裏切り者しますっ!?
もしも外に聞かれたら、ただ事ではない。それくらいは知っている。だが、零はあえて、怒声混じり声で言い放った。
「・・・確かに、現状ではそれが一番いい方法だと、思いますが」
「俺の予想では、アルバーン、エンゲル、ジェリングの3つの内のどれかが、グランダを干渉している。・・・戦争に持って行こうって訳だ」
「確かに・・・その可能性は無い、とは言えませんね・・・。ですが、我らの中心人物がそんな簡単に加盟するとは思えません」
「そういう信頼はいいと思う。だが、逆にその決断が仇となることがある・・・そうだろ?」
理事長は、コクリと静かに頷く。
そう、それは、加盟を断り続けた時、相手側がどう出るか・・・。それが心配だ。
この大都市は今、最も発展している都市。故に、力を欲し、世界を取ろうなんざ馬鹿げていることを考えている連中にとっては、グランダはこれ以上にない大きな戦力とかす。
つまり、拒否し続けた場合、相手側が、強行手段に出るかもしれない、ということだ。
「失敗し、相手の機嫌を損ねた場合でも・・・。この大都市は戦場と化すでしょうね」
「あぁ・・・。手っ取り早い話、今交渉をしているであろう人物を、殺せば済むこと。理由はなんでもいい、病死、寿命、自殺、暗殺・・・ってな」
「ですが、それではまた中心人物を変えた時、干渉をされるのでは・・・?」
「い~や。今現時点でのグランダは危険視されている。つまり、裏返せばこの中心人物が危険視されていると同じ意味だ。・・・代表を変えちまえば、連合軍などの助けを借りることも可能だ」
ただしそれは――
「ただの憶測にすぎませんね・・・」
――そう、ただの憶測だ。こうなれば良い、という甘い考えなのだ。
「分かっている・・・。でも、可能性は無いわけじゃないんだ。かけてみるっていうのも、ありだと思うが・・・?」
0と1ではかなり違う。例え、1割の確率だったとしても、それは成功するということなのだから。
零は、理事長の判断を待った。別にこの人が、どう言おうが、どう感じようが俺には関係ないのだが、昔お世話になった、という名目で意見を聞いている。
「・・・少し、待ってみてはいかがでしょうか?」
「それなりの策は思い浮かんだのか?」
「逆です。『策』がないからこそ、今はまだ落ち着いて現状把握、それに因んだ策を考えて行けばいいかと」
確かに、それは最もな意見だ。早合点しすぎて、失敗とも成れば、ごめんで済まない。それどころか、この大都市が世界を敵に回すかも知れないのだ。
だが・・・かえでが・・・っ。俺のかえでの命がかかっているんだっ。
「・・・そんなかえでのことが心配なのですか?」
「当り前だっ!!俺の、妹、女神、アイドル、妻、嫁、娘、萌えキャラなんだっ!!」
「突っ込み要素満載ですが、今はそっとしておきます」
「ふっ・・・。あんたみたいな、しわだらけのお婆さんにはわかんねぇさ。妹の可愛さわ・・・」
「ぬっ殺しましょうか?」
「・・・ごめんなさい。ぬっ殺すってなんか、殺すって単語より微妙に嫌だからごめんなさい・・・」
「・・・変わっていませんね」
「あんたは老けたな。とっても・・・」
「やっぱり、生かせておけませんね。あんたみたいなハゲ」
「ハゲてねぇよ。っていうか、ハゲって微妙に傷つくからやめて・・・!」
零は頭に生えているフサフサの髪をいじりながら、理事長に背を向ける。
話も終わったし、後は・・・俺の萌えキャラヒロインの妹の教室に転入するのみっ。
「零・・・あなたみたいな人が此処に居たら・・・不便でしょ?」
「力を存分に使えないってか?・・・バカいえ、感動の妹との再会は兄がめっさ強くなってることが相場で決まってるだろ?」
「そのためだけに、強くなった?」
「俺は戦場に居たんだぞ?・・・無理矢理でも強くなんなきゃ生きていけなかったのさ。まぁ、ちょっと妹に『カッコイイ』て言われたかったってことも、無いと言えばうそになる」
「・・・それは、何割くらい占めていますか?」
「8割くら――」
「ほとんど私欲のためだけに戦場に行ったのですね・・・」
「いいじゃねぇかっ!!妹に『お兄ちゃんすごーいっ』って言われたったのっ!だって、全国のお兄ちゃんの夢だよっ!!」
「全国の兄にそれを言えますか?」
「ごめんなさい。たぶん無理です」
「はぁ~」とため息が聞こえた。零は、やっぱり変わらねぇよ、そう思いながら、ドアノブを回しそして――
「最後に一つ・・・」
胸に手を差し込み、先ほどとは違うペンダントを見せる。
「――あなたそれはっ!?・・・なるほど、本当ならば、今殺さなければいけないのは・・・零、あなただったのですね」
「・・・物騒なこと言うなよ。俺は、この大都市に来て、あんたに話した時点で、未来は2つにわかれちゃったんだよ」
ま、どの道を選んでも、俺の肩書が『裏切り者』に成ることは、代わりないんだけどな・・・。
零は、振り向きはせず、事務室へ向かった。妹、かえでのクラス&隣の席を確保のために――・・・。