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マヤ・ナイラの残響  作者: よるん、
第1章「オリハという先輩」
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第14話

 座学の授業を終えて、食堂へ向かう。オリハ先輩の供給と一日の休息で、魔力はすっかり回復したようだ。これなら今日からもう課題を再開できるだろう。

 課題の期限は一週間。そろそろ折り返しを迎えている。あの影の対処を考えて、レンリ先生の魔法生物を捕まえないといけない。


「ナツさん」


 私を呼ぶオリハ先輩の声が聞こえた。見ると、女子生徒に囲まれている困った様子のオリハ先輩がいた。


「……オリハ先輩」


 魅了体質から考えてそうだろうな、とは思っていたが、オリハ先輩はモテるようだ。周りの女子生徒たちは一斉に私を見て胡乱げな顔をすると、渋々立ち去っていった。


「お邪魔でしたか」

「とんでもない。助かったよ」


 隣の席に座ると、オリハ先輩の顔には疲労が滲んでいた。人を惹きつける能力も大変なんだろう。


「……事情を話せば分かってくれるから、まだいいんだけどね」

「無理に近付いて来る人とかも、いるんですか」


 オリハ先輩は悲しげにうつむく。それが答えだった。私は何も言えずに視線をそらす。こういう時に気の利いた言葉をかけるなんてスキルは私にはない。レンリ先生だったら、どうするんだろうか。


「……課題の整理をしようか」


 オリハ先輩は切り替えるようにノートを取り出した。今までの情報が綺麗な字でまとめられている。


「あ。まず、昨日はありがとうございました。おかげさまで元通りです」

「それなら良かった」


 オリハ先輩は安心したように微笑んだ。実際、オリハ先輩の魔力供給がなければ一日で復帰することはできなかっただろう。

 課題には期限がある。何日も休んでなどいられない。オリハ先輩は真面目な顔に戻って話を続けた。


「それで、ナツさんの魔力を奪った影の存在だけど」

「ホノ先生たちが気をつけてって言ってたやつですよね」


 自分の失態に舌打ちをしたくなるが、気を取り直す。過去の失敗を気にするより繰り返さないことの方が大事だ。


「昨日、ホノ先生にコンタクトを取って、話を聞いてきたよ」

「え、ほんとですか!?」


 自分が臥せっている時も情報を集めてくれてたのか、と申し訳ない気持ちになる。お昼休みや授業終わりにも魔力供給に来てくれてたのに、そこまでやってくれてたのか。


「……すみません。色々押し付けちゃって」

「気にしないで。この課題は協力制だし、そのためのバディなんだから」

「……はい」

「それに、ナツさんが影に引き込まれたことにも意味がある。僕にはその体験がない訳だからね」


 少しだけ胸を撫で下ろす。オリハ先輩があくまで課題のため、と言ってくれるのがすごくありがたかった。


「それで、あの影って一体なんだったんですか?」


 聞くと、オリハ先輩は眉間にしわを寄せた。


「ホノ先生によると、あれはいわゆる魔物の卵、のような存在らしい」

「ま、魔物の!?」


 目を見開く。そんな危険なものに取り込まれかけたのか。でもたしかに、魔力を吸収するという特性は一致している。


「な、なんでそんなものが敷地内に」

「研究のため、だそうだ」

「だとしても、危険すぎますよ」

「うん、僕もそう思う。ただ、ホノ先生によると影は森の中で封印されていて、一度も被害が出たことはなかったらしい」

「え、じゃあ、私が取り込まれそうになったのって……」


 オリハ先輩は渋い顔でため息をついた。


「原因不明、だそうだ」

「えぇ……?」


 納得がいかず口を結ぶ。先生たちはなんでそんなところに向かわせたのだろう。魔物の卵とやらを見せるため? でも、それで生徒が危険に晒されることは本意ではないだろう。


「……私が影に引き込まれた時、引き込まれたなんて感覚はありませんでした。気が付いたらランタンが消えて、真っ暗になったんです」

「ランタンが消えた、というのがヒントになりそうだね。僕から見たナツさんは、ランタンが消えた瞬間にどこかに誘導されそうになってた」

「魔力が吸われる感覚も実際よりは強くなかったです。ただ、自分の声が反響しなくて。オリハ先輩の声だけが微かに聞こえて手を伸ばしました。それで引き上げてもらった感じです」

「……なるほど。僕から見たら、ナツさんはぼんやりとしていたけど、手を上げようとしているのは分かった。その手を取ったことで、こちら側に戻ってこれたんだろうね」


 一通り森での出来事を整理すると、ひとつ引っかかる点があった。


「……あの後、レンリ先生の魔法生物が姿を現したんですよね。レンリ先生、影と私たちの様子を見てたんじゃないですかね」


 そう言うと、オリハ先輩は面食らったような顔をした。そして、神妙な様子で言う。


「レンリ先生は危険な状態をしっかり把握していて、その上で課題を止める気がないってことだよね。そうなるとマウ先生が気付かないはずがないから、承知の上ってことだ」

「……そう、なりますね」

「僕がレンリ先生に校舎の立ち入りを申請して、あっさり許可されたのも、予想の範囲内だったのかもしれない。許可だけして何も聞かず立ち去ってしまったから」


 沈黙が流れる。先生たちは、一体何を求めているのだろう。考えれば考えるほど分からなくなっていった。でも聞いても教えてくれないのだろう。


「課題は続行……となると、影への対策が必要だね。封印されている影がナツさんを襲った理由は分からない。また襲われる可能性は高いと思う」

「……はい」


 ぐっと拳を握りしめる。影はどうして私を狙ったのだろう。レンリ先生の魔法生物はどうしてあの場にいたのだろう。分からないことだらけだ。


「レンリ先生の魔法生物は、光を放っていました。目が合ったら素早い動きで消えてっちゃいましたけど」


 光や闇は本来、自然を扱う魔法の中でも最上級に難しいものだ。それを魔法生物として扱うレンリ先生は、やはり天才の類なのだろう。でも、それを私たちがどうやって捕まえるというのだろう。


「影の対策と、光る魔法生物の捕獲……また、ホノ先生に聞いてみた方が良さそうだね」

「はい」


 オリハ先輩が端末を操作する。ホノ先生にチャットを送っているようだ。

 私はそれを眺めながら、不安な気持ちを抱える。このまま課題を続けていくことで、とんでもないことに巻き込まれそうな予感があった。影の暗闇の感覚を思い出して、ぶるっと寒気がする。私は自身の肩を抱きしめた。

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