オトコレの危機
オトコレが…終わり?!
「ちょっと!私の10年の努力は何だったのっ!?」
「オトコレは決してムダになってない。コイツを元にお前の理想像を明確にするんだ。振り返ったらいろいろと見えてくるはずだ。
…これは俺が預からせてもらう。その時が来たらちゃんと返すから」
なっ…なんでお兄ちゃんが!
本人が見れないと意味ないじゃん!
「いやいーって!私のことは私がどうにかするから!」
「いや、客観的な考えが一番必要だろ」
そんなーーーーー…。
あのあと、口論の末、オトコレノートは兄によって回収された。いや、隠されたといった方が正しいだろう。
次の日。
「えー、それではお待ちかねのノートを回収するぞー」
「「えーー」」
「昨日のHRでも言っただろー。毎月恒例のことなんだからちゃんと覚えとけ。忘れたやつはプリント課題追加だからなー」
帰りのホームルームで先生がそう言うと、教室には一部生徒から嘆きの声が響いた。
この学校では授業態度を見るための一環として、月の終わりに全教科分のノートを回収される。偏差値がお高めの学校だけあって、この学校ならではの特殊なシステムだ。4月から数えて、これで3度目となる。
私はオトコレノートを取り返すことよりも、提出物を優先しなければならなかった。より良い成績を修めるためにも、加点対象となる提出物には力を入れたい。昨晩は徹夜して、追加で問題集を解いたり、授業のメモに補足を加えたりしていた。勉強の成果が少しでも多く先生たちに伝わるようにーーー…
「それじゃあ田中!悪いが残りのノートを職員室まで頼んだ。」
「はっはい!先生!任せてください!」
HR終了後、小柄な男子生徒が、先生の持ちきれなかったノートを運ぶよう頼まれた。あの人はたしか、学級委員の人だ。クラス全員分、全教科分だからかなりの量のノートを一人で持とうとしている。その人はノートを持つと、プルプルと危ない足取りで少しずつ進んでいる。
もしやそのまま行くつもり…?
「オイ田中ー。大丈夫かよ震えてんじゃん。手伝ってやろうか」
眼鏡の男子生徒が田中君に話しかけた。その人は私の隣の席の相澤君だ。
「いや…いい。任された任務は着実に遂行せねば…。」
「相変わらず強がりだなあ…。あと、『任された任務』じゃなくて、『任務』だけでいいんじゃないか?」
「う、うるさい…」
頼んだ先生もひどいけど、田中君も田中君だ…
すると、
「うわっっ!!」
廊下に出てからすぐ、田中君がバランスを崩し、ドサドサーッ!!という音とともにノートが床に散乱した。
ダッ…!
「だっ…大丈夫ですか?!」
やっぱりやらかしたな、と。反射的に体が動いていた。あんなたくさんのノート、2人だけでは拾うのが大変だ。私はササッとノートを拾う。仕方のないことだし、順番はもうどうでもいいだろう。
一旦何冊か拾ったノートを渡すと、
「女神…?」
田中君がそう言って見つめてきた。
こういう時って、なんと返せば……。
「これはこれは隣の席の水谷さんじゃないか!なんて優しい人なんだ…!僕は生徒会書記の相澤遥斗。改めてよろしく」
「ちょっ…何でおまえドサクサにまぎれて自己紹介してんだよっ!キミ、水谷さんって言うんだ…あっちなみにおれは学級委員の田中祐司。おれら初めて話すねー、よろしく!」
なんか急に改まって自己紹介してきたんだけど!初めて話すにしてはやけに馴れ馴れしい。
「よろしくお願いします…。」
相澤君は最近席替えをして隣の席になったのだが、話したことはなかった。私たちの席は教室の一番前の右端だ。廊下側が相澤君で、その左隣が私の席。田中君はというと、私のまた左隣に1人隔てた席、つまり教卓の目の前である。先生からよく見えるうえに学級委員なのもあり、頼みごとをされやすいわけだ。
2人とも、手が止まっていたので私は残りのノートを拾おうとした。すると、
「相澤くんたちじゃ~ん!うちらも手伝うよ!」
「え~これ田中君がひとりで持つの~?」
廊下を通っていた他クラスの親切な女子が手伝おうとしてくれた。これならすぐに片付けられる…!
と、安心したときだった。
「なにこれー?『オトコレノート』…?」
………え?