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マヤ・ナイラの残響  作者: よるん、


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第2話

 マヤ・ナイラの本校舎には、数多くの教室と実習室がある。生徒たちは支給された端末から、日々の授業や実習を確認する。端末には他にもチャット機能や通話機能があり、学校からのお知らせが届くこともある。こういう機器自体は世界中で使われているものだが、支給されたものはマヤ・ナイラ独自に作られた特別仕様だ。一般的な機器とは違い、魔法を完全に遮断する回路が備わっている。魔法をうまく使えば、機器の改竄さえできてしまうからだ。一般的な機器にも多少は妨害する力があるが……優秀な魔法使いが悪意を持って扱えば突破されてしまうだろう。だが、特別製の支給端末は完全に遮断する。一体どういう技術なのかは分からないが、これ自体が一種の魔導具であるらしい。

 魔法とは自然の力を自在に操る技術だ。人が扱うにはあまりに高度であり、危険も大きい。ほとんどの人にとっては縁のないものだ。だが、世界にいくつか存在している魔法学校という場所では、その高度な技術が学べる。だから上流階級の人々は子供に魔法を学ばせることが多いのだ。


「本当に実習が割り込まれてる。あのクソ教師」


 悪態をついて、端末を操作した。昨日までは表示されていなかった合同実習が、今日のスケジュールに組み込まれていた。


「マウ先生がこんなに雑な組み方する訳ない。レンリ先生、ずっと忘れてたな」


 大きくため息をつく。合同実習といっても、様々なものがある。実戦を意識した模擬戦闘、お互いの魔法を組み合わせ、使い方を学ぶ協力戦闘。現代において、実際に魔法で戦闘するなんてことはほとんどない。それこそ卒業生が魔物を討伐しに遠征するくらいのものだ。

 人に害をなす魔物というものは存在する。だが彼らは堂々と街に現れることはない。陰に潜み、力を蓄え、人々を襲撃する機会を狙っている。直近で大規模な戦争があったのは、およそ二百年前だという。つまりこの二百年の間は、一部の優秀な魔法使いが裏で力をつけ始めた魔物を処理するくらいで、日常で戦闘が発生することなどないのだ。


「戦闘の練習がしたいわけじゃないんだけどな。まぁ、マウ先生に教わるならいいか」


 マウ先生から教えを得られるとなったら、こちらも半端な心では向かえない。最初の授業まではまだ時間がある。私は生徒たちが自由に出入りできる中庭へと向かった。

 空の見える広大な中庭には結界が施されており、自己鍛錬の場にもなっている。だが課題が多く出されるこの学校で、わざわざ自分磨きなどする生徒は多くない。それゆえに静かで落ち着く居場所となっていて、私は気に入っていた。

 魔法には興味がない。それは本当のことだ。だがなんの因果か、自分には魔法を扱う才能があるらしい。目を閉じると、身体のいたるところに魔力が走っているのを感じ取れる。感情を荒ぶらせれば暴発する危険すらあるものだ。マヤ・ナイラの入学が認められたのは、この魔力の奔流が認められたからだろう。入学当時はそれほど気にしていなかったが、制御を学ぶにつれて体内の魔力を意識することが増えた。良いことなのか、悪いことなのかは分からない。知らない方が良かったのかもしれない。でも魔力で人を傷付けるよりはいいか、とも思う。

 ベンチに腰掛けると体内に意識を向ける。魔力の動きを観察すると、足を通じて地面からエネルギーが流れ込んできているのを感じた。どうやら元々、大地との繋がりが強いらしい。こういう中庭のような空間に来ると、いっそう流れ込んでくる力を感じる。私はこの力を自らの意思で制御し、時には他のエネルギーに変換し、操らなければいけない。自分の魔力を自在に操るという高等技術は、戦闘に使うだけのものではない。あらゆるものの構造を把握し、御するために使える。だから、魔法学校で学べることというのは人生において決して無駄なことではない……と思う。私には目標もやりたいこともない。魔法を極めて卒業する、なんてことに興味を持てない。けれど、高い学費と入学素質というハードルの高い条件に恵まれているのなら、真面目に勉強をすることに意味はある。


「午前中に授業が一コマ、お昼休憩を挟んで、午後からは合同実習……か」


 だらりと足を投げ出す。足の裏からの魔力の供給が絶たれる。それでもなくなったわけではない。体内の魔力はつつがなく流れている。それに、なにも供給は大地からだけではない。中庭には様々なエネルギーが強く存在している。呼吸をするだけで、自分と世界の間で魔力の交換がなされる。その度に、私の中の魔力は呼応し、ゆっくりと変化していく。


「……相変わらず、調子がいいね」


 自嘲する。望んでこの力を持って生まれたわけではない。でも、人によっては喉から手が出るほど欲しい能力だろう。鍛錬によって、魔力の動きや構造が徐々に把握できるようになった。世界に漂うあやふやな力が、私の中で輪郭を帯びる。


「……よし。そろそろ時間かな」


 確認作業を終えて立ち上がる。午前中の授業を受けるため、私は教室へと向かった。

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