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六、時々七兄弟  作者: 香子茶小連
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3/7

バレないように

───翌年


晶刃(しょうじん)の儀を目前に、宮廷はいつになく慌ただしかった。

その折、望鏡の双子の弟・望鶴(ぼうかく)が帰還した。舶来の品を満載した荷馬車を引き連れて。


「皆息災だったか。晶刃の儀の稽古はどうだ、ちゃんとやれてるか」


下の兄弟達が舶来品に興味を奪われる中で


「はい、皆変わりありません。晶刃の儀を控えて、剣舞も磨きがかかっています。望鶴叔父上も息災で何よりです」


真明が代表で挨拶し、隣で豊珠が深々と拱手礼をした。

それから望鶴を囲むようにして異国の話を聞いた。とりわけ熱心に聞いていたのは豊珠の他に五男の虎蓮(これん)だ。


「望鶴叔父上のお仕事、僕もついて行きたいです」

「おや虎蓮、私は遊びに行ってるわけではないんだよ」

「だって異国のお祭りを見たり、美味しいものを食べたり、ヘンテコなお土産をいっぱい買ってるし」

「ははは。それが全てじゃないさ。外交官として宝飾技術を売りに行っているんだよ。原石が豊富に採れたのは遙か昔の話だ。今の輝泉に価値ある石はない。源美石だって輝泉を離れればただの土塊だ。だから確かなものは、人の手から生まれるもの。すなわち技術だよ」


虎蓮は今一つピンと来ない風に首を傾げた。その横で豊珠は僅かに視線を落とした。


「望鶴様、遅くなりまして申し訳ございません」

「珠臣も来たか。君にもお土産があるよ、その箱を開けてご覧」


珠臣が一礼し、一抱え程の大きさの箱を開けると───


「それは眼鏡と言って、視力を矯正して見えるようにするものだ。以前、視力が落ちたと気にしていたろう?合うものがあると良いんだが」


珠臣が眼鏡を選ぶのを真明が面白がって見ている。


「見慣れないな、違和感がある。ンフ」

「からかわないでください」


一通り掛けたり外したりして選んだのは、細い銀縁に丸い硝子がはめ込まれたものだった。


「望鶴様、ありがとうございます。これで宝飾の修行の方も捗りそうです」


後ろの方で真明は笑っているけれど、舶来品の眼鏡を掛けた珠臣は、豊珠からすれば眩しく見えた。

皆が珠臣の眼鏡に夢中になっている隙に、豊珠は望鶴に尋ねた。


「街の様子はいかがでした?」

「今年も賑わっていたよ。晶刃の儀を皆楽しみにしていて、遅くまで出店で賑わっていた。剣舞の稽古が一段落したなら一緒に行ってみるか?」

「いえ……私は楽しみにしてくれる民のために鍛錬するのみです」

「そうかそうか」


望鶴は目を細めて豊珠の横顔を見た。その横顔はどこか憂いを帯びていた。



その晩のこと。豊珠の部屋の扉を叩く者がいた。


「虎蓮じゃないか。こんな時間にどうしたんだ?掛紗なんか被って」

「実はあの後、望鶴叔父上のお土産を翠兄(すいにい)雷兄(らいにい)が取り合ってね、お庭の柵の柱をね……」

「……壊しちゃったんだね」

「うん。でもバレないように直したから平気なの。それでね、僕、街に行く方法を思い付いて」

「うん。え?」


何がどういう話になっているのか豊珠の理解が追い付かない。


「豊珠兄、街に行きたがってたよね。僕も行きたい!」


気付かれてた。


「ね、晶刃の儀が始まったら僕たち動けなくなる。今はまだ警備が薄いから」


虎蓮は豊珠の袖をぎゅっと握った。ここで断れば一人でも飛び出して行ってしまいそうだ。


───壊れた柵の様子を見に行くだけ


掛紗を頭から被り、燈器を握り締める。虎蓮と共に暗がりの中を駆け出した。虎蓮の背中を追いかけると、ある柵の前で止まった。


「これだよ、昼間壊してしまった柵……バレないように直したんだけど、ここを押すとね」

「……直ってないね」


豊珠の背をも優に越える柵のうちの一柱が、虎蓮の力加減によってぐらぐらと揺れた。燈器で照らすと踏み固めた跡があった。翠玉(すいぎょく)雷焔(らいえん)がどうにかバレまいと奮闘した跡だ。

その柱を押すと人ひとり通れるだけの隙間ができた。そこから宮廷の外に出ようというのだ。

急に、外に出ることの現実味を帯びてきた。


「本当に……おい!」


豊珠が戸惑っていると虎蓮が先に身体を滑り込ませて外へ駆け出た。虎蓮は息をひそめて叫ぶ。


「豊珠兄はやく!見つかっちゃうよぉ」


───本当に、本当に。


気付けば身を翻して走っていた。虎蓮と手を繋いで、山の斜面を下る。眼下に橙色の光の粒や帯が広がっている。息が上がってクラクラする。輝泉国の光は、なんて、なんて美しいんだろう。

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