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マヤ・ナイラの残響  作者: よるん、
第1章「オリハという先輩」
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第8話

 マウ先生の魔力の特徴は、水の力が強いことだ。水流のようにゆるやかで、力強い。


「……見つけた」


 マウ先生をよく見ている私には造作もないことだ。彼女の魔力の残滓を確かに感じ取ると、外に向かっていく跡を辿る。

 入口の扉を開けると、二方向に分かれている。新しいものと、古いもの。


「オリハ先輩。新しい痕跡と古い痕跡があったら、どちらに進みますか」


 私は試すように言った。オリハ先輩はそんな私を楽しむように口角を上げた。


「古い痕跡だろうね。課題が発表された時点で、魔法生物は既に放たれているはずだ」


 私は満足して左に進んだ。この先には職員室がある。きっとそこに寄ってから実習室に来たのだろう。案の定魔力の跡は職員室に伸びていたが、それだけだ。中を窺っても、先生のデスクに滞留しているのが全て。それより前の足跡までは追えなかった。


「……だめです。これ以上は限界です」

「きっとお昼休み中ここで過ごしたんだろうね。さすがにそれまでの魔力は消えてるか」


 オリハ先輩は顎に指を当てて考える。その姿も妙に様になっていて、私はさりげなく視線を外した。

 魔力の残滓が残る時間はそう長くない。加えて、お昼までの痕跡が消えているのなら、レンリ先生の方も大して収穫はないだろう。なにせ、お昼から実習室に行くまでの間、私たちは行動を共にしていたのだ。

 そこでひとつ疑問が浮かぶ。私はオリハ先輩を見上げた。


「オリハ先輩は実習室でマウ先生といましたよね。それまでは何をしてたんですか?」

「僕? 僕なら、午前の授業が終わった後、早めに実習室に入ってドール相手に肩慣らしをしていたよ。マウ先生が入ってきたから、軽く稽古をつけてもらってた。実習の三十分前くらいだったかな」

「三十分……」


 それなら、マウ先生の廊下の痕跡はそれより前のものだ。それに、職員室のデスクに色濃く滞留していた魔力。彼女は一体、どのくらいの間そこにいたんだろう?


「オリハ先輩。魔力の残留って、いつまで続くと思いますか?」

「……なんとも言えないね。人によるけど、基本的には魔力が強ければ強いほど残りやすい」


 オリハ先輩は職員室の中を覗き込んだ。私と同じく、マウ先生のデスクに強く残っている魔力を観察しているのだろう。


「レンリ先生の魔力を辿ってみようか」

「はい。私も同じ考えです」


 振り返って目が合う。オリハ先輩は私を見て、柔らかく微笑んだ。私はその表情を見ないように顔を背けて歩き出す。魅了体質なんてものに影響を受けるなんてごめんだ。そんな内心を知ってか知らずか、オリハ先輩は後ろから早足で着いてきて隣に並んだ。細い青灰色の髪が、視界の端で揺れる。


「マウ先生がいつからここに滞在していたのかは分からない。でも、少なくともお昼の間はずっとここにいた可能性が高い」


 並んで廊下を歩きながら、オリハ先輩の言葉に頷いた。


「私、お昼を食べに食堂へ向かったんです。その時、レンリ先生に声をかけられて一緒にご飯を食べました。そのまま一緒に実習室に向かったんです」

「へえ、仲良いんだね」

「……茶化さないでくださいよ」


 げんなりとしながら、言葉を続ける。


「逆に言えば、レンリ先生が私に声をかけるまでの行動は知らないんです。マウ先生の魔力があのデスクに強く残留しているのなら……」

「それまでのレンリ先生の痕跡がまだある可能性は高い」


 私は頷いた。歩きながら、レンリ先生の魔力を探る。あんなのでも、一応私の担当教師だ。魔力の特徴くらいは分かる。といっても、彼の魔力は分かりにくい。マウ先生のように、何か突出している訳でもない。漣も立たない水面のように落ち着いている。そんな不確かな魔力を辿るのは、彼をよく知っている私でも骨が折れる。でも、やらなければ。廊下に満ちている魔力を把握して、選別する。私と一緒にここまできたレンリ先生の痕跡が、強く意識に残った。


「あぁ、分かりやすい。嫌味か、あの人」


 思わず舌打ちしたくなる。だから、やたらと私にまとわりついてきたのか。


「どうしたの?」

「レンリ先生の性格の悪さに辟易しただけです」


 首を傾げるオリハ先輩に背を向けて、足を早める。今も少しずつ、痕跡は薄れていってるのだ。

 本校舎を出ると、食堂へ続く痕跡がいくつかあった。マウ先生とレンリ先生の魔力が、真新しく食堂へ続いている。もしかしたら本当にコーヒーブレイクに行ったのかもしれない。食堂に繋がる痕跡には自分のものもある。さすがに自分の魔力は見間違えるはずもない。


「急ぎましょう。消えかけてる」

「うん、頼んだよ相方さん」


 相方さん、という響きに調子が狂う。この人にもどこかレンリ先生のような大仰さがある。でも、嫌な感じはしなかった。

 私たちは食堂の近くまで行き、中へ入っていった真新しい跡を確認する。マウ先生と入っていったものだ。それとは別に、ほとんど消えかけている自分の痕跡がある。その近くで伸びているレンリ先生の魔力は、食堂と本校舎の間あたりで分かれている。私の記憶でも、このあたりで声をかけられたと認識している。


「……捉えた」


 レンリ先生の糸のようなか細い魔力を、今度こそしっかりと確認した。私はうっすらとしたそれを逃さぬように手繰り寄せる。そして脇目も振らず走り出した。もうすぐ消えてしまう。その前に、行けるところまで……!


「ナツさんっ」


 オリハ先輩の声で足を止めた。理由は明白だった。レンリ先生の魔力はもうほとんど消えている。だが、私と会う前に立ち入った所は一目瞭然だ。私は目の前の場所を仰ぎ見た。

 聳え立つのは、敷地内でもほとんど人が訪れない地。それこそ実践訓練や研究などにしか使われないような、特殊な場所だった。


「……間違いないです」

「そうだね」


 オリハ先輩が隣に並んで見上げる。

 鬱蒼と茂った森の入口に、足を踏み入れていた。高い木々や薬草のような植物が不規則に生えている。獣道のような土の露出が、辛うじて人の立ち入りを感じさせていた。軽率に奥へ入れば迷子になって出れなくなる。準備がいるだろう。それだけに、課題の目的地としては大当たりだった。

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