繋り
「旭~っ!!」
それはもう突然のこと。私の探していた名前が、目の前で呼ばれたのだ。
場所は1年5組の前の廊下。1限目の移動教室で、5組のすぐ隣にある教室に入ろうとしたところだった。ある女の子が私の真横を通り過ぎながら、5組の教室へと入っていく。私は即座に教室の中を覗き込む。
女の子の向かった先には……
伊東くん…!!
女の子と伊東くんが、会話している。女の子はと言えば、とびきりの笑顔だった。伊東くんと話すことに喜びを感じているみたいで、とにかく楽しそうにしている。
私は今確かに、「あさひ」という名前を聞いた。大きく、はっきりと。伊東くんはやっぱり、あの時の男の子ーーー…。
下の名前が同じなら、もう確定だよね…?
何より、その女の子は小柄で、すごく可愛い子だった。髪は肩くらいまでの長さでふわふわしてて、おろしているけど赤いリボンで一部の髪を結んでいる。
とにかく分かるのは、女の子から一方的に伊東くんに話しかけているということだ。伊東くんはずっと真顔のまま、時折言葉を返している。ただ女の子の積極的な姿勢に迷惑しているような感じは一切感じられない。嬉しそうでも嫌そうでもなく、ずっと同じ表情で、落ち着いた様子。普段はこんな感じで人と話すのかなぁ。
2人は仲が良いのかな。しかも下の名前で呼ばれてるなんて。伊東くんはあの子のことなんて呼んでいるんだろう。もしかして、付き合ってたり……
色々と疑問が浮かび上がってくる。
近くの席に集まっていた男子数人がその様子を見ていた。
「おまえらほんと仲良いよなー」
「伊東とそんな近い女子なんて野口しかいねーぞー」
「そろそろ付き合っちゃえば~?」
なんの躊躇もなく、2人を冷やかし始めたのだ。
「なっ…!!」
女の子は顔がを赤くして、何かを言い返そうとした。
でもそれより先に口を開いたのは伊東くんだった。
「違うから」
伊東くんの一言で、男子たちは静まり返る。
「七音はただの幼馴染。だから必然的に話すだけ。」
幼馴染…
「なんだよほんとそれだけかよ~」
「幼馴染なのは知ってるわーw」
「幼なじみとかめっちゃ怪しい関係じゃねぇかよ~」
騒ぎが収まったかと思えば、男子たちが再び騒ぎ始めたのだ。
「あと、」
伊東くんが少し強めの口調で言う。
「今後また俺らにそういうこと言ってきたら許さないから」
その一言で、男子たちは一気に凍りついたように見えた。
立ち位置的に、私からは伊東くんの後ろ姿しか見えなかったけど、どんな表情をしているかは想像がついた。きっと男子たちのことをきつく睨みつけているのだろう。
…ていうか私、いつまで覗いて…
すると幼馴染の女の子、七音ちゃんは教室を出ていってしまう。私のいたほうのドアから出てきたから、目の前を通り過ぎた。
そのときの顔は、すごく印象的なものだった。どこか悲しそうで、もどかしい表情。まるで、好きな人に振られてしまったかのような…。
どうしてか、七音ちゃんの気持ちにはすぐ気づけた。
伊東くんも、七音ちゃんの好意には気づいているのかもしれない。でもこれは、幼馴染として守ったというだけで、伊東くんなりの優しさだ…
どんっ
「あっごめんなさ…」
七音ちゃんが誰かとぶつかった。
「おー七音じゃん!なんかひさしぶりだなー」
待って、この声…
おっ…お兄ちゃん…?!!
そこには、次の授業の教科書類一式を持った兄。
えっ…あの子と知り合いなの?!
でも、もう驚いている場合ではなかった。
「よー香恋じゃねぇか!お前も授業このへんでやんの?」
兄に見つかった…。
「えーっ!!カレンって、水谷センパイの言ってた妹さん?!」
「そー、コイツが俺の妹。香恋!コイツ七音は六歌(※兄の彼女)の妹だから。仲良くしとけよー?」
さっきまで傷ついていたとは思えないほど、七音ちゃんは興味津々な様子でこちらに近づいてきた。
「あなたが香恋ちゃんかー!センパイの妹だけあって、めっちゃかわいいねー!」
「えっ…あ、ありがとう…?」
えっと、、何この状況ーー!!!!!
そして、七音ちゃんは私に向かって目をキラキラに輝かせて言った。
「ねぇ香恋ちゃん!友達にならない?」




