戦争勃発・・・しそうですっ!!
さすがに、登校時間内に私服で校内をうろつくのは危険だ。そのくらいは分かっている。
だが――
「かえで、俺はお前が心配だ・・・。実は男が居たりとか、そう言うオチ、やめてくれよ・・・?」
祈るように零は気付かれない程度でかえでを尾行する。
その際、当然他の生徒に気づかれる訳で。
「やだ・・・何アレこわ~い・・・」「先生、呼んできた方がいいんじゃね?」など、いろいろ愚痴を言われる。
ったく、いちいち五月蠅いやつらだ。あ、ちなみに、『五月蠅い』の漢字って5月のハエがとくにやかましいから、当てられた当て字らしい。
「っと、今はそれどころじゃねぇ・・・」
零がかえでの方向を向くと――
あれ・・・。さっき居た女友達と、血祭りにあげたる対象が、いなくなってる。
そして代わりに居たのは、かなりの美形で、いかにもモテそうな男の子だった。
も、もしかして・・・。もしかしてもしかすると――
「ほんもんの彼氏・・・なのかっ!?いや、違うな、うん。お兄ちゃんは信じるぞ。若干こめかみがピクピクしているけど、気にしないでくれ?」
どこに向かって話しているのか分からないが、零は取り合えず神に話しかけていた。
神様、神様・・・。お願いです、かえでに近づく俺以外の男を排除してくださいっ。
「・・・あ、あなたは、僕の運命の人ですっ!!・・・つ、付き合って下さいっ!!」
「・・・は?」
もしかして、今のって告白なのか・・・。ってことは、かえでは誰とも付き合っては――
「ごめんね・・・。その、私・・・」
「そう、ですか・・・。えっと、理由を聞かせてもらっても、良いですか?」
「り、理由・・・?」
「はい・・・。なんでも良いんです。その・・・罵倒とかでも・・・。そうでないと、僕あきらめがつきそうになくて・・・」
諦めろ、かえでは、俺にメロメロなんだ・・・。
零は、心でその少年を「負け組」と罵倒し続けた。
「実は・・・その、好きな人が――」
な、な、な――
「なんですとーーーっ!?」
嘘だっ。嘘だ嘘だ嘘だ・・・。
きっと聞き間違いなんだ。うん、そうだ。かえでが、あのかえでが――
「――居るんです・・・」
「それは、僕には到底追いつけない人・・・なんですか?」
「はい・・・。その、ドジでバカで、その癖、人の上ばっかりを見て、時々妄想が激しくて、1人で突っ切っちゃって、間違えて・・・」
「・・・えっと・・・」
「――でもっ。でも、やる時はやる人で、それでいて逞しくて、私を・・・見守ってくれて・・・。さみしい時とかも、一緒に居てくれた・・・。そんな人・・・です」
その時、太陽がかえでの顔に宿ったかのように、輝く笑みをした。
「・・・ったく」
そんな笑みをさせられちゃあ・・・俺が出る幕はねぇじゃんよ・・・。
そんな笑みに見惚れたのか、男の子はもう一度息を吸い込んで――
「どうやら、僕はかえで先輩のこと諦めきれなさそうです。・・・そんな表情をさせる人に僕はきっと成って見せる・・・」
「・・・ふふっ♪楽しみに待ってるね♪」
「は、はい・・・では・・・。あ、あと、かえでさん。その好きな人のことを言っている時、とても顔が赤かったですよ。治していかないと、もしかしたら冷やかせるかも――って行っちゃった・・・」
確かに赤かった。それはもう完熟したリンゴの用に赤く――
「あ、あぁ。俺の目元も赤くはれ上がってるんだろうな・・・」
これが失恋ってやつなんだね・・・。うぅ、涙できっと目元大変だ・・・。
零は、この時の失恋の痛みは間違いだってことに気がついたのは、それまたずっと後のこと・・・。
零は気を取り直して、今は事務室に向かっている途中だった、のだが――
「う~ん・・・。どうして、俺は今、理事長室の前に居るんだ?」
それはさかのぼること数分前。なぜか零は警備員のような人たちに取り押さえられていた。
アレか。実は理事長は俺のことが気になっているのか。
「里村理事長。例の者、連れてまいりました」
2度、コンコンと扉を叩いて、警備員が告げる。
「あ、例、じゃなくて、零なんで。そこんとこ、重要だぜっ?」
「黙れ下郎。俺の靴下、嗅ぎたいか」
「それどんな刑罰だよ。っていうか、それが一番精神に来そうだなっ!!」
「その刑罰でどれくらいの人間が犠牲になったか・・・」
あぁ、そのくらい臭いのね・・・。
「お勤め、御苦労さまですっ!!」
「五月蠅い。理事長の前だぞ」
理事長の前だって・・・。返事も何もないじゃねぇか・・・。
「貴様の考えていることは分かる・・・。だが大人しくしていろ、今、彼女は、あんなことやこんなことの真っ最中だ」
「なに、その如何わしい発言っ!!ちょっと今から此処に入る俺の身としては期待しちゃうよっ!!」
零が警備員に突っ込みをした時、突然声がした。
「・・・入ってこい」
「・・・では、失礼します・・・」
そっと警備員がドアを開ける。
そして瞳に広がった世界は――
「うっわ、理事長室」
「当り前だ。ここは理事長室なのだからな」
「いやぁ~・・・。今時、純粋に理事長室ってウケ悪いよ?需要ないよ?・・・ったく、面白味がないねぇ~」
「理事長室に面白味を求めて、どうするのです?私が、毎日ウハウハしていろと・・・?」
奥に居た人物。たぶんそれが理事長だ。
警備員が敬礼をしているくらいだからな・・・。っていうか、敬礼している時点で、『警備員』じゃなくて『警察官』じゃ・・・。
「下がって良いぞ?」
「はっ!了解いたしました」
「また後でなっ♪」
「お前といつそんな仲になった!」
「そんな仲って・・・男の口から言わせる気ぃ?・・・もしかして、そういうプ・レ・イ?」
「警備員さん。彼は私が調教といてあげますから、ご安心を」
「是非、お願いします」
そっとドアが閉まっていく。
ったく、ノリが悪いなぁ~・・・。
「久しぶりですね・・・。櫻庭零」
「・・・はぁ~。やっぱり俺って昔から変わってない?里村理事ちょー?」
「いえ、随分と逞しくなりました。・・・で、何のために、この学校、いえ、この大都市に来たのですか?」
「来た、って失礼な。俺は、観光目的に此処に来たわけじゃない。此処は俺の生まれ故郷だ」
「・・・そうでしたね。ですが、櫻庭――」
「義理父なら死んだ」
そういうと、理事長は目を丸くする。
そりゃ驚くよな・・・。なんたって、この学校の元理事長で現役のこの人の師匠なんだから。
「それは一体・・・」
俺は、胸に手を差し込み、そしてペンダントを取り出す。銀色で、トライフォースのような三角形がいくつも重なっているロゴだ。
「そ、それは――!!」
「あぁ、御察しの通り、『連合軍』の隊員の証だ」
零が先ほどまでとは打って変わってまじめな顔つきで答える。
心なしか、声も若干低めになった。
「覚えているだろ?いや、忘れたとは言わせない。・・・今から2年前終結した戦争、『魔術戦争』を・・・」
魔術戦争。それは今から4年前に勃発した、世界大戦だ。
力をもった人間は自分を抑えられなくなる。大きな力を得た国、都市が世界に3つあった。
初めは『アルバーン』という国。次に『大都市エンゲル』、最後に『大都市ジェリング』
この3つは力を合わせ、世界を乗っ取ろうとした。それに対抗すべく、世界が各国から集めた魔術集団『連合軍』。その2つの戦力が起こした戦争を『魔術戦争』という。
「今、あんたはこの大都市『グランダ』の状況を一番把握しているはずだ・・・」
「・・・私にどうしろと・・・?」
「簡単なことだ―――」
「即刻、この大都市の中心人物を殺せ・・・!!」
零の眼光は研ぎ澄まされた刃のような鋭さをまとっていて、そして冷淡かつ単調に、その言葉を発したのだった――・・・。