雉谷さん
中学生と言ってもつい昨日までは小学生だったわけで、こうやって振り返ってみると身体はいくら大きくなろうとも精神的には完全に子供である。
ただ子供と言っても小学校低学年の頃よりは大人に近くなってきており、彼らもそれなりにいろんなことを考えながら日々過ごしているので、子供ではあるもののそんなに子供扱いもできないという事実もある。
恋愛に関して言えば言うまでもなく中学生はまだ子供である。
そもそも異性を意識しだすのは小学校高学年から中学ぐらいであるから、気になる異性はいてもうまく話ができなかったり、逆に気にはなっておらず友人の一人として仲良くしていた異性のことを他の同性の友人からバカにされたり冷やかされたり……ということを少なからず経験するそんな時期ではないだろうか。
例外なくボクにもそんな時があった。
中学生になったボクの毎日は実につまらないものだった。
自分の好きな趣味は辞めて周りに合わせるようにしたら、周りは自分のことをバカにしなくなったのだけど、その代わり好きでもないことに興味のあるふりをしなければいけないのは実につまらなかった。
読んでいる漫画もコロコロからジャンプにしたし、好きなアニメを見るのは辞めて無理にドラマを見たりしていた。
ジャンプは面白かったし、ドラマもそれなりに面白かったので自分を広げる意味では良かったのかもしれないけど、別に今まで好きだったものを無理に辞めることはなかったな……と今になって後悔している。
当時のボクは……
何か……
子供っぽいと言われない趣味の一つが欲しかった。
ただそんな趣味とも出会えずに悶々と過ごす日々が続き、気が付けば中学1年も進級の時期を迎えようとしていた。
『テスト、どうだった?』
冬休みの休み明けに席替えをし、ボクの隣には以前とは違う女子が座っていた。
今なら隣が女子なら誰であろうとちょっと嬉しいのだけど、この時はなんとも思わなかった。
『いやあ……ダメだったよ』
『あたしも……』
隣に座っている彼女は雉谷さんという名前だった。
彼女は少し長めの髪の毛を二つにまとめて、いつもツインテールしていた。
中学に入れば多くの友人が部活動に励むようになるのだけど、彼女は身体を動かすことがそんなに好きではないのか……体育会系の部活動には所属していなかった。
ボクの通っていた中学は、部活動のその大半が体育会系のものだったので、帰宅部となるか、それとも数少ない文化系の部活に所属するかのどちらかで、ボク自身は美術部に属していた。
思い出補正というものもあるので、けっこう美化されているとは思うがそれでも彼女は可愛らしい女の子だったと記憶している。
どこをどう……と問われると記憶が定かではないのだけど、彼女の人懐こい性格がとても印象的だった。