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マヤ・ナイラの残響  作者: よるん、
第1章「オリハという先輩」
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第3話

 マヤ・ナイラの座学はほとんどが選択授業だ。自分でカリキュラムを組み、学んでいく。時間が被っていなければどんな組み方も可能なので、やろうと思えば座学はほとんど受けず、実習だけ受ける……なんてこともできる。ただ高い学費の支払いがあるので、親に出してもらっている分学んだ方がお得だ、というのが私の考えだ。

 今日の午前中の授業は魔物についての授業だった。現代において、魔物が人前に現れることはほとんどない。国家公認の魔法使いが処理しているからだ。

 世界最高峰と呼ばれる魔法学校、マヤ・ナイラを内包する我が国には、上流階級の一家が集まる。かくいう私の両親も、本国を離れて私をマヤ・ナイラへ入学させるために移住してきた。だからなのか、一族の私に対する期待は強く、子供ながらに気張ってしまう。マヤ・ナイラはあまりにも特殊な場所で、敷地内に漂う魔力の濃さも市街とは比べ物にならない。だからこそ、呑気に学園生活を謳歌している学生たちを見ると腹が立つのだ。

 とはいえ、私自身も一族に対して強い思い入れがあるわけではない。両親に対する感謝はあるが、物心ついた頃からこの国で生活していたので、期待されている、と聞いてもあまりピンと来ないのだ。頑張らなければいけないと思いつつ、卒業に対するモチベーションはやはり持てない。言われるがままに勉強し、マヤ・ナイラに入学した。そして今の自分にやれるだけのことはする。身を守るために、魔力の制御は習得する。でも、その先のことまでは分からない。夢も目標もない。そんな曖昧な自分に、少し嫌気がさした。


「君たちも、卒業したら国家公認の魔法使いになるかもしれない!」


 パワフルな若い教師が熱弁した。魔物の授業の先生は、魔法を扱う能力は比較的低い。その代わり、魔物や魔法生物に対する知識が豊富で、研究をしながら教鞭を取っているらしい。


「公認の魔法使いは、魔物を倒す任務にあたる。その時には是非、研究材料を僕に……あ、いや、なんでもないよ。是非僕の知識を役立てて欲しいな」


 ちゃっかりした発言に、笑いが広がる。人懐こく、キラキラした目で魔物のことを語る先生の授業は人気だった。教室にも色々な広さのものがあるが、彼の授業は一番広いタイプの教室で行われている。生徒たちは魔物に興味があるのか、それとも、先生に興味があるのか、どちらかは分からなかった。


 授業が終わると本校舎を出て食堂に向かう。だいたいの生徒が同じ場所を目指すので、人の流れは毎日凄まじい。でも、それでも余裕があるほどに敷地内は広かった。本校舎も、食堂も、学生寮も、建物はすべからく大きい。とりわけ目立つのは、本校舎の向こう側にそびえ立つ時計塔だ。ほとんどの人間に立ち入りが禁止されているが、遠くからでも分かるほど豪奢な造りとなっており、どこからでも見えるほど存在感が強い。マヤ・ナイラのシンボル、という訳だ。


「お、ナツくん発見」

「……げ」

「げ、とはなんだ。声をかける度に嫌な顔をされて、先生は悲しいよ」


 大げさに肩をすくめ、レンリ先生は私の横を陣取った。


「これから食堂かい? ご一緒してもいいかな」

「嫌です」

「つれないなあ。どうせこの後実習なのに」

「どうせ実習で顔合わせるのに、ご飯の時間まで一緒にいたくないです」


 悪癖だと分かってはいつつも、レンリ先生にはつい刺々しい言葉を使ってしまう。軟派な態度のレンリ先生は、本当に私の苦手な人種だった。口調が軽くて、誰とでも親しくできて、優秀なくせに努力を見せない……。天才、と呼べる人間なのだろう。教え方もうまくて、生徒たちから評価されているのも理解できる。でも、だからこそ悪態をついてしまう。私は堅実な人間が好きだ。マウ先生の在り方は、その理想形だった。でも噂によると魔法の実力はレンリ先生の方が上だという。そう噂されていること自体が、なんだか納得がいかなかった。


「まぁ、ナツくんが嫌でも隣で食べるけどね。伝えたいこともあるし」

「伝えたいこと?」

「合同実習のお相手のこと、事前に伝えておけってマウちゃんに怒られちゃってさ~」


 レンリ先生は拗ねたように言った。私はため息をついて見上げる。


「やっぱり合同実習のこと忘れてたんですね」

「わ、バレた。いやー、組んだのは覚えてたんだよ? でもまさか今日だとは。あはは」

「……あんまりマウ先生に迷惑かけないでください」

「えー、大丈夫だよ。マウちゃんなら許してくれる!」

「そんなこと言ってたらまたしごかれますよ」

「マウちゃんにしごかれるなら本望かな~、なんて」


 今度こそ二の句が継げなくなって、押し黙る。レンリ先生とマウ先生は同時期に卒業した。だがこの学校において卒業の条件は人によって違うので、時期は大抵バラバラだ。ということは、ふたりは同じ条件でペアを組んでいた可能性が高い。ある程度親しい間柄なのだろう、ということは私にも分かる。

 生徒たちの中には、レンリ先生とマウ先生が付き合っているのではないか、なんて不埒な憶測を立てている人も少なくない。でも、私は絶対にありえないと思っている。というか、ないと思いたい。

 食堂で昼食を注文し、席につく。後ろからぴったりとレンリ先生がついてきて、隣に食事のトレーを置いた。


「まあ、食べながら聞いてくれたまえ。マウちゃんこと、マウ先生の教え子で、今日の合同実習の相手。名前はオリハくん。ナツくんよりひとつ先輩の男の子だよ」


 レンリ先生の話を一応耳に入れながら、私はビーフシチューをスプーンですくった。


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