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うまく行ったのはダイエットだけだった……

 ダメなのは分かっているのに……

 ボクは完全に藤谷さんに恋してしまった。


 こうなると手に負えない。

 寝る時も起きる時も、仕事中だろうが釣りしている時だろうが……友人の多田くんや保田くんたちと会っている時も、ずっと藤谷さんの顔が頭から離れない。


 心のどこかで彼女には付き合っている人がいるんだからあきらめろ……と警告を発するのだが……


 やはり自分の気持ちに嘘はつけず、ボクの中にはフワフワした気持ちと鬱々(うつうつ)とした暗い気持ちが同居しており苦しくも楽しいというなんだかはっきりしない心持ちだった。


 そんな不安定な状態だったから、ボクはストイックになれた。

 好きな人とは一緒になれず……

 仕事も半人前。

 ボクという人物は果たして生きていく価値があるのだろうか。

 せめて自分で決めたダイエットぐらいは成功させたい。

 そんなふうに思って、好きなビールもあまり飲まないようにして節制していた。


 でも反面……ボクは心のどこかでダイエットに成功したら藤谷さんも振り返ってくれるのではないかとも思っていた。


 だからダイエットは順調に進んだ。

 ボクは80キロあった体重を食事制限で75キロまでにし、痩せることに成功したのだった。

 今ならダイエットなんか命の危険があると言われてもできないかもしれないことを考えると恋の力というのは偉大なものである。


 これで彼女はこちらに振り向いてくれる。


 ボクがそう思った矢先……

 仕事で失敗をしてしまった。

 この失敗は前述の退職につながるクレームだった。


 クレーム報告書を書いたのだが、黒石さんが謝りに行かなくてもいいと言ったので、中途半端な形で問題はそのままになり、ボクはまたその家に派遣されたのだ。

 どうにもおかしな話ではある。


 落ち込んでいたボクに藤谷さんは電話をくれた。

 ボクはドキドキしながら携帯を握りしめて電話に出た。

『もしもし……』

『あ、もしもし……阪上さんですか?』

『はい……』

『大丈夫ですか?』

『あ、はい。まあ……大丈夫です』

『そうですか……。なんか大変でしたね』

『ええ。ご迷惑かけてすみません。何か訪問していた時に言っていました?』

『はい……あの……『もう、あの男性ヘルパーは派遣しないでほしい』って』

『そうですか……仕方ないですね』

『いや、阪上さん。謝りに行きましょうよ』

『え? ああ……いや謝りに行くのは構わないんですけどね。黒石さんが行かなくて良いって……』

『そうなんですか? でも謝った方がいいと思うんですよね』

『確かにそうですよね』

『黒石さんが行かなくても良いって言っても一人で行っちゃえばいいじゃないですか』

『一人で……ですか? またクレームになりません?』

『でも謝らないと……』

 藤谷さんは電話の向こうでなんども『謝った方がいい』と言っていた。


 確かにクレームが来ているのだから謝った方がいいのは分かる。

 でも営業所の責任者が『行かなくていい』と言っているのだ。勝手な行動をとってまたクレームになったらもっと事態は悪化するだろう。


『あの……藤谷さん』

『はい……』

『謝るとして……まずは黒石さんを通してから行こうと思いますけど……お願いがあるんです』

『なんですか?』

『一緒に来てほしいんです』

『え?』

『藤谷さんがいてくれたら、しんどいことも乗り越えられそうだから』

『あ……はい……でもね。それって黒石さんと行った方が良くないですか?』


 藤谷さんの言っていることはその通りだ。

 確かに謝罪するなら営業所の責任ある人間と行くべきである。

 しかし……黒石さんは『行かなくていい』と言ったのだ。もし謝罪に行くことを許してくれたとしてもついて来てはくれないだろうと当時のボクは思ったのである。


 謝罪して……

 クレームのあった家がボクのことを許してくれたら、ボクはついて来てくれたお礼に藤谷さんを食事に誘おうと思っていた。

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