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【開幕のプレリュード】

闇バイトの候補者が選別されてから数日後...

選ばれた二人を迎えるべく、裏社会のボスの息子

黒澤 蓮が日本列島に足を踏み入れ、二人を拘束した。

そして今、このゲームの戦いの幕が切って落とされる

漆黒の闇を日本列島に向けて切り裂き進むクルーザーの内部は、外の荒波が嘘のような静寂に包まれていた。


30代にして、絶海の孤島・賭博場【ルナ・エクリプス】の次世代当主候補となった《黒澤 蓮》はテーブルに広げられた二枚の応募用紙を、ワイングラスを片手に眺めていた。


「……ほう。これが、今回の「踊り子」どもの間抜けな面か...何とまあ薄汚い...

だがしかし、何故父上はこのようなガキに我々の領地へ招待するのか理解しかねる」


彼は、父・亮司の傍らで、10代の頃からこの世界の深淵に足を踏み入れていた。裏取引、禁忌の商売、法を嘲笑う違法カジノ、それらは蓮にとって、もはや呼吸と同義の日常であった。


彼の父、《黒澤 亮司》は、裏社会の人間を地図にない孤島へと集め、巨大な富を動かす事務所兼賭博場を統べ、莫大な金を動かす、いわば裏社会のマエストロだ。


裏社会の中枢を担うその男にとって、後継者である蓮は、部下の中でも唯一無二の最高傑作として慎重に、そして残酷なまでに賢く、そして純粋に育て上げられてきた。


そんな父親の思想を脳に刻み込まれるように過ごした20年近い歳月。

そんな「自分」という核を持たない空虚な蓮にとって、父から与えられたこの初めての“大仕事”は、遊戯を吸い尽くし、与えられるがまま同じことを繰り返す彼の日常の中、乾き切った心を躍らせるものであった。




深夜の東京湾の港。


接岸した漆黒の闇に紛れるクルーザーから、蓮がゆっくりとタラップを降りた。


「……鬱陶しい光景だ。日本列島の夜は、どうしてこうも薄汚いのだろうか」


蓮は赤色のスーツをたなびかせ、手袋をはめ直し、日本であれば振り返るほどに目立つような、体格のいい部下たちに顎で合図を送った。


「車に乗れ。奴らは渋谷の裏路地にて待機させている……。

お前ら、父上から受けた初の大仕事だ、失敗は許されん。表社会の人間には我々の本部の場所を絶対に知られず、迅速に拘束し船に放り込むぞ」


「「はっ」」


彼らの本島の仲間、黒澤がの乗る、光を受け黒いボディのセダンが渋谷の街へと消えていった。

渋谷、喧騒から少し外れた雑居ビルの裏手。


数時間前に採用の通知を受け取ったとある少女は壁に背を預け、退屈そうにスマートフォンの画面を覗き込んでいた。


「……マジ遅い!もう夜の8時だよ?!事務所の奴ら、ここで7時に待ち合わせって言ったくせに!!」


少女は文句を言いながらも、夜の明かりに照らされる商店街の窓に反射する自分を見て、慣れた手つきでリップを塗り直していた。


「ま、夜風に吹かれる私も可愛いし、いっかー」


その瞬間、路地の間から黒塗りの車が音もなく滑り込んできた。


ドアが開き、体格のいい男たちがマサを包囲する。その中心からゆっくりと歩み出てきたのは、冷ややかな笑みを浮かべた蓮だった。


「君が『踊り子』の一人か。写真で見るよりずっと、バカそうな小娘だ」


「は? 何、誰?

真っ赤なスーツ....すっごいド派手な服だね...

あー!お兄さんたちが、事務所の回し者? か弱き少女を裏路地に呼び出すなんて趣味悪すぎじゃないですかぁ?」


少女が不快そうに顔をしかめた瞬間、蓮が冷酷に手を挙げた。


「……やれ」


次の瞬間、部下たちが一斉にマサに襲いかかった。


「ちょっと、何すんのよ……ッ!?」


抵抗しようとするマサの腹部に、男の鋭い拳がめり込む。


「うっ...げほっ」


さらに背後から髪を掴まれ、逃げ場を失った彼女の後頭部に、蓮自身の手による容赦のない一撃が振り下ろされた。


地面に這いつくばったマサの視界が暗黒に染まる。

その地面には主を失ったリップが無造作に残されていた。

夜の品川区の住宅街の路地裏、街灯の光も届かない路地の片隅。


数時間前事務所から採用のメールが届き、待ち合わせ場所に微かな街頭の光に照らされながら、足元で繰り広げられている「小さな死闘」をじっと見つめているとある少年がいたた。


一匹の野良猫が、ゴミ捨て場の影に追い詰めたネズミの喉元を鋭い爪で引き裂こうとしている。逃げ場を失ったネズミは、絶望的な悲鳴を上げながら無駄な抵抗を繰り返していた。


「…....バカだな、逃げても無駄なのに」


声変わり前特有の声で少年は目に映る光景を見ながら嫉妬心を漏らした


「(動物は生存本能に従って生きてるから仕方ないか、何で同じ動物である人間にはそれに無駄な欲がついてきたんだろうか....

そのために余計なことを考えて生きることを強いられるなんて不平等だ。

こいつらは生きること以外何も考えてないんだろうな。そこに煩悩も表裏もないんだろうな...)」


「.....ずるいよな、お前ら」


ネズミの喉を猫が抉った次の瞬間、路地の入り口に漆黒のセダンが音もなく滑り込んできた。ヘッドライトの強い光がブラリスを捉える。


車から降り立ったのは、冷徹な顔を携えた蓮と、その背後に控える武装した体格のいい男たちだ。


「遅れてすまない。詫びを入れよう。

今から少々その猫のように手荒い真似をするが...そのネズミのように暴れるなよ。大人しくしてろ」


蓮が嘲笑いながら歩み寄る。少年はようやく視線を足元から上げ、冷徹な瞳で蓮を射抜いた。


「ネズミ?……失礼だな。僕はあんなアホじゃねぇ、あんた達が俺を手荒く回収しに来ることなんぞ、予測済みだ。

それに今さっき来たところだ20時に待機とか言っといて21時に来る事なんて、俺が警察にちくったら大変だろうから、って考えればわかるだろ?、待ってないんでお気遣いなく。

それより、さっさとあんたらの本拠地に連れてってくれよ」


不気味な笑みを浮かべる自分達より遥かに小柄な少年の眼差しに嫌悪感を抱く。


蓮の眉がぴくりと動く。12歳の少年に、先を読まれれ常に先を読み行動する事を得意とする彼のプライドが逆なでされる。


「あんた何ぼさっとしてんだよ…子供に先読みされて焦ってんの?」


「黙れッ、小僧が……!」


蓮は一気に距離を詰めると、ブラリスの胸ぐらを掴み上げた。だが、少年は好奇心の溢れるがままに楽しむ子供のように男達を見つめていた。


「貴様……ッ! やれ!」


一人の男が彼の頭を掴み、その小さな頭部がアスファルトに叩きつけられる。激痛が走るはずだが、彼は悲鳴一つ上げない。ただ冷たい目で蓮を見上げ、嘲笑うかのように口角を上げながら静かに意識を手放した。


ネズミを仕留め終えた猫が車のドアが閉まる音に怯え

獲物を置き去りに路地の奥へと消えていった。



東京湾の港の、静まり返った埠頭に横付けされたクルーザーのハッチが、重々しい音を立てて開いた。


「運べ。……そいつらは「踊り子」であり見せ物だ

傷はつけずに扱え」


蓮の冷徹な声が響く。

彼の背後では、屈強な部下たちが、意識を失った少女と少年を一人ずつ肩に担ぎ、タラップを上がっていく。


「入れろ」


船体の後方にある人一人入れるようなスペースのあるハッチに無造作に放り投げた。


ドサッ、という鈍い音が重なる。

少女の整えられた髪は乱れ、アスファルトで汚れた頬が床に押し付けられている。その横では、少年が小さい体細を丸めたまま、ピクリとも動かずに横たわっていた。

蓮は扉の敷居に立ち、足元に転がった二人を見下ろして、満足げに鼻で笑った。


「……我々の世界を何も知らずに踏み入れたこの社会を、どうもこいつらは軽視しているようだ...

【絶海の孤島】に着くまでに、せいぜい甘い夢でも見ておくんだな」


蓮はそう言い捨てると、霧状の麻酔薬をハッチに撒き分厚い鉄扉を勢いよく閉めた。

ガチャン、という重い金属音と共に、電子ロックが作動する。

窓一つない暗闇の物置。

聞こえるのは、海面を叩く波の音と、低く唸るエンジンの振動だけだ。

二人が次に目を覚ます時、そこはもう、法も秩序も存在しない「絶望の孤島」の入り口である。

クルーザーは漆黒の海へと船首を向け船を走らせた。

数時間後、夜の静寂を切り裂くように、クルーザーのハッチが重々しく開いた。

湿り気を帯びた真夏の夜風が、森の中の封鎖された部屋の中へと流れ込む。


「……出せ。」


蓮の冷淡な号令とともに、意識を失ったままの少年と少女が、体格のいい男たちによって外へと引きずり出された。


二人の頭には黒い袋が被せられ、手首には重厚な手錠が食い込んでいる。


波の音が岩壁に砕ける音が響く、【絶海の孤島】。

そこには、大きな森林の奥に、裏社会の中枢にふさわしい、白亜の要塞のような施設がそびえ立っていた。


「……っ、……ん」


賭博場の一室である待機室に、冷たい地面に膝をつかされた衝撃で、二人が同時に意識を取り戻す。


その瞬間、蓮が二人の目隠しを乱暴に剥ぎ取った。


「――ようこそ『踊り子』諸君。ここが君たちの賭博場だ」


突如として差し込むサーチライトの眩しさに、二人は目を細める。


周囲には、自動小銃を構えたギャングたちがぐるりと取り囲み、その中心には、次期当主としての優越感に浸る蓮がワイングラスを揺らしていた。


絶望的な状況。普通なら悲鳴を上げ、騒ぎ立てる場面だ。

しかし、数秒の沈黙の後、先に口を開いたのは少女だった。


「……いたた、な?!ここは?!バイト先?

そ・れ・よ・り、あなた達レディのエスコート下手すぎない?!履歴書に書いたでしょ?!ちゃんとエスコートしてって!!ちょっと!偉そうな人!どんな教育してらっしゃるの?!手洗い真似は良くないと思います!見てください!髪がボサボサ!」


少女は頭の痛みよりも、髪が崩れていることに憤慨したと同時に、隣に転がされている自分より小さな少年をチラリと見た。


「ええ?!そこのボウヤが私のお相手?!可愛い〜!!そうだ君、鏡持ってない? あ、手錠されてるから無理か。あはは!」


自分の状況を理解できているのかいないのか、判断しかねる。目の前の少女を少年は泥を見る目で見つめていた。


「….何だぁお前、病気で間違えて履歴書送っちまったのか?気の毒だ...」


少年は、裏社会に飛び込み命の迫り合いに身を置いているにも関わらず、能天気にベラベラと話す少女に戸惑いを隠せなかった。


「失礼しちゃうな! 虫歯一本ないし、視力も2.0、血管年齢にいたってはピチピチの5歳児並みなんですけどー!!」


「血管だけ若返ってどうするんだよ!問題なのはその、絶望的に空っぽな前頭葉だろ!マジうるせぇ!死ね!」


「空っぽとか言わないで! 詰め込みすぎてパンパンなだけだから!」


二人は、自分たちを包囲する銃口や、目の前で怒りを滲ませている蓮のことなど、まるで見えていないかのように会話を加速させた。


「……黙れ」


蓮が低く言ったが、二人の耳には届かない。


「今から私たち殺しあうんだよ〜そんな簡単に死んだら面白くないじゃない!可愛い顔してるんだからー

そんなこと言わないで〜」


「黙れと言っているんだ!! 貴様ら!!」


蓮の怒声が、夜の港に激しく響き渡った。

彼は手に持っていたワイングラスを地面に叩きつけ、二人の間に割って入った。粉々に砕けたガラスの破片が、二人の頬をかすめる。


「……あっおじさん、もしやもしやの?更年期?」


マサが憐れむように目を細める。


「....もういい。こいつらは話が通じないようだ。

自己紹介くらいさせてやる。10日後、どちらかがどちらかに殺されて死ぬんだからなあ。情をつけあってた方が面白みが出る」


「かしこまりました〜!

《サルビア・マサ 》でーす。10日後あなたを葬る予定の現役JKでーす。よろしく!」


「チッ……《イエロブ・ラリス》 だ。以上」


「え?なんか戦線布告とかしようよ...せっかくだし」


話し続ける彼らを蓮は蔑んだ目で見ていた。

蓮の指示の下拳銃を向けていた男の一人がまず、マサとラリスの背後に回り込んだ。二人の細い手首に食い込んでいた重厚な錠前に鍵を差し込む。ガチャン、という重々しい金属音と共に、手錠が床に落ちた。


「ふぅー! やっと外れた!お兄さんありがと!でも、これ跡になったら慰謝料としてこの島、アタシの別荘にしてもらうからね!」


マサは解放された手首をさすりながら、わざとらしく明るい声を上げ制服の懐に腕を入れた。



ガチャ



次の瞬間、マサが音もなく、流れるような動作で懐から小型ナイフを抜きラリスの背後に立ち、笑いながら、喉元に突きつけた。


「これくらいの挨拶してもいいんじゃない?

ラ・リ・スくん」


マサはラリスの瞳を至近距離で見つめたまま、ケラケラと楽しげに笑っている。


ラリスは首元に当たる銀色のナイフを、手で妨害し寸前で止め、マサを睨みつける。


「ねえ、そんな怖い顔しないでよ。これはただのご挨拶。冗談だから、ね? 仲良くしましょ」


その瞳には一点の曇りもなく、純粋な好奇心と興味が宿っている。殺意や悪意が一切混じっていないからこそ、その「笑顔でナイフを突きつける」という行為は、常軌を逸した不気味さを放っていた。


「(……今、何が起きた?)」


蓮は目の前で起きていることを理解するのに時間がかかった。


自分の目の前で、鎖を外されたばかりの少女が動いた。その瞬間、彼の視界から少女の姿が音もなく「消えた」のだ。気づいた時には、彼女のナイフが少年の喉元に届いていたが少年はそれを止めた


蓮の背後には、手だれの精鋭達がいたがもし不意打ちをされていたならば誰一人として反応することができなかっただろう。蓮は、喉の奥がカラカラに乾くのを感じていた。


「ふふっ、よろしくね、イエロブ・ラリス君、最高のショーにしましょ」


「面白い...楽しみにしてやるよ、サルビア・マサ」


二人は裏社会の中枢を担う者達の驚嘆の視線に照らされ、その凄惨な物語の開幕告げる【開幕のプレリュード】は、二人の演奏者によって今華やかに幕を閉じた。








最後まで読んで頂きありがとうございました!

次回から本格的に二人の命懸けのデスゲームが始まります。ぜひ次もお楽しみに〜


次回【二人のデュエット】

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