やりがい
『こんにちは!! 天気よくなって良かったですね――!!』
ボクはあれから利用者の家でも愛想よく話をするように心がけた。
何か話題を考えて話をすれば、一緒に回っているヘルパーと看護師は話を膨らませてくれた。
お風呂に浸かりながら、笑顔でなごむ利用者とそれを見て笑顔で話をする家族を見ていると、ボクは初めて仕事をしていてよかったと思った。
つまり……やりがいを感じるようになったのである。
仙波さんに退職することを止められて……
ボクは自分ができていないことを考えた。
作業自体はちゃんとやっているのだ。
何がいけないか……
やはりコミュニケーションの部分ではないだろうか。
確かに自分も……過去にやった仕事の中では無口で何も言わない人と仕事をするのは嫌だったはずだ。
それは看護師やヘルパーも同じなのだ。
しかも相手は女性である。
余計にそういうコミュニケーションは必要なのではないか。
そう思って、自分のできる範囲でなんとか会話をするように心がけたのである。
そもそもボクは人見知りはするのだけど、無口な人間ではない。
初めましての人間にどんなことを話していいかが分からないから無口になっていたのである。
話題など……適当に自分が今話したいことを投げてみればいいのだ。
もちろんそれは万人受けするものでないといけない。
こういう会話作りというものはやってみるとそんなに難しくなかった。
そして仕事でのコミュニケーションが変わってくると、周りの反応も変わってきた。
勝手なものである。
ただ、あいつはああいうやつだというレッテルを貼られていつまでも悪口を言われるよりははるかにマシではあるが……。
最初は悪口を言い、きつい口調で攻撃してきたアズーは、ボクが変わると、態度を変えてきた。
そもそもきつい口調で攻撃してきたといえど、それはあくまで仕事の中での話であり、しかもボク自身も悪い点があったのだから仕方のない話で、逆に言えば自分が態度を変えてこの美人と仲良くできるようになったことをボクは嬉しく思っていた。
仕事のやりがいを感じるようになると……
今まで嫌々やっていた仕事が、誇りと向上心を持って行えるようになる。
ボクが紆余曲折あって身に着けたものを最初から持っていたアズーとは、そういう意味では仲良くなれるものがあったのかもしれない。
彼女とはなんでも言える仲になってきた。
ただ……恋愛感情はお互いになかった……というのは嘘なのかもしれない。
あの時の感情は上手く言えない。
好きと言うのとはちょっと違う。
でもまったく意識していないかと言えばそれも嘘になる。
プライベートでどこかに行くと言うことは二人きりではなかったし、二人でどこかに行こうとも思わなかった。仕事の話ではいろんな話ができるのだけど、他の話ではなんとなく盛り上がらない感じがしたからだ。
『あたし……仕事辞めようと思うんだ……』
アズーがそう言いだしたのはクリスマスが近い12月の頃だった。