侵されない者
初めての投稿になります。
本作はダーク寄りのSFパニック作品です。
正体不明の「侵食」を中心に、世界が少しずつ崩れていく様子と、その中で生きる少女の姿を描いています。
一部に残酷・不穏な表現を含みますので、ご注意ください。
拙い部分もあるかと思いますが、最後までお付き合いいただければ幸いです。
世界は静かに崩れていた。
目に見えない異変の気配が街や人々を蝕み、日常は少しずつ、確実に歪んでいた。
人々はその変化に怯えながらも、正体の分からない脅威から身を潜め、限られた情報と僅かな光を頼りに生き延びている――。
数日前、その異変に関わる存在が初めて報道された。
ニュースは繰り返し同じ言葉を並べる。
「詳細は不明」
「調査中」
映像も証言も断片的で、どれも確証には至らない曖昧な内容ばかりだった。
ただ一つ、共通して語られていたのは、人間から変化した生き物ということ。
膨れ上がった腕、鋭く尖った牙、剥がれ落ちる皮膚。
常識では説明できないその姿は、見る者に本能的な恐怖を植え付ける。
牙をむき、腕を振りかざして襲いかかるその存在は、もはや人間とは呼べないものだった。
しかし、それはかつて人間だったとされている。
何らかの影響によって肉体が変化し、理性を失い、別の存在へと変わったもの。
そして、体液を介して増殖する。
人々はそれを「侵食体」と呼んでいる。
その正体はいまだ解明されておらず、発生の理由も分かっていない。
不確かな情報だけが不安を増幅させ、恐怖は静かに広がり続けていた。
そして、現時点ではこの地域に侵食体は現れていない。
それが事実なのか、それとも単に確認されていないだけなのか。
確かなことは誰にも分からないまま、時間だけが過ぎていく――。
静まり返った街の空気を裂くように、遠くで何かが砕ける音が響く。
続いて、短く途切れる悲鳴。
それはすぐに連鎖した。
一つ、また一つと、叫びが重なり、夜の静寂を押し流していく。
街に火が広がる。
倒壊した建物からは煙が立ち上り、光と影が不規則に揺れていた。
逃げ惑う人々の足音。
崩れる瓦礫。
誰かを呼ぶ声。
その混乱の中心に、それはいた。
形も色も、通常の生物とは明らかに異なる。
牙をむき出しにし、腕を振り上げ、逃げる人々へと突進する。
その動きに迷いはない。
ただ“獲物”を追う本能だけが、そこにあった。
その光景の中に、ひとりの少女が立ち尽くしていた。
暴走する侵食体の目が、少女を捉える。
次の瞬間、地面を蹴り、一直線に迫ってきた。
距離が一気に詰まる。
恐怖が身体を支配し、少女は息を止めた。
その瞬間――奇妙な感覚が走った。
音が遠ざかり、周囲の叫びが膜越しのようにくぐもって聞こえる。
母親の悲鳴が遠くで響き、父親が誰かに押し倒される音も、耳に届く。
ただ、目の前の侵食体だけが確かに"止まっている"。
空中で振り上げられた腕。
露出した牙。
そのすべてが、まるで時間から切り離されたかのように静止している。
現実味のない光景。
――「逃げろ!」
どこかから声が飛んだ。
その声に反応するように、少女はようやく身体を動かした。
震える足を踏み出し、止まった侵食体の横をすり抜ける。
瓦礫を避け、煙の中を駆ける。
息が上がり、視界が揺れる。
それでも、足は止まらなかった。
ほんの数秒……
その短い瞬間が少女を生かした。
背後では、世界がまだ崩れ続けている。
家族の声が途切れ、建物が倒れ、炎が広がっていく。
少女は振り返らなかった。
ただ前だけを見て、走り続けた。
その先に何が待っているのかも知らないまま、少女は研究施設へ送られることになる。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
この作品は、実際に見た夢を元に構成しています。
そのため、現実的な理屈よりも、雰囲気や感覚を重視した表現になっています。
「侵食」や「止まる世界」といった要素が、今後どのように広がっていくかを描いていく予定です。
よければ、また次話も読んでいただけるとマンモスうれぴーです。




