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その涙の理由は……

『その前に、話があるんだけど』

 彼女は言った。

 言う前から何を言うかは分かっていた。

『話? ああ、別れ話でしょ。いいよ。別れよう』

 ボクはおざなりに言った。


『阪ちゃんとは趣味が合わないんだよ』

『分かった。別にいいよ。ボクも社会人として当たり前のことができない人とは付き合えないと思ってたし……』

『どういうこと?!』

『それがどういうことか分からないところが問題なんだよ。まあ、もう別れるんだからいいでしょ』

『それって今度行く野球の話でしょ。それはこの話をしようかどうか迷っていたから……』

『別れ話と野球の話は別問題じゃん』

『こんな気持ち引きずりながら行くのは違うと思ったし、でも約束しちゃったし』

 電話の向こうで少し涙声になっている伽耶(かや)ちゃん。


 てゆうか……

 ずるい。

 泣かれたらこっちだって未練が残る。

 何も思ってない癖に涙声になるのは卑怯だ。


『嫌なら行かなきゃいいじゃん。それだけでしょ』

『だから別れ話はちゃんと会ってしようと思って……その……タイミングが……』

『タイミング? 野球のことの返事はボクらだけの話じゃないんだからタイミングとか関係なくまずは行くか行かないかだけ考えるべきだったんじゃないかな』

『でもこんな気持ちじゃ電話もできないし』

『てゆうか電話なんかかけてこなかったじゃん。よく言うよ』

『それでさ……野球なんだけど』

『来なくていいよ。てゆうか来ないで。じゃあね』

 ボクは話途中で電話を切った。

 腹が立つのが一番だったのだけど、これ以上、長々と話してまた本格的に泣かれてしまったら情に流されてしまうと思ったからだ。


 恋愛において好きの割合が低い相手から告白されて、でも付き合ってみようかな……という気持ちになるのは分かる。ボクだってそんなに好きではない女の子が好意を持ってくれて告白までしてくれたら『付き合おうかな』と思うからだ。


 それにそこまで好きではないからメールが億劫(おっくう)になる気持ちも分からんでもない。


 だけどボクが一番彼女に腹が立ったのは自分たち以外の人間がかかわっているイベントに対してまでも不誠実だったからだ。

 野球観戦にはボクが来る。

 恋人としての恋愛関係を続けるかどうか迷っており、そんな状態で参加できないというなら早めに『不参加』の返事をよこすべきだ。


 別にその場で別れ話をする必要はない。

『不参加』の返事をして、そのあと、自分の考えをまとめてから話をすればよいだけの話だ。


 好きだった彼女の悪口をいうのは気が引けるが、彼女の人間性は低かったと言わざる負えない。

 彼女はどこまでも自分のことしか考えていない精神性の幼い女性だった。


 今考えれば、海鮮のお店でネギトロ丼のネギをどけて食べている彼女を見たとき、それに気づくべきだった。

 恋は盲目とはよく言ったものだ。


 これは後になってなんとなく分かったことなのだけど……

 伽耶(かや)ちゃんはボク程度の奴から振られたという形をとりたくなかったのだろう。


 だからボクから別れ話を切り出したとき、あんなにも泣いたのである。

 最後の別れ話の時も自分から言い出したかったにもかかわらず、ボクに先に言われてしまった。

 だから涙声だったのだ。


 そこで自分が涙を見せたら相手に変な期待をさせてしまうとかそういうことは一切考えていない。


 そんなに好きでもないのに付き合ったのは『自分がモテる』ことを証明したかったのだ。

 彼女にとってはこちらの思いなどどうでもいい。

 自分のプライドと世間体を保つことができればそれで構わないのだろう。


 それがはっきり分かってしまった時、ボクの人生初の両思いはあっけなく終わってしまったのだった。

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