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マヤ・ナイラの残響  作者: よるん、
第1章「オリハという先輩」
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第18話

 魔物の頭部はゆらりと赤い目を光らせると、闇の力の塊である手を伸ばしてきた。それは先端が尖っていて、私たちを突き刺そうと迫ってくる。地面を蹴って避けると、風の力を利用して空へと舞った。


「……デカブツ……っ」


 上から見ると、魔物の規模がありありと分かった。巨大な泉の全体を覆うように、頭部が出てきている。それは首をもたげると、遠くからでもよく目立つ赤い光で私たちを捉える。


「……っ!」


 魔物は手を何本を突き刺すように伸ばしてくる。それを風のバリアでひとつひとついなしながら、考える。

 このまま防戦してても意味がない。よく観察して攻撃しないと……。でも、ここから魔物まではそれなりに距離がある。


「……いや、届かせてみせる」


 私は目の前に指で円を描く。簡易術式が浮かび上がり、魔力を込める。空気中の水分が、呼応して集まってくるのを感じた。


「渦巻けっ!」


 術式を回転させる。それに応じて、水が形を持って渦になっていく。そして魔物に照準を合わせて、勢いよく放った。

 渦巻いた水は回転を増しながら伸びて、手を何本か切り裂き魔物に命中した。不気味な咆哮を上げ、体を仰け反らせる。


「よしっ……」


 思わず心の中でガッツポーズを決める。そして、魔物の隙をオリハ先輩は見逃さなかった。ひらりと泉の目前に降りる。そして地面に魔力を注ぎ込んだ。地鳴りがして、周辺の地面が震え出す。木々もざわめき、異変を知らせている。オリハ先輩がぼこり、と手を地面に突き刺すと、魔力が伝って泉の周りの地面が盛り上がる。それは幾本もの巨大な槍となって魔物を突き刺した。


「うわぁ……」


 我が先輩ながら、派手なことをするオリハ先輩に尊敬を通り越して呆れが走る。魔物は不気味な呻き声を上げて、森全体に響かせた。土の槍が突き刺さったところから、赤黒い液体がだらり、と垂れてくる。それは周辺の地面を染めて、オリハ先輩はまた地を蹴って舞い上がった。


「……悪いお知らせがあるよ」


 オリハ先輩は私の隣に来ると、視線を魔物に固定したまま言った。


「悪いお知らせ?」

「うん。泉の近くまで行って分かった。魔物の頭部は封印で力の強さは抑えられてるけど、魔力自体は泉の中と繋がっている」

「……ということは……」

「うん。あれを傷付けたとしても、魔力がある限り再生する……しかも、全体の総量は未知数だ」


 オリハ先輩が言った通り、魔物は雄叫びを上げて土の槍を振り払った。そして、みるみるうちに傷が塞がっていく。どろりとした赤黒い液体は地面を染め上げただけで、頭部はすっかり元通りだった。


「……どうします?」

「分からないけど……相談させてはくれないみたいだ」


 赤い双眸が私たちを睨む。先程よりも強い殺意に、身が震える。でも、ここまで来て負けるわけにはいかない。私はペンダントを握って、息を吐いた。

 より速くなった腕の攻撃をいなしていく。これだけの物量だと、身を守るので精一杯だ。


「反転する暇もないっ……」

「ナツさん!」


 オリハ先輩が私の前に出て、風の繭を織った。


「攻撃、頼んだよ」


 風の繭は魔物の手を全て阻む。だが、こんな強力な全方向防御、いつまでもつだろうか。それをしてもらうだけの攻撃を、私にできるんだろうか。……いや、迷ってる暇などない。


「……はい!」


 私は足元に術式を組む。先程の簡易術式なんてもんじゃない、より強い魔法をくれてやる。切り札は簡単に見せるものではない……模擬戦闘では使わなかった攻撃方法を、使うなら今しかない。

 幾重もの円を描いて、魔力を大量に注ぎ込む。やるなら、一撃必殺。簡単には再生できないほど吹き飛ばせば、余裕も生まれるだろう。

 足裏から魔力を注ぎ込まれた術式は、強い光を帯びる。それに応じて、森全体が震え出した。身体の魔力の感覚と、術式の制御。そして森に漂う自然のエネルギー。全てを掌握するため、全神経を注ぎ込む。


「……私に味方しろ。全て!」


 森全体の木々が動きを止まる。この瞬間、私は森の支配権を握っていた。森自体が魔物に牙を剥き、木々が魔物を襲う。そして、ぶちぶちと嫌な音を立てて頭部がちぎれる。体と離れた頭部は、異常に成長した木々によって磔にされていた。


「……やるね」

「先輩こそ」


 ふ、と笑みを浮かべる。なんとか形にはなったみたいだ。ここまで大規模な魔法を実際に使うのは初めてで、身体中から汗が垂れる。膝がずっと震えているようだった。


「切り離せば、さすがに簡単に供給は……」

「……っ、ナツさん!」

「っ!?」


 オリハ先輩の言葉に、目を見張る。頭部からの攻撃ではない。頭部は完全に磔にされていて、身動きが取れていない。だが、切り離された泉の方から……伸びた一本の手が、私を庇ったオリハ先輩を貫いていた。


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