かえでの一日ですっ!! ☆
胸ポケットに『櫻庭かえで』という鉄で出来たようなネームプレートを確認して、玄関に向かう。
櫻庭かえで、それは私の名前だ。事実、櫻庭という名字は貰ったに過ぎなく、私は戦争孤児。
記憶の一部が無くなっていて、名前は思い出せた。けれども、私には身寄りが分からなかったため、引き取られた先が櫻庭家だった。
「行ってきまぁ~す・・・」
例えどんなに挨拶をしても返事は来ない、分かってはいるのだが、癖で毎日してしまう。鍵の閉め忘れはないか、どこか不備がないかと一通り確認して私は学院へ向かう。
今から行く場所は『神立サラヴァン学院』という、魔術学校だ。
6歳から入学可能で、最低卒業年齢は20歳という無茶苦茶な学校だが、この都市内ではここしか魔術を教わることが出来ないので、だいたいの子供が此処に入学をしている。
まぁ、そのせいか人数はほんと多いんだけどね・・・。
「やっほぉ~、かえでっ♪」
「ひゃうっ!?」
「ん~、いつ聞いても見ても感じても、可愛い反応だねぇ~」
「も、もうっ!脅かさないでよ、加也ちゃんっ!」
いきなり後ろから抱きついてきた女の子。同じ学校に通う友達で、名前は『早乙女加也』
いつもだけど、どうしてか慣れないんだよね・・・加也ちゃんの抱きつき。どうしてだろう。
「ん~・・・それは聞けない提案なんだよねぇ~♪」
「どうして~・・・?」
「だってぇ~、かえでの反応が可愛いんだもんっ。もう、私の嫁決定っ!!」
「よ、嫁ってぇ~・・・」
うぅ・・・朝だっていうのに、このテンションはどこから来るんだろう・・・。
かえでは、加也ちゃんが自分とは違う人間に思えて仕方がなかった。
そう考えていると――
「ったく、騒がしいなぁ・・・お前は・・・」
丁度十字路の所で会う男の子、『前城大機』も私たちと同じ学校で、初めての男友達だ。
「騒がしいって言われちゃってるよぉ、かえでぇ~」
「え・・・えと・・・。ごめ――」
「なんで櫻庭なんだよっ!?加也、お前だよ、お前以外誰が居るんだよっ!!」
「ったく、うるさいのは、あんただって同じでしょ?大機ィ~」
前城と、加也が喧嘩するのは毎日だ。この2人は俗に言う幼馴染でお互い「こんな幼馴染いらない」と言っているけど、かえでにとって喧嘩するほど仲がいい、の代名詞みたいな、そんな存在だ。
騒がしいのは嫌いじゃなくて、どちらかというと、好き。あまりにもうるさすぎ、というのはどうかと思うけれど、聞いていて楽しい感じになれる。
2人を見ていると、不意に笑ってしまう。
「・・・くすくす」
「・・・って、櫻庭ァ~、何笑ってんだよ、お前からもなんか言ってやってくれよ」
「あははっ、だって、面白いんだもん、前城くん。だって、強い言葉だけど、そこまで口悪くないよね」
「そ、そんなことねぇって」
「そんなことあるのですよぉ~、前城くん。やっぱり、優しいね♪」
「な、ななな、何言ってんだよ、さ、ささ櫻庭はっ!!」
真っ赤になる前城大機。
どうしたんだろ・・・。熱でもあるのかな。
「あははっ、大機、どもってるぅ~。それに、真っ赤だよぉ~?」
「う、うるせっ!加也は黙ってろ・・・!」
「怖い言葉ぁ~・・・。大機がいじめるよぉ、かえでぇ~」
加也がかえでの後ろに隠れるようにして、陰に入る。
「ちょ、加也ちゃん・・・。なにしてるの?」
「うふふ~・・・。大機の弱点は~・・・コレだっ!!」
そう言うと、加也はかえでの両肩に手を乗せると、大機の前に突きだした。
突然だったため、少し足元をすくわれるが、すぐに立て直す。
「・・・っ!!・・・加也、お前ぇ~」
普通なら、これくらいされて気がつくだろうが。かえでは、私が嫌いなのかな、という認識しかなかった。
「これくらいしないと、大機、望み薄だよぉ?」
「くぅ・・・悔しいけど、加也の言うとおりなんだよな」
「・・・?どうしたの、陰で2人で。秘密の話?」
「あぁ、それはこいつが、かえでぇ―――」
「何話そうとしてんだコラ?―――櫻庭には関係ないから、うん、全然これっぽっちも」
「・・・?」
歩き始めて数分。楽しい時間も終わりを告げた。
目の前にあるのは、神立サラヴァン学院。
大きさは、そこらへんの高層ビルと何ら変わりなく、全校生徒は約4000を超えると言われている。
下から上に上がるにつれて、ランクや年齢が上がっていき、私たちは16歳のランクBという普通のクラスなので10階の層だ。
「はぁ~・・・。クラスまでお前と同じってのが笑えねぇ冗談だよな・・・」
「いいじゃん、大機。私が居るところには、絶対にかえでが居るんだからぁ~」
「な、なんでそこに櫻庭が出て来るんだよ」
なんで私が出て来るんだろう・・・。やっぱり、嫌われてるのかな、大機くんに。
俯きながら歩いていると、突然聞き覚えのない声でかえでを呼んでいる声が聞こえた。
「あ、あの・・・。かえで先輩・・・ですよね?」
その声は男の子で、先輩って言ってるってことは後輩なんだと感じ取ることができた。
「えっとぉ~・・・そう、だけど・・・」
「僕の名前は鹿島雄平って言います。その、お話があるんですけど・・・」
「此処じゃ、ダメ・・・かな?」
「あ、えと・・・その・・・」
鹿島雄平は大機と加也を気まずそうにちらちらと見る。
それに気付いたのか、2人は少し離れ、遠くから様子を見守ることにした。
「ほらぁ~・・・いいの?大機ぃ・・・」
「な、何がだよ」
「あの子、っと鹿島雄平くんだったっけ?彼、結構中等部じゃあ、人気だよ?ランクAで、顔よし正確よし頭よしの天才くんだよ?」
「だから何がだよ!・・・櫻庭が誰と付き合おうが、俺には関係ないだろ・・・」
「へぇ~ふぅ~ん、ほぉ~」
「気持ち悪いなぁ~言いたいことがあるならハッキリと言えよ」
「いやぁ~、臆病者、チキン、意気地なしって思ってなんかいないよぉ~」
大機は、その言葉を受け流し、かえでを心配そうな目で見ていた。
数秒経つと、かえでが2人の所へ戻ってくる。
「また告白ぅ~かえでぇ?」
かえでは、真っ赤になりながら小さく「うん」と答える。
「アレアレ、その反応って、まさかまさかぁ~?」
「ち、違うよっ!・・・で、でも、その告白の言葉が恥ずかしいというか、なんというか・・・」
「へぇ~、教えてよぉ?」
「だ、ダメだよっ!一生懸命に考えて私に言ってくれた言葉を言いふらすなんて、いくらその頼みが加也ちゃんでも、無理だよぉ・・・」
「ま、それもそっか・・・。ったく、ほんと何回目?かえでが告白られるの」
「え・・・っと・・・覚えてない、かな・・・」
「うわぁ~・・・。朝に食パンを食べた回数なんて覚えてない、みたいなノリだよ、それは」
「そ、そんなことないもんっ。わ、私、朝はご飯派だから、食パンは食べないもんっ」
「そ~ゆ~問題じゃないんだけどね・・・。ま、あんたに泣かされている子は大勢いる、と」
「うぅ~・・・。なんか誤解を招く言い方だよぉ、それ・・・」
「でもさぁ。かえでって、どうしてそんなにふっちゃうの?結構良い線の奴とかいっぱい居たでしょうに」
「こ、恋には、今は興味ないかなぁ~・・・なんちゃって・・・」
「・・・かえで、もしかして好きな人とかいる系なの?」
「な、なんだってぇっ!!!!」
それまで黙っていた大機が突然大声を出す。
ひぅっ・・・。びっくりしたよぉ・・・。
「そ、そんなこと、ない・・・よ?」
「なんで疑問形なのさぁ。・・・もしかして図星なんじゃないの~」
「うぅぅ・・・。ひどいよぉ、加也ちゃん・・・」
「そんなに真っ赤になっちゃってぇ。こりゃあ、大発見だなぁ♪」
かえでは、萎れる花のように俯く。
そして少し離れた場所では、柱に頭突きを何度もしている大機がいる。
にゅふふ~、と嬉しそうな加也。
どうしてだろう、加也ちゃんはいっつも、鋭い。私が隠していることお見通しなのかな・・・?
そう、私は1人の男性を一途に思い続けているのだ――・・・。