
1つ違いのボクも同世代なのだけど、女性には『いろいろある』というのはなんとなく今までの経験で分かった。
『あたしらぐらいの女子はさ。もういろいろとあるわけよ』
随分前に川野ヒロコさんという女性に言われた言葉がボクの頭に浮かんできた。
確か、彼女もあの時30代前半だった。
今はどうしているか分からないけど、女子にはいろいろあるのだろう。それは男子には分からないことなのかもしれない。
いや……
男子にだっていろいろある。
でも問題が単純すぎて、女子ほど深刻ではないような気がする。
もしかしたら……
いつかは未来ちゃんとの関係もはっきりさせないといけないのかもしれないな。
少し酔った頭でそんなことを思いつつ、電話の向こうから聴こえてくる彼女の声がなんだか心地よかったのを覚えている。