癖強め
今まで出会った人の中でもイズミちゃんほど個性的な女性はいなかった。
『なんか新しく入ってきたナースさん……なんか……』
川野ヒロコさんはイズミちゃんが入社してきたばかりの時にそんなことを言っていた。
確かに彼女は、リアクションから話し方、考え方、そのすべてにおいて個性的だった。
彼女の本名は北方イズミさん。
少し度のきつい眼鏡をしており、アニメに出てきそうなオタク女子のような外見だった。
彼女が入社してきたのは、ボクが訪問入浴を始めて1年ほど経過した、介護保険が始まる直前のこと。
ボクの仕事ぶりをやたらと褒めてくれた。
この1年間、怒られることにビクビクすることはあっても、手ばなしで褒められたことなど少なかったから、それがすごく嬉しかった。
なんとなく自分の仕事が認められた気がしたのだ。
でも、今考えるとそれは違ったのかもしれない。
うちのかみさんが以前、施設勤務で、一回りぐらい年下の若い男の子を『若いのにしっかりしてるし、がんばっている』とよく褒めていた。
ボク自身もかみさんの話を聞く限りは、その彼はすごくできる子だなあ……と思う。
ただ、それは『その若さでよくがんばっている』ということであって、完璧な仕事をしているということではない。若い内は経験が必要とされるような仕事では甘さが出ることは当然のことだし、そういった意味では素材は良くてもまだまだ荒削りなのである。
もちろん完璧な仕事なんてボクも未だにできないし、今後も無理だと思うが……10数年前に比べたら、それなりに経験も積み、いい仕事ができるようにはなったなあ、と思っている。
大抵、若い子を褒める時には、荒削りではあって甘さもあるけども、今後経験を積めば、いい感じで成長するよ……という意味で褒めているのである。
イズミちゃんに褒められたボクはそんなことも分からずに、自分の仕事は完璧だとうぬぼれていたわけである。
『なんかありました?』
退勤後、帰りが同じ道だった川野さんとボクは横須賀線の車内で話をした。
『いや……その、何もないんだけどさ。そのリアクションがすごいなって』
『ああ、確かに。個性的ですよね』
『そうそう! それ! 個性的。いやあ……変わってるわ……』
川野さんはそんなことを言っていた。
特に彼女は悪口を言っていたわけではない。
ただイズミちゃんの個性に圧倒されていただけだろう。
それにしても……
確かにイズミちゃんは個性の塊だが……
Tの筆記体をJと読み間違えて『ただし』さんを『じゃだし』さんと言ってしまうような個性の強い川野さんには言われたくないだろう。
ちなみにイズミちゃんは年齢的には川野さんと変わらない。
川野さん、イズミちゃん、パンダさん、代々木さんと同年代のナースが集まったのはなぜなのか……ボクにはよく分からないけど、おそらくは家庭を持っている人が多かったから、理由としては家庭と仕事の両立を考えた時に夜勤のある病院で働くよりは訪問入浴のような仕事の方が昼間で仕事が完結できるから助かるということもあったのだろう。
また、独身だった川野さんはのんびりした性格だったから、病院でガンガン仕事するようなタイプには見えなかった。
代々木さんは……謎だったけど、この中では彼女が一番早く辞めてしまったので、彼女の場合は川野さんとは逆でガンガン仕事している方が向いていたのだろう。
ちなみにボクはイズミちゃんみたいな女性が好きだ。
好きと言っても恋愛の対象ではなく友人の一人として好きという意味である。
だから彼女と仕事するのは楽しかった。