酒乱
『なんかすみません』
いろいろ説明するのも面倒なのでボクはイズミちゃんにそう言った。
イズミちゃんは入社当初、ボクのことを褒めてくれたことに対する裏返しなのか……裏切られたという思いがあったのか……ずっとボクに絡んできた。
『そうだぞ。みんな心配していたんだぞ』
黒石さんが横から勝手なことを言ってきた。
彼の言葉にその場にいた川野さん以外のメンバーはみんな首を縦に振っていた。
何を心配しているのだろうか。
勝手なものである。
結局、彼らは人の恋の話をネタにしたいだけなのだ。しかもそこに『正論』という武器をつけて攻撃してなぶって楽しんでいるのだ。
大きなお世話とはこのことだ。
心配してくれるのなら可愛い女の子の一人でも紹介してもらいたいものだ。
だけどそんなことは一切してくれない。
彼らは人のそういう色恋沙汰を話題にしたいだけなのだ。
しかも自分たちが主役でないそういう話は彼らにとっては『悪』なのだ。彼らの主張に『正しさ』はあっても『優しさ』はまったくない。
『はあ……すみません』
もう本当にめんどくさくなってボクは目の前のビールを飲み干して吐き出すように謝った。
『あ――あ……あのね――――。あ、あ、あたしはね』
もう呂律も回っていない。
てゆうか相変わらず顔が近い。
いや、近いって。
やめて……。
てゆうかやっぱり近くで見るとちょっと可愛いし、なんかいい匂いがする。
『いや……近いですって……』
『なに――――。そんなにあたしのことが嫌なのか?!』
『違いますって。そうじゃなくて……』
『そこに座りなさい』
『いや、座ってますよ』
『あのね。あたしはね。阪上くんはね……う……わ……あのね』
今度は泣き出すイズミちゃん。
『え……と……。黒石さん……』
ボクは助けを求めて黒石さんを見たが、あろうことか散々煽っていたくせに彼はボクと目線を合わせず、見ないふりをしていた。
『あたじはね……阪上くんのことが……』
いや。
好きとか言われても困る。
あんた、旦那も可愛い子供もいるんでしょ。
『もっとさ。その……純粋な子かと思ってた』
なんだ……。
ちょっとほっとしたけど、少し残念な気持ちなのは少し意外だった。
てゆうか……
イズミちゃんは結婚もしていて子供もいるんだから十分幸せではないか。
それなのに、自分があまり好きではない女性をボクが好きになったからと言って、そんなふうに言われても困る。
恋愛感情ではないとしても彼女にそんな感情をもたれること事態、ボクからしてみれば『ほっといてくれ』と言う感じだった。