転入生来ますっ!! ☆
かえでは、席に座りながら、晴天という青空を眺め、はぁ、とため息をこぼした。
「か~えでっ♪ど~しったの♪」
「ひゃうっ!?・・・もぉ~また加也ちゃんでしょ~・・・」
「あははっ正解っ。・・・それよりもさ、どうしたの?外なんか眺めて」
そんなことしてたのかな、私・・・。
かえでは、そんなことしていないよ、とでもいうように、首を横に傾げる。
「なになに、無意識のうちにため息なんて吐いちゃって・・・。もしかして、春が来ちゃったとかぁ~?」
「そ、そんなことないよぉ~・・・。だ、だからさっきも言ったように、私にはまだ恋なんて――」
と、そこで、かえでの声はドアを開ける音によって消される。
あれ・・・次の教科って、あの先生じゃないような・・・。
かえでは、またしても首を傾げる。
「ありゃ?なんなんだ、一体・・・。次の教科ってあの先生じゃないよね・・・」
加也がかえでの気持ちを代弁したかのように、リンクする。
「って、なんで笑ってるのさ、かえでぇ~」
「だ、だって、私の思っていることと、加也ちゃんが思っていること同じだったんだもんっ」
「・・・。ったく、可愛いなぁ~こいつぁ~」
そう言って、加也がかえでの頭をグシャグシャとかき混ぜる。
「ひゃんっ。・・・やめてよぉ、せっかくセットしたのに・・・」
うぅぅ、と涙目になって唸るかえで。その姿は、とてつもなく可愛く、そこに居た男子生徒の心を半分以上射止めた程だった。
そんなことも知らず、かえでは、グシャグシャになった髪を綺麗にまたセットしなおして――
「むぅっ・・・。加也ちゃんの・・・バカっ」
わざとらしくかえでは頬をぷー、と膨らませる。
その頬を加也は「ツンツンッ♪」と呟きながら突っつく。
「あぅ・・・。ちょっとくすぐった・・・」
「じゃあ~も~っとやっちゃおっと♪」
そう言って加也は、頬ではなく、かえでの脇をいじくる。いわゆる「こちょこちょ」という代物だ。
「そ、それだけは、やめてぇ、加也ちゃんっ。私がそれ弱いこと知ってるでしょっ」
「ふふふ・・・堪忍し~やぁ~・・・」
加也が黒いオーラをまとった笑みでかえでに近づいて行く。その時――
「こら、加也。いつまでそうしている・・・。席に着け」
「・・・ちぇっ。今から良い所だってのにさ~」
かえでは、この時ばかりは、先生を神様だと崇めた。
ありがとー先生・・・。私、きっとだらしなくなっちゃうから・・・。
「・・・よし。みんな席に着いたと・・・」
先生は、一度クラスを見回すと、次に名簿を確認する。
どうしてだろ・・・。今、確認済んだなら、名簿なんて見ることないのに・・・。
「ぇっと・・・じゃあ、遠山っ!机と椅子、セットで一つ持ってこい」
「どうして俺が――」
「このクラスの委員長なんだろ?・・・ほら、さっさと行くっ!」
遠山と呼ばれた男子生徒はダルそうに「はぁ~い」と呟いて、教室を出ていく。
「あのぉー、誰か来客が来るんですか?」
あ、加也ちゃんだっ・・・。やっぱり、率先して質問するなんて、すごいなぁ~・・・。
かえでは、立って質問をしている親友加也を尊敬のまなざしで見つめていた。
「・・・来客、とはまた違うな・・・。っと、遠山、御苦労さん。そこらへんに置いておいてくれ」
先生は一番後ろの窓側を指さし、遠山はそこへ丁寧に置く。さすが委員長という所で、前の席に合わせちゃんと綺麗に置いた。
「・・・よし、これでまた全員そろったな・・・。突然で悪いな・・・実はこのクラスに転入生が来た」
先生が唐突かつ端的に言い放つ。当然、生徒たちは唖然とする訳で。
そしてかえでもその中の一人だった。
転入生・・・でも、どうしてこんな中途半端な時間に・・・。
ついさっき2時間目が終わった時刻だ。普通は、朝の時間にくる訳だから、こんな疑問を抱いてもしょうがない。
「ん、んんっ・・・。えぇ~、朝には間にあわなかったらしく、今来たばかり、とのこと」
何回か咳払いをして、言葉をつなげる。
遠くから見ていても、どこかあせっている感じだった。
「・・・で、では入ってきてもらう・・・」
そう言うと同時に、前のドアが開く。そして、そこからゆっくりと歩いてきた生徒を見て、かえでは絶句した。
なぜなら、それは昔、離れてもう会えないと思っていた初恋の人――
「はじめまして・・・えっと、かたっ苦しいのは嫌いなんで、名前だけ」
そういって、男子生徒は黒板に名前を書いていく。
「櫻庭零、と言います――」
――兄の姿があったからだった・・・。