蘇る
やっとの伊東君登場回。
「カッカカカカレンさん‼️」
次の日の放課後のこと。皆帰るか部活に行ってしまい人が少なくなってきた頃の廊下で、知らない男子に呼び止められた。その人はピアスをしていて、髪の毛にはピンをいくつか付けて留めている。制服は緩めの着こなし。まとめて言うとチャラそうな見た目の男子だった。同じクラスでもなければ、話したこともない。学校で見たことすら記憶になかった。
「きのうの手紙なんだけど…読んでくれたかな?えっと返事はーー…。」
初対面で何かと思えばこの人、あの名前のなかった手紙の差出人か!納得した。
え~~~っと……
ふと、きのうの兄の言葉を思い出す。
「一歩踏み出さないと過去から抜け出せないまま」。
そっか。いつもは話したこともない人に告白されたら、それっきりもう話そうとしなかった。無意識のうちに自分で、壁を作っていたんだ。でも、知ろうとしないと何も始まらないか…。今まで何も考えず断ってきた人たちに申し訳なさを感じた。
断るという方法以外の選択肢を選んだのは、始めてだった。兄のその言葉が響いてしまったのだ。
「じゃあ…友達から始めてみるっていうのはどうかな…?」
「エッ?!」
かなり大きな声で驚かれた。その男子は興奮気味な様子になり、
「ってことは試しに付き合ってくれるってことだよね!?うぉぉぉヤッターー!!じゃあライン交換しよ!!」
え………?
なんでそうなるの…
どうして「付き合う」という解釈になったのか。意味が分からない。
連絡先交換だけはできるだけ避けたかったというのに。
こういう男子のタイプは手ごわい。説得するにも時間がかかる。というのは、経験からして、見ればわかっていたはずだ。でも、決めつけはいけないと思ったから……。
「あの…そういう意味で言ったんじゃ…」
あの提案以降、私の発言は耳に入っていないようで、いーからいーから!と迫られる。
どうしよう…!!!
ガラッ!!
そのとき、教室のドアが勢いよく開いた。バンっ!と大きな音をたてて、ドアが全開に開けられた。すると中からある男の子が出てきた。
『嫌がってるってわかんないの?』
それも低い声が廊下に小さく響いた。チャラめ男子のことをまっすぐに睨みつけている。
ちょうど近くに居合わせた男子が、介入してきてくれたというのだ。
彼の表情はより険しくなり、続けて言った。
「男ならそういうの一番に考えるべきだよね。そもそも付き合うなんか一言も言ってねぇよ」
まさにその通りなことを、ズバッと言ってくれたのだ。その人はそう言うとすぐに、廊下を歩いて行ってしまった。
この感じ…この感覚。
どこかで感じたことがあった。
「いっ伊東?!もしかして全部聞いてたのかよ…」とチャラめ男子が焦る。
あの人は、伊東くんって言うんだ…
あの時と違うかもしれない。でもーー…
私は迷わず駆け出した。
「あのッ!いまの…ありがとう…!」
その人の背中に向かって伝えた。
するとその人は振り返って、微笑みながら、「ん。」と返してくれた。
この瞬間が忘れられない。
この気持ちは、たしかに
過去に私が感じたものだ。