喧嘩しちゃいますっ!!
零は今、教室の前に立ち、大勢の生徒の注目を浴びていた。
ちっ・・・。何だよ、男ばっかじゃねぇか・・・。んで、それよりも、かえでかえでぇ~っと・・・。
零は、周りを見渡す。さすがに少し自己紹介が遅かったせいか、横で先生が耳打ちをする。
「えっと、零くんだっけ?・・・早く自己紹介しなさい・・・」
っと、そうだった。んで、初めが肝心なんだよな、かえで。
零は、真っすぐ前を向いて、はきはきとした口調で言った。
「櫻庭零といいます。正直、あなたたちのようなゴミに興味は一切ありませんし、関わる気もありませんし、近くによるだけで、吐き気がします―――」
そう、はきはきととても良い声で、本音を暴露する。
そして、さわやかな笑顔で零は言い放った。
「――よろしく、みなさんっ♪」
と・・・。
教室中が唖然とする。それはもう、誰も声を発してはいけないようなゲームに匹敵するくらいだった。
先生ですら、目を大きく開き、言葉を失っていた。
・・・どうしたんだ。・・・石化の魔術でも使ったのか・・・。
「先生・・・?」
零は、横で立っている先生に話しかける。
うっわ、何こいつ、キモっ。なに、目を大きくあけて石化してんだよ・・・。これだから男っていうのは・・・。まぁ、かくいう俺も男なんだけどな・・・。
「あ、あぁ・・・。席は――」
転校生の席は後ろと相場が決まっている。誰だって分かるだろう。だが――
それでは、かえでとは遠いじゃねぇかよ・・・空気読めよ、同じ名字でしょうが。
零は先生の耳元でつぶやいた。
「俺、かえでさんの隣がいいなぁ~・・・」
「な、何言ってるんだい、そんなこと――」
「隣がいいって言ってんだろ、聞き入れろやこのゴミっ!」
「・・・真田くん、席を譲ってあげなさい」
真田と呼ばれた生徒がその場を立って、講義をする。
「どうして僕なんですかっ!?・・・折角、かえでさんの隣になれたのに・・・!!」
かえでの隣は俺なんじゃこのさわやか系肉弾戦車っ。本当はその肉塊でかえでを襲うつもりだったんだろっ。
ギンっ、とでも言いそうな眼光で真田を見つめる。
「・・・分かりました・・・」
ふっ・・・。力ってやっぱり凄いっ。あの三つの国と大都市が使いたくなるのはよく分かったよ。
勝ち誇ったような笑みで零はその場所へと歩いて行く。
数人の男子生徒からにらまれたが、零は気にしてはいなかった。
なぜなら、後数メートルで女神さまに会えるのだから・・・。
「・・・隣、座りますねっ♪」
零は、かえでに笑顔を振り向ける。だが――
「・・・ふんっ」
びしっっ。
気のせいかな、俺の見える世界にひび割れが入ったような・・・。
「そうやって、力ずくで奪う人は・・・嫌いですっ」
びしびしっっ・・・。
零の頭の中では、『嫌いです』『嫌いです』『嫌いです』と同じ単語ばかりリピートしていた。
う、嘘だろ・・・。そんなこと、ないよな。かえでは、優しくて、俺にメロメロなんだよな・・・。
だが、その言葉は嘘ではなく、俺が話しかける度、無視無視無視だった。
零の姿は、しつこいナンパ野郎に見えたに違いない・・・。
やがて下校の時間となる。零が話しかけようとした瞬間――
「いない・・・。何故だ、かえでぇ~・・・」
零は、トボトボと窓越しに生徒を眺める。
はぁ~・・・。ここの生徒は多いが、校舎はほんっとでかいな・・・。
7年前も変わらない。この大きさは、俺の記憶の断片と重なった。
「・・・かえでは、俺のこと、覚えてるよな・・・?もしかして、忘れてるのか?」
突然零は不安になる。それは、昔のかえでの記憶のことだった。
かえでは、幼いころの記憶がない。零が孤児院に居た時、先生の一人が泣いているかえでを連れてきたことを鮮明に覚えている。
俺たちの仲間入りをした時は、随分と怖がっていたっけ・・・。そんで、俺が率先して声をかけ続けた挙句、俺にだけ懐いちゃって終いには「零お兄ちゃんが貰われるなら、私も貰われる」なんて言っちゃって・・・。
でも、結局生活していても記憶は戻らなかった。もしかしたら、それは定期的に出る記憶現象なのかも知れない・・・それが、発症しちゃって零という存在すら、覚えていないのかも知れない・・・。
そう考えると、零は急にさみしくなって、つらくなって・・・少し、義理父に着いて行ったことを後悔していた。
その時――
「・・・かえでっ!」
下校途中の生徒たちの中にかえでとその友達が数人、歩いていた。その表情は、とても楽しそうで、幸せそうだった。
「まっ、考えても・・・しょうがないってのっ!!」
自分に勇気を与えるように、語りかける。
っし、行くぞ、俺はかえでが振り向いてくれるまで、話しかけるんだっ。
今度こそ、そう呟きながら、零は教室を出て行った。
「か~えでさんっ♪一緒に帰ろうぜぃっ」
零は、かえでに追いつき、声をかけていた。
「かえで・・・どうするのさ。此処までしつこいのは、始めてだよ・・・」
「ふんっ」
「・・・アレ?こんな反応をするかえでも初めてなんだけど・・・」
零の方はというと――
「あぁ~・・・俺今すっげ~死にたい・・・」
メンタル面で死んでいた。
でも、めげないっ。お兄ちゃん、めげないんだぞっ。
零は、心の中で繰り返しつぶやくと、かなでの近くに――
「おい、零とやら」
突然声をかけられた。それも、零の嫌いな男の声で。
「・・・何か用?」
零は軽くあしらう。それは相手も見ずにやったぐらいで・・・。
「それ以上櫻庭に近づくと、俺が容赦しねぇ・・・」
「ちょ、大機っ。こんなところで喧嘩なんて――」
「男にゃあ~譲れねぇもんがあるんだよ・・・」
ごめん少年、俺も櫻庭なんですけど・・・。因みに、俺の譲れないもんはかえでだけなんですよ。
零は、勘弁してくれよ、とボソと呟きながら少年の方を向く。
っと、これはこれは・・・誰かと思いきや・・・。
「血祭りにあげたい男だったとはね・・・」
「あ?意味わかんねぇよ・・・。っていうか、もう一度言う、それ以上櫻庭に近づくな。これは、警告じゃねぇ、『命令』だっ!!」
「やばっ・・・。大機なだけに『本気』だよっ」
「加也・・・『き』しか合ってねぇから・・・」
「五月蠅い、これは持ちネタなんだからっ」
なんだこいつら・・・。夫婦漫才かってんだ・・・。
「やってらんないよ・・・。悪いけど、かえでに用があるんで」
じゃ、といって零は手を上げる。
「・・・聞き分けが悪い子は、ちと仕置きが必要だな・・・」
その時、零は感じた。背後で、いきなり大きくなる魔力、それは決してBランクとは言えないものを・・・。
へぇ~・・・。ちょっとはやるみたいじゃん・・・。
ポキポキと指を鳴らす大機。そして、魔術師同士の戦いが幕を開くための言葉を、冷たく言い放った。
「・・・『魔術兵装』・・・」
突如、赤い何かが大機の身体を纏う。
「・・・目に見える程の増大させた魔力・・・それが、あの赤いなにかの正体か・・・」
「ゲームのナレーションどーもぉっ!!今から、お前をちょっとばかし痛めつける。・・・歯ぁ食い縛っとけぇっ!!!」
侮っていたな・・・。こんなにも、魔力が強いやつがこの学校にいるとは・・・。
零は、身を構え、魔力の大きさによって吹き荒れる風、そして飛んでくる小石などから顔を防ぎながら、大機の様子をうかがっていた。
大機は、両手を合わせ、地面に向ける、すると――
「我鎮静ヲ求。其ノ五〇〇・・・全テヲ破砕セヨッ!!!」
突然、手を向けた地面が大機の身体ごと沈下した。沈下していない所には若干ひび割れも起き、それだけで、かなりの魔力が練られているということが分かった。
ちっ・・・。よりによって、『直接魔術』かよ・・・やりにくい。
「一瞬で片づける・・・」
「俺はおもちゃじゃねぇ~よ・・・」
大機は一度、身体を沈める。沈下した地面のせいで身体が全て隠れたと思ったら――
「おぉぉぉっ!!!!!」
人間とは思えないほどの速さで零に向かって殴りかかっていた――・・・。
バトルシーンを初めて入れましたが・・・下手、とか改善した方がいいとか、なんでもアドバイスを下さい。