回想1
これは私が小学校6年生のときの話。
季節は秋。冷気を帯びた秋風が吹き、木の葉も散り始める時期だった。
水谷香恋、12歳。モテます。
よく下駄箱に知らない男子からラブレターが入っている。同じクラスなどの知っている男子からのもあるけど、大半は話したことすらない人からだ。ちゃんと便箋に書いた手紙を封筒にていねいに入れてあるものもあれば、折り紙をハート型に折ってあるもの、自由帳をちぎってメッセージが書かれているものまで、様々だ。校舎裏に呼び出され告白されることも多々ある。
放課後になると、今日も下駄箱に紙切れを見つけた。「帰りの会が終わったら、体育館の裏にきてください」とだけ書かれていた。
これはおそらく告白。
今日は帰ったらすぐ見たいテレビがあったのに…!差出人の名前もないから、はやくその人を探し出して今度にしてくださいとかも何も言えない。呼ばれた体育館裏へ行っても相手がすぐに来るかどうかもわからない。
どうしよう…。と悩んでいたら、昇降口を出た外から女の子の叫ぶような大きな声が聞こえてきた。
「私とつき合ってくださいっ!」
これは告白現場だ!
告白される分には慣れている、というのもおかしいか。されることはよくあるけれど、他の人の告白場面は見たことがなかった。
私はついつい昇降口を出て、校舎の陰からそちらを覗き込んだ。
校舎と校舎の隙間のひっそりとした場所に、ツインテールの女の子と、見知らぬ男の子が立っている。
「あさひくんってさ、私のことよく助けてくれるじゃん?それで好きになりました。もしかして両思いなんじゃないかなって…」
すごい。ただ好きで告白したんじゃなくて、ちゃんと両思いかもっていう自信があって告白できるなんて。お互いに関わりあったことも殆どないのに告白されてばっかりだった私にはなんか新鮮だった。
すると、それまで告白を静かに聞いていた男の子が口を開いた。
「ごめん」
「…え?」
「俺好きな人とかいないし。ていうか、人助けるとかって当たり前じゃない?」
……ん?
「そもそも俺らって大して話したこともないのに、勝手に都合よく考えられても困るんだけど」
なかなか厳しい返事が返ってきたのだった。
するとその瞬間。
バチーーーン!!!
女の子が、男の子の頬を引っ叩いた。
「だったらなんでっ!なんとも思ってない人に優しくしたりするの…?!」
女の子は泣きそうになって言う。
「勘違いさせないでよーーーーーー!!」
バチーーンッ!!
さっきと同じ音が校舎の間を伝って響き渡った。今度は、男の子が同じように女の子の頬を容赦なく叩き返したのだ。
女の子は、その状況を理解できないほどの驚いた様子で目を見開き、叩かれた頬に手を当てたまま、しばらく立ち尽くしている。静まりかえった空気の中、ただ時間だけが流れていた。
「「あさひくんサイッテー!!!!!」」