表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/79

パンダさんの忠告

 女子は……

 良くも悪くも恋の話が好き……

 

 仙波さんと奈雲さんの話が問題になったのはイズミちゃんが入って間もない頃だった。

 介護の世界というのは職員が圧倒的に女性の方が多い。

 社内恋愛なんぞしようものならすぐにバレるし、噂にもなる。

 まあ……仙波さんたちの場合はバレるようなことをしていたから悪いということもあるのだけど。


『利用者さんのお宅でアイスをいただいたのよ』

 ヘルパーの下橋さんはファミリーレストランでランチしている時に言った。

『ちょっとそっちも食べてみたいから一口ちょうだいってやってるわけ』

 詳しいことは書くのを差し控えるが、彼女は昔、演劇をやっていたのでこういう話をさせると非常にうまい。

『ええ――――。やだ――』

『でしょ。仙波さんの車に乗ると終始そんな感じよ』

『それは最悪……』

『付き合うのとかは自由だけど利用者さんの前では辞めてほしいわよねえ』


 恋愛の話と言っても……

 彼女らがするのはそんなにいい話でもない。

 ただ悪口が言いたいだけなのかもしれない。問題は本人たちにその自覚がないところだ。


 人の色恋の話なんか自分には関係ないのだから良いではないか。


 冷静に考えるとそう思うのだけど、それを冷静に考えることができないからこういう悪口は絶えないし、人間関係の問題というのも永遠に続くのである。


 人の色恋を話したがる傾向はほとんどすべての人にあるのかもしれない。

 というのも恋愛を扱ったドラマや映画は流行るからだ。

 しかも最近では恋愛ドキュメンタリーなどというものまで存在する。

 これらのものは見るものがまるで自分が恋愛しているかのように錯覚して楽しむことができるものである。


 こうやって考えると、悪口でなくても恋愛の話がいかに盛り上がるかがよく分かる。


 ましてこの時の色恋沙汰はただの恋愛話ではない。

 職場での色恋であり、しかも『利用者に迷惑がかかっている』という大義名分まである。

 こんな話に食いつかない人がいるだろうか。


 まあ……いたのだけど……。


『あんまりみんなと一緒になって所長や奈雲さんのことは言わない方がいいよ』

『そうですね……。まあ、そうなんですけど、みんなが言っていることも正しい部分もあるから……』

 ある日、たまたま帰りが一緒になった時にパンダさんはボクにそう言ってくれた。


『そうなのよねえ……。でもね、阪上くんはあまり話さずに正しいと思うところだけ『そうですね』って言っとけばいいと思う』


 大好きなパンダさんに言われたのでボクはそれを肝に銘じて行動することにした。

 だから、余分なトラブルに巻き込まれることはなかった。

 後で考えると本当にありがたい話だった。


『そういえば……阪上くんは彼女作りたいとか思わないの?』

 いつものようにファミリーレストランで食事をしている時に、イズミちゃんが言った。

 一緒に仕事していた川野さんはニヤニヤしながらボクを見ている。

『イズミちゃん、阪ちゃんはね。好きな人がいるの』

『え? 何言ってるんですか?! へ、変なこと言わないでくださいよ』

 とか言いながらもこういう風に年上の女性からからかわれるのは嫌ではなかった。

『え!! だーれ??』


 イズミちゃんは顔を近づけてきて言った。

 近いって……。

 てゆうか……この人、近眼だから顔近づけてくるのかな?


 そんな関係ないことを思いながらもボクは『いや……職場にはいませんよ』と言った。

 実際、イズミちゃんが入社したばかりの頃は、代々木さんはまだ入社していなかったので、これを聞かれた時点では好きな人はいなかった。

 いや……好きな人はいたけど好きになることはできなかったのである。


 川野さんはにやにやしていたけど、一応、何も言わないでいてくれた。


 まあ……

 この頃のボクと言えば、色恋沙汰とは無縁だった。

 パンダさんは既婚者で憧れの女性(ひと)ではあったけど、恋愛の対象からは外そうとボクは思っていたし、アヤコちゃんやアズーとは仲が良くても、彼女になるというのはちょっと……という感じだった。


『阪ちゃんはさ。年上の女性(ひと)がいいよ』


 そんなことをアヤコちゃんから言われた記憶がある。

 こんなことをボクに言うぐらいなのだから、年下だった彼女は、ボクのことは『彼氏にはちょっと……』と思っていたのだろう。そこはお互い様なので別になんとも思わないが……。


 仙波さんと奈雲さんが会社と去って……

 代々木さんがやってきた。


 一難去ってまた一難。

 うちの会社にトラブルの元がやってきたのである。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ