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マヤ・ナイラの残響  作者: よるん、
第三章「卒業試験」
44/50

第44話

「先輩が、オリハ先輩が!」


 引きずられるようにしながら喚く私に、レンリ先生はぴしゃりと言い放った。


「あそこにいたら共倒れだ!」


 聞いたことのない怒声に、私は身がすくむ。レンリ先生は自分の声の大きさにはっとしたのか、小さくごめんと言いつつ私の手を引く。その姿に何も言えなくなって、素直に従った。


「私に任せて」


 マウ先生が、私たちとオリハ先輩の間で立ち止まる。つられて私たちは振り返った。


「マウ、何を考えてるんだ!」

「レンリ、ナツさんを連れて逃げて。絶対に生きて帰って」

「マウ!?」

「このままじゃ……」


 マウ先生は、ふわりと笑った。


「このままじゃ、オリハの暴走は止まらない。叱るのは担当教師の役目だわ」


 マウ先生が両手を横に伸ばすと、水の結界が貼られる。オリハ先輩の冷気の広がりを教え込むように、壁を作る。尋常じゃないほどの規模の大きさだ。


「マウ、よせ!」

「レンリ、お願い」


 取り乱すレンリ先生に、マウ先生は震える声で笑いかけた。頬がかすかにひきつっている。それでも、笑みを崩さない。その目は、しっかりとレンリ先生を見据えていた。


「ナツさんを、守って」

「……」


 ひく、とレンリ先生の喉が鳴る。マウ先生の水の障壁は端から凍結されていき、私たちとの間を阻んでいく。だが、それ以上はまだこちらに冷気が来ていない。


「……っ」


 レンリ先生が再び手を引く。私は何も言葉を発せず、ただついていく。頭が焼けるように痛い。思考回路がひりつき、身体はただ逃げることしかできない。魔力も空っぽで、私にできることは何一つない。


「……っうああ!」


 私は、苦しみを吐き出すように、声を上げた。前を行くレンリ先生の引く手が異様に熱く、握る力があまりにも強い。そのことが余計、私の胸を焦がした。



 どれだけ走っただろう。気付けば、レンリ先生が権限を使って起動した退出門をくぐってマヤ・ナイラに戻ってきていた。目の前にそびえる塔の前で、私たちは荒い息をして膝をつく。


「……ナツくん」


 レンリ先生が顔も上げずに言う。


「時計塔を登って。校長に会いに行くんだ」

「え……」

「これは、校長からの指示。君は、ひとりで、この塔を登らなければいけない」

「……」


 レンリ先生は胸をかきむしるように握り拳を作る。


「……こんな時にまで、校長の言うことを聞くしかできないなんて」

「レンリ先生……」


 レンリ先生は頭を振って鋭く言った。


「……早く行って!」

「……はい」


 悲痛な様子のレンリ先生を置いていくことに躊躇いはあったが、それよりもきっと一人になりたいのだろう、と思った。それに、私は私で、戦うべき相手がいる。

 塔を見上げる。私の身体はボロボロで、魔力の状態なんてひどいものだ。こんな自分のまま、校長に相対しなければいけない。


「……でも、行かなきゃ」


 自分を鼓舞するように呟いて、塔の扉を開く。クラウンの教師にしか開けない扉は、私を迎え入れるようにあっさりと開いた。

 踏み入れると、内部が強い闇の力に溢れているのを感じた。でも、闇だけではない。光の力との調和が取れていて、しんと静寂に包まれている。カン、カン、と歩みを進めるたびに響く自分の足音は、不思議と嫌ではなかった。螺旋階段を一段一段、ゆっくりと登っていく。身体が火を噴くように熱い。それでも、塔の内部は私の傷付いた全てを浄化するように優しかった。


「……っ、はぁ」


 時計塔のてっぺんに、校長室はあった。ひどく長い螺旋階段を登りきった頃には、頭がのぼせるほどに息が上がっていた。

 私は目の前の扉をノックする。重たい音が響いた。アンティーク調の模様が繊細に刻まれた木製の扉は、見ただけで高価なものだと分かった。扉だけではない。長い螺旋階段は全て大理石でできていたし、壁は外の音をまるで通さない。この時計塔自体が、まるで城のような別次元の空間だった。

 解錠する音がして、私はドアノブに手をかけた。この先は、マヤ・ナイラの中心部だ。心臓がいやに鳴る。眉間にしわを寄せて、覚悟を決める。質量のある扉を開いて、中の空間に足を踏み入れた。

 暗い空間に、ぼんやりと光が差していた。青白いステンドグラスを通した光によって、重厚なテーブルが照らされている。セットで造られたのであろう椅子には赤黒い布が張ってあり、小柄な女性が退屈そうに腰掛けていた。


「やあ、よく来たね。待っていたよ」


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