第22話
「こんにちは、ナツさん」
約二週間ぶりに会ったオリハ先輩は、いつもと変わらず制服姿だった。かくいう私もそうだ。私たちはマヤ・ナイラの生徒として祝祭の準備を手伝うことになっている。だからマウ先生の指示で、制服を着用して集まっているのだ。
「お久しぶりです」
オリハ先輩はにこっと微笑んで応えた。その仕草もいつも通り、繊細な美少年といった様相だった。卒業試験のことで悩んでいるような雰囲気は感じられない。どこかで話したいと思いつつ、話題の切り出しは難しそうだ。
「ふたりとも、お手伝いありがとう」
指定された待ち合わせ場所に、マウ先生がやってくる。ここは国の中央にある大広場だった。祝祭の時にはここが大規模なお祭り会場になり、出店や催し物で賑わう。ぐるりと見渡すと、そこかしこで出店の骨組みを組み立てている人たちや、お祭り用の看板を設置している人などが散見された。大広場の会場が出来上がってくると、いよいよ祝祭のムードになってくる。
「僕たちは何をすればいいんですか?」
オリハ先輩の問いに、マウ先生は頷いて鞄を渡してきた。
「まずはこれを。当日、大広場に出店するお店のリストと、専用の機器が入ってるわ」
「専用の機器?」
鞄を受け取り、中を覗くと馴染みのない小型の機器が入っていた。それと、羊皮紙の束が詰まっている。
「えぇ。一般に普及されている端末に、祝祭用の確認コードを送信するだけの機能しかないけれど」
「確認コード……身分確認ってことですか?」
「そういうことよ。祝祭には色んな身分の人間が集まる……怪しい動きをされたら困るから、出店者には事前にコードを仕込んでおくの」
「なるほど……?」
正直、機械に関する知識はあまりない。だが、マヤ・ナイラの仕事としてあるからには何かしらの意味があるのだろう。
「つまり、今から僕たちはリストに書いてある方々に会いに行って、コードを仕込んでいくという訳ですね」
「えぇ。機器は勝手に感知するから、鞄に入れっぱなしで構わないわ。あなたたちは、皆様に挨拶と確認事項を伝えるだけで大丈夫」
私はほっと胸を撫で下ろした。そのくらいなら、機械の知識がなくても大丈夫そうだ。
「それじゃあ、私は他にも用事があるから……質問がなければ行くわ。よろしくね」
マウ先生は自身の端末を取り出して、早足で去っていった。なんだかとても忙しそうだ。
「行こうか、ナツさん」
「はい」
散歩に行くような気軽さで、私たちは歩き出した。大広場を抜けて、商店街へ向かう。道中でリストを広げ、経由ルートをあーだこーだと話し合っていた。
「商店街を一通り回った後が悩みどころだよね。結構郊外のお店も出店するみたいだ」
「そうですね……到底一日では回りきれませんし、距離的にも郊外は別日に回した方がいいかもしれません」
「そうだね。じゃあ今日のところは商店街と、抜けた先の周辺を可能な限り訪れることを目標にしようか」
「はい!」
作戦会議をしていると、なんとなく課題で話し合いをしたことを思い出して頬が緩んだ。
「どうしたの、機嫌良さそうだね」
「……え、いえ、そんなことは」
愛おしそうに柔らかく微笑まれると、何も言えなくなってしまう。ずるい、と思いながら視線を外した。
手伝いの内容はシンプルで、私たちは滞りなく挨拶回りを終えていった。確認事項を共有し、紙を一枚手渡す。商店街の人たちは親切で、マヤ・ナイラの生徒として手伝いをしていると言うと笑顔で対応してくれた。お土産として何か持たせてくれる人もいた。あっという間に商店街を抜け、住宅地に出る。オリハ先輩は、緊張が抜けたようにふうっと息をついた。
「……いい人たちだね、みんな」
その声色に、どこか寂しいものを感じて振り返る。だがその頃にはオリハ先輩の気配はいつも通りに戻っていた。
「どう回ろうか」
「そうですね……」
このあたりは私の家の近くだ。リストを見ると、私の家もしっかり入っていた。分かってはいたことだが、気が重くなる。
「どうしたの?」
「……実は、私の家も回らなきゃいけないみたいなんです」
「ナツさんの?」
「はい。……私の家は、呉服店なので」
ため息をついたが、オリハ先輩は私の言葉に興味を持ったようだった。
「へえ。行ってみたいな」
「えぇ?」
あからさまに嫌そうな顔をする私に、オリハ先輩はにこにこと機嫌の良さそうな笑みを見せた。
「ナツさんのご家族はどんな人?」
「……普通ですよ」
突っぱねるように言うが、オリハ先輩は笑みを崩さない。
「どっちにしろリストにあるなら行かなきゃいけないし」
「それは……そうですけど……」
私は観念して肩を落とした。たしかに、どうせ回らなきゃいけないなら最初に済ませてしまった方がいい。私は歩き慣れた道を進み始めた。
「そんな期待しないでくださいよ」
オリハ先輩は上機嫌で私の後をついてきた。




