かえでの一日その裏側、見せますっ!!
間違い桜を離れて数分。俺は、久しぶりの実家に向けて歩いていた。
幸い、道はあまり変わることがなく、思いのほかすいすいと家まで歩くことが出来た。
「・・・っと、此処・・・だな」
とくに荷物はない。俺の思考は突然帰ってきた兄に驚いて熱く抱擁を交わす兄妹の姿を思い浮かべていた。
いやぁ~、どうしようか・・・。「お兄ちゃ~ん」なんて感じで跳びつかれたら、俺きっと自分を抑えられない自信がある。
あと数メートル、たぶん数秒単位だろう。その時、家から丁度出て来る人影が見えた。
とっさに俺は見つからないように物陰に隠れる。
「行ってきまぁ~す・・・」
この声は・・・。
俺はそっと物陰から声主を見る。
「・・・かえで・・・!!」
そう。その、今家から出てきた少女こそ、俺の妹なのだ。
見つからないように、玄関まで駆ける。
そこには懐かしの『櫻庭家』という札が掛けてあった。そしてその下には『櫻庭志雄、安、零、かえで』と書いてあった。
上の2名。それが、俺とかえでを受け止めてくれた義理の両親だ。そして、そのすぐ下、『零』俺の、名前だった。
自分の名前を見ると、急に懐かしく思えて、少し景色が滲んだ。
「・・・っと、かっこわりぃとこ、かえでには見せられねぇよな・・・」
俺は、かえでが歩いて行った方向を見つめ、そして追いかけて行った。
っと、発見・・・。歩くのが遅いのは、かわってねぇな・・・。でも――
「見間違える程、可愛くなったな・・・」
最後に会ったのは7年前の俺が義理父に着いて行くと決め、出発する日だった。
あの時は、大変だったなぁ~・・・。俺が行く直前まで泣いて、んでだだこねて、「お兄ちゃんが行くなら私も行くぅ~~~っ」って、目にいっぱいの涙を溜めて・・・。
お兄ちゃん、目には涙を溜めてなかったが、胸にいっぱい溜めたぞ、うんうん。
すると、突然、かえでの小さな悲鳴が上がった。
「ひゃうっ」
な・・・。どうした、強姦魔か。
俺はそっと顔をのぞかせると、そこには1人同級生らしい女の子がかえでを後ろから抱いていた。
「・・・くぅ~。俺だって、やりたい。後ろから『だ~れだっ?』ってやりたいのにぃ~・・・!!」
いや、此処で出ることは止そう。うん、今出ても、変質者扱いを受けるだけだ。
零は行きたい心をぐっと堪えて、その姿を見守る。
「――でも、よかったな・・・」
友達ができて。お兄ちゃん、嬉しいぞ、まことにうれしい限りだぞっ。
俺が父親の用にかえでを見つめていると――
「ママー、あそこに変なお兄ちゃんが居るー」
すぐ横を通っていた子供が俺を指して言う。
「ダメよ、裸眼で見ちゃっ」
「裸眼ってなんだよっ!?強制視力なら良いわけっ!?それに、全国の父親が可哀想だよっ!!」
「ひぃっ、ダメよ、あんな男になっちゃ」
「うん、分かった」
親子はすぐにその場を離れて行った。
なんて失礼な・・・。俺はただただ妹を父親のような目で見つめていただけなのに。っと、気を取り直して・・・。
俺がかえでの方を向くと、そこには――
「男・・・っ!?」
そんな、男だと・・・。お兄ちゃんは許しません。お兄ちゃんは許しませんよ・・・。
「前城くん、優しいね」
「そ、そそそんなことねぇよ」
「そうなのですよぉ~――」
「―――くぅ~・・・っ!!認めん、認めんぞ、俺は・・・!!今すぐあの男を血祭りにしてやろうか・・・」
そうすれば、かえでは毒牙にやられることはない。一切ない。心配ない。
よし、今すぐにでも決行―――
零はそこで言葉を失った。なぜなら、かえで達が入って行った学校はまさに俺が通っていた『神立サラヴァン学院』なのだから。
「どうして・・・」
なぜかえでがこの学校に居るんだ。かえでだけは、魔術に関わらず、一般の女の子として生きてほしかったのに・・・。
零が絶句するのにはわけがあった。それは、一発即発のこの大都市、もしも戦争が始まった場合必ずと言っていいほど、此処の生徒も戦争に駆り出されるからだ。
「むさっくるしい男どもは勝手に赴いて勝手に死ねばいい。でも――」
かえでが死ぬ理由はない。
零はまず俺が此処に来た理由を定義した。
「・・・妹を、守るため・・・」
なら、俺がこの学校に再入学すればいい。そう、かえでがなんで魔術を習っているのかは分からない、でもかえでの夢だとしたら、俺が無理やり壊す必要はない。
「そうときまれば・・・さっそく、転入手続きだ・・・」
俺はうろ覚えの状態で、学院内にある、事務室を目指したのだった――・・・。