長くて短い昼休み
「モテるって大変だねー香恋ちゃん…。てかどこで続き食べよっかー」
「うん…」
お姉さんを置いて、七音ちゃんと食堂へ来てしまった。一緒に席を探す。いつも来る時間なら混んでいる食堂も、昼休み後半ということで、空き始めていた。
「あーーーーっ!旭だぁっ!」
「えっっ?!」
七音ちゃんが急に大きな声を上げた。その先には、伊東くんがいた!
4人掛けの机で、一人黙々と学食を食べている。
食べていた唐揚げ定食はまだ全然減っていない。まだ来たばっかり?
「旭は空いてくる時間狙ってんだよねー!のんびりできていーかも!いま来たの?」
「…そーだけど」
私たちのほうを見たのは最初だけで、あとはこっちも向かず、唐揚げを食べながら返事をしている。ザクっと、揚げたてならではのいい音がした。
伊東くんも、食堂でお昼を食べていたんだ。もしかすると、これまでも何度か出会えるチャンスがあったのかもしれない。
唐揚げ定食に向き合い、よく噛んで食べている。食べるのに集中したいみたいだけど、七音ちゃんはそれを全く気にしないで話しかけている。そしてとんでもないことを言い出した。
「そだ、私たちも一緒にいー?」
そんなっ!!伊東くんと一緒にご飯だなんて、恐れ多い…!
伊東くんはちょっと驚いたみたいで、食べていたものをゴクンと飲み込む。
「え、やだよ」
即答だった。
最近話すようになったくらいの私と食べるなんて気まずいし、そりゃあ嫌だよね…。
「そんなこと言わずに~!それじゃ、お邪魔しまーす!」
えええええ?!!
七音ちゃんが遠慮なくどかっと、伊東くんの真横の椅子に座りだした。きっぱり断られたというのに…!
「ささ香恋ちゃんも!」
「そんな!伊東くんに迷惑だろうし…私は遠慮しときます…」
私はいつものパーテーションのある壁側の一人席に向かおうとした。
「まーいーけど」
まさかの伊東くんが、受け入れてくれた?
私は恐る恐る席についた。伊東くんの目の前の席だと緊張するからその横、つまり七音ちゃんの前に座ることに。
あの伊東くんが、斜め前にいる…!
この場所なら、伊東くんがどうしても視界に入ってきてしまうから緊張しっぱなしだ。
ってことは…。
ふと我に返った。ラウンジでの話の続きを、ここですることになるの…?!伊東くんに私の恋愛事情を聞かれてしまうーー…
「水谷さん小学校同じだったよね」
なんと伊東くんから、話を持ち出してきた。それも、伊東くんがあの時の男の子だということを決定付けるかのような発言だった。
「えぇえーっ!てことは私たちも一緒だったってこと?!」
七音ちゃんもそれには驚きを隠せない。
あんな昔の話なのに、私のことを覚えていてくれていたなんて、ただただ信じられなかった。当たり前のように言うものだから、どんな心情なのかも全く読めない。伊東くんは変わらずに、平然と学食を食べ続けている。
「やっぱりそうだったんだ!私もそうかなって思ってて…でもよく分かったね…?!」
「まぁね。てかそっちこそ」
「いやなんか印象強すぎて…」
「えーっなになに旭の黒歴史!?超気になるんだけどーっ…(モガっ)」
「七音うるさい」
伊東くんが、七音ちゃんの口を手で塞いだ。距離感が近くて、ほんとに仲良いんだなぁ…。
「ほんとすごいよね、高校で一緒になるなんて…」
あれから何があって、今に至るのか。そういう話に持っていきたい。今が聞き出すチャンスだ。アメリカのこととか、苗字が違うとか、どうしても気になってしまう。
あれから見かけないねとか言えば、伊東くんのことを探してたみたいに思われるし。なんと言えば…
「ふたりは小さい頃からずっと一緒なの…?」
「…まぁ、そんな感じ」
我ながら気の利く質問をした。伊東くんはそっけなかったけど、七音ちゃんが教えてくれたのだ。
「旭はねー。小学校卒業前に親の都合でアメリカ行っちゃったの!それまでは幼稚園からずっと一緒だったのにそれ以来会えなくなってー!親の再婚とかあって高校から日本に戻ってくるって聞いたから一緒のとこ行くことにしたんだー!」
「高校は七音がついてきただけだけどね。2人で一緒のとこ行くって約束してたみたいに言わないでくれる?」
「もーーっ!いーじゃんっ」
なるほど…!!!
七音ちゃんのおかげで、今まで気になってきた伊東くんの謎が、全て解けたような気がした。
伊東くん、伊東くんの幼馴染の七音ちゃん、そして七音ちゃんのお姉さんで私の兄の彼女の立歌さん。たった1時間のなかで3人と話せた。長くて、あっという間で濃密な昼休みとなった。